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2003年12月23・24日
川口節子バレエ団公演「舞浪漫03」
「アイディアとチャレンジが感動を生む」
うらわまこと
[2004.1.14]
川口節子という名前を知っているだろうか。この名前を知っている人、そしてどういう人かを知っている人は、相当のバレエ通である。私も彼女をきちんと意識したのは、実はつい3年ほど前にすぎない。
ご存じない方のために簡単に紹介しておこう。彼女は名古屋で25年ほど前からバレエスタジオを開いており、それをもとに98年に川口節子バレエ団を結成、公演活動をしている。しかし、彼女を取り上げるのは、そのことではなく、ユニークな振付の才能についてである。彼女がはじめて作品を発表したのは81年、好評だったようだ。というのは私はこれは見ていないが、その2、3年後から作品発表の機会、あるいはミュージカルや劇団から振付を依頼される機会が急激に増えているからである。
ところが、残念ながら東京の方にはまったくその情報は流れてこなかった。
私が彼女の作品に触れたのは、前記したようについ最近、01年3月のことである。それもたまたま名古屋で合同公演(「中部にバレエを育てる会」)を見たときに、彼女の作品に遭遇、大袈裟でなく衝撃を受けたのだ。
それが「Yerma」。ガルシア・ロルカの文学の舞踊化で、動きもバレエを超えた現代的な感覚のものだったし、センター奥に便器を置いた美術も意表をついたが、驚いたのはこのことではない。彼女は、このスペインのやりばのない悲劇の音楽にショパンの「レ・シルフィード」を使ったのだ。そればかりでなく、なんと全曲を原作通りに並べる。そして曲ごとの出演者構成もまったく同じ、たとえば「プレリュード」は全員、男女のソロ、アダージョのところもそのままの構成でストーリーを進める。もちろん最後はグラン・ワルツで全員のにぎやかな踊りで幕。それが違和感なく見事な作品となっているのだ。
私ははまった。機会を作っては見に出かけた。彼女は多作、全部は見ていないにもかかわらず、この3年たらずのうちに、30分以上の作品だけでも「マダムバタフライ」、「神になった男」、「Les Noces」(ストラヴィンスキーの「結婚」)、「奇跡の人」がある。それ以外にも、子供のための作品や、「アジアダンス会議」への出品作品「River」、さらに小品やジャズ・ポップスに振付ものなど、新しい感覚で独創的な、そして感動を呼ぶ作品を多数発表している。もちろん、すべてが完璧な作品というわけではない。完成度にもばらつきがある。しかし、どんな作品でも、興味あるアイディアやチャレンジがみられ、極めて刺激的なのだ。たとえば、ピンカートンの背信に怒り狂う、しかしそれが悲しいマダムバタフライなど。
その彼女が年末押し迫った12月23~24日、創立25周年を記念してバレエ団公演「舞浪漫03」を開催した。2日間A、Bプロすべて違う作品、ほとんどは旧作だが、2日目に新作を発表した。それが「ある一人の少女へのオマージュ・・・アンネ・フランクに捧ぐ」。よく知られた、ナチスのユダヤ迫害の犠牲になった少女、それを日記にしたアンネの物語である。ここでは川口の新しい面を見たような気がする。それは反戦平和という意思を明確に打ち出したこと、そのために作品にアンネの物語以上のものを課したことだ。これまでも彼女は人間の問題を骨太にあつかっては来ていたのだが、これほど直裁に作品に語らせようとしたのは、私の知る限りでは初めてである。それは、具体的には、映像にヒットラーでなくイラクやブッシュを登場させ、そのスピーチを流す。また一つの場を「2003年世界6カ国会議」として、北朝鮮を巡る各国の思惑を、クルト・ヨースの「グリーン・テーブル」ばりの構成で鋭く浮き彫りにする。そして、アンネもたんに恐れおののくだけでなく、激しく怒り、戦いのむごさを告発するのだ。ただ、そのために平和の過去と戦争の現代をアンネが天国から垣間見るという構成にしているのだが、この案内人の存在や導き方がやや分かりにくくなってしまった。
意図は理解できるし、まったく同感なのだが、少し考えすぎてもってまわったところと、作者の気持ちが生に出てしまったところがあり、全体としてやや統一感に欠けたきらいがあったように思う。しかし、他の再演作品、「River」では日本をヤポネシアという感覚でとらえ、またヘレンケラーを描いた「奇跡の人」では、視覚、聴覚の障害について冒頭に照明と音響の工夫で表現するなど、才覚は素晴らしいもの。この新作も是非改訂再演して欲しいものだ。
彼女の作品を東京の観客にも見せてほしいのだが、スタジオ運営からすべて1人でやっている中でのバレエ団東京公演はなかなか難しいようだ。なんとか作品だけでも発表する機会ができれば、と思う。大阪の矢上恵子がそうであったように。
川口節子バレエ団公演 川口節子作品集(2003.12.23/24 於 名古屋・芸術創造センター)所見
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