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ニュース・コラム

舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

ダンスレビュー

 
うらわまこと [2005.1.25]

現代のドラマティックな心理バレエ [タチヤーナ]バレエシャンブルウエスト公演

   
   
   
   
   
   
   ロシアの文豪プーシキンの「エヴゲーニー・オネーギン」をバレエ化したものとしては、シュツットガルト・バレエにおけるジョン・クランコ作品(『オネーギン』1965)が良く知られている。彼はこのほかにも『ロミオとジュリエット』(62)、『じゃじゃ馬馴らし』(69)などのシェイクスピア文学のバレエ化の傑作を世に送りだしている。また、ケネス・マクミランは『ロミオとジュリエット』(65)『マノン』(74)、さらにジョン・ノイマイヤーの『椿姫』(78)、『オテロ』(85)と文学作品のバレエ化が続く。彼ら以外にも、プティ(『こうもり』など)やペジャール(『カブキ』など)、キリアン(『輝夜姫』など)も、オペラ、オペレッタ、あるいは伝説によるバレエを振り付けている。この頃(80年代)までは多少のスタイルの違いはあってもドラマと向き合ったバレエ作品があった。
 ただ、最近の世界の傾向としては、物語をみせるグランドバレエ、とくに古典の技法をベースにした作品はほとんど取り上げられなくなってきている。
 そういったなかで、今村博明川口ゆり子が主宰するバレエ シャンブルウエストでは、この2人によるこのタイプのバレエを創り続けている。すなわち、1996年に天女伝説に七夕のエピソードを加えた『天上の詩』を発表、翌年それに改訂を加えて再演し芸術祭大賞を受賞、2000年には人間(画家)と妖精の交流を描いた『フェアリーテールズ』、そして02年に『タチヤーナ』を発表、再び芸術祭大賞を受けたのである。さらに作04年には「かぐや姫』をバレエ化した『LUNA』を初演している。
 これらの作品のなかで、プーシキンの「オネーギン」をバレエ化した『タチヤーナ』は完成度とドラマの深さの点でもっとも優れている。『天上の詩』は改訂を重ね、見せ場は整理されてきたが物語の点でやや単純、『フェアリーテールズ』も同様、『LUNA』も車人形などを取り入れて日本的な雰囲気を強めようという試みは評価できるが、具象と抽象、そして象徴の融合にやや齟齬がみえた。その点、『タチヤーナ』は、率直にいって原作の良さもあろうが、複雑な物語、人間関係の骨格を明確に整理して組み立て、かつその進展に興味をもたせるように各場面をドラマティックに盛り上げていく振付法が効果をあげている。他の3作が、それぞれ人間とそれ以外の世界との交流の物語であるが、『タチヤーナ』はまさに人間社会のドラマなのである。
 端的には他の作品に比して、物語の核となる登場人物が、主役とそれに対抗する男女で4人と多く、その関係が類型的ながら単純でない(どんでん返し)ところに、作品の深みと興味が加算されるのである。技法の面でも、踊りのための踊りがほとんどなく、人間関係、あるいはその心理を表現するために踊りが設定されている。地上と天上の2つの世界を扱う『天上の詩』の形式が古典的なのに対して、この作品はドラマ表現に主眼があり、現代につうじる心理的バレエとしての手法にも進歩がみえる。出演者も回を重ねるごとにその役の意味を深いところで理解し、表現に的確性を増している。昨年初頭に、物語バレエの、そして原作の本場であるロシア、ウクライナでこの作品を上演、物語バレエの伝統が日本で守られているという意味の評価を受けたのも十分にうなずける。
 あえて問題をいえば、少し長いところ。整理するとすれば、1幕2幕のタチヤーナの夢の景だろう。夢の精やオネーギンをあえて登場させなくても、タチヤーナの思いは表現できるはず。もっとリアルに現実的に処理をしたほうが一貫性もうまれるのではないか。

 
   
 
 
  2002年度文化庁芸術祭大賞受賞作品
「タチヤーナ」
作品ダイジェスト
2005年1月12日公演より

作品動画
(画面サイズ480×360・4.8MB・1分29秒)

作品動画
(画面サイズ320×240・4.8MB・1分29秒)


   
   
  1996年度文化庁芸術祭大賞受賞作品
「天上の詩」

第1幕ダイジェスト
(作品動画・画面サイズ160×120・500k・42秒)
第2幕ダイジェスト
(作品動画・画面サイズ160×120・512k・43秒)

 
  2004年新作
「LUNA」

特別編集ダイジェスト版
(作品動画・画面サイズ480×360・5.6MB・1分48秒)