藤井 修治 | ||
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つい先日、春の恒例の全国舞踊コンクールのバレエ部門の予選で、八百人近くの若い人たち(ほとんどは少女たちです)の踊りを見ました。ピンからキリまでの妙技、珍技を審査したのですが、何よりも基本が大切だということを再確認しました。バレエを習ったことがなくても、長年みつづけていますと、参加者が舞台に現れて正面
に歩き出しただけで基礎ができているか、さらに大体の力量も読めてきますし、踊り終わると予想が当たっていることが多いのです。このことは他のあらゆることにもあてはまるはずです。 いま、国立西洋美術館で催されている「ピカソ 子供の世界」展は、ピカソが生涯にわたって描きつずけた子供の絵の数々を展示しています。人物を大胆に変形したり破壊したりした絵画で知られるピカソです。しかし、彼が十五歳の時に描いた少年像は、写 真も負けそうな入魂の写実力を誇示し、大人の画家でも及ばない高さ深さをも感じさせます。ピカソは美術学校の教師だった父から絵画の手ほどきを受けたということですが、やがて父親は息子にはとうていかなわないと絵を画くのをやめたと伝えられます。ところが、大人になってからのピカソの絵は、時代によって作風は大きく変わってはいますが、ほとんどが写 実を離れ、まるで子供が描きなぐったような感じがします。しかし子供が描いた絵とは違って、厳しい基礎の上に自由自在な表現を展開しているものといえましょう。 同じことは他の巨匠にもあてはまります。マティスのひと筆で描いたようなスケッチなども、若い時の修行の末に到達した境地です。僕が少年時代に、彼の一筆描きの絵などは簡単に描けると思って、いい気持ちで真似をして描いたのを思い出して冷や汗が出る思いです。 そういえば、彫刻や建築も土台が大切です。高層建築の基礎工事は、うんと深くまで掘るのも同じ理由からでしょう。 もう一つ、英語の話。近ごろ流行の方法で、外国人と直接話す会話上達法もいいでしょうが、英語で文章を読んだり書いたりするには、何よりも基礎が大切です。つねに中学や高校の教科書を読み直すくらいの気持ちが必要でしょう。しかし英語の先生が外国に行くと、文法にとらわれすぎて、まともに会話が成立しないこともあるとか。基礎固めと、素早い応用の両立が最終目標といえましょうか。 バレエの話に戻しますと、コンクールで何百人もの踊りを見ると、同じ作品でも、細部の振り付けの違いや踊る人の表現の違いで、多種多様な世界が見えてきます。これを見比べるうちにバレエの多彩 な魅力、さらに芸術全般についても考えさせられます。たかが子供の踊りとはいえません。踊る人だけでなく観賞する側でも基本を知ることで、以前より多くのものを得たり、一層楽しめるはずです。 こんな当たり前のことを書くのは恥ずかしいのですが、現代はかっこいい評論が多くて、当たり前のお話が少ないので思い切って書きました。 |
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