藤井 修治 | ||
|
||
2000年4月11日 | ||
三月末の風物詩、日本バレエ協会の「ヤング・バレエ・フェスティバル」を見ました。もう十一回目とのこと。まずは「パキータ」、おしまいに「卒業舞踏会」。その間に、ベテランの域に入りつつあるスター四人が踊る二つの小品が挟まっています。 この催しを毎年のように見ているのですが、不思議なことにいつも「パキータ」と「卒業舞踏会」を上演しています。装置や衣装を新調して別 作品を上演したいのに予算がないからという話ですが、同じ作品でもけっこう面 白いので、つい見てしまいます。意欲作を見せられてもつまらなければがっかりします。しかし、そういう愚作は一回だけで消えてしまうことが多いはずです。この二作はいい気持ちで家路を辿らせてくれるから傑作です。 「パキータ」は、スペインを舞台にした大がかりなバレエだったとのことですが、現在は物語を抜きにして、いいとこ取りのグラン・パ形式のダンスシーンだけとなっています。バレエ団によって構成や振り、美術などに多少の違いがありますが、これも舞踊家たちが少しでも他のバレエ団のものよりアピールしようと創意工夫を加えた結果 でしょう。その中で、バレエ協会のものは、キーロフ劇場のものの直系です。くり返し見ている間に古典バレエの醍醐味を味わうことができます。 「卒業舞踏会」は近代バレエの傑作です。こちらは明快な物語りが売りものでしょう。ウィーンの名門女学校。卒業記念の舞踏会に士官学校の生徒たちが将軍に率いられてやってきます。異性に憧れる若い人たちの様子を面 白おかしく描いて、現代人にも共感を誘います。 二つの名作、またかと思ったのも事実です。昨年は高部尚子らスターを並べたのに対し、今回は前途有望な若手を推しています。未熟な点もありますが、それも愉快で、同じ作品の別 の面も見え、それなりの収穫を得ました。同じ作品をくり返し上演しても、作るほう、踊るほう、そして観るほうもそれなりに成長するような気がします。 「白鳥の湖」「くるみ割り人形」など古典の名作は年間に何回も見ることになります。少しうんざりしながらも、全体の構成や流れ、細部の振りや演出などを巨視的に大づかみしたり、微視的にのぞき込んだりして自分の血や肉にすれば、より一層楽しむことができるようになるのです。モーツァルトの天上的な音楽も、初めて聴いて「あーきれい」と喜ぶのもすてきですが、くり返して聴くならばこちらも成長して、もっと深く理解できるはずです。 読書するにしても、つぎつぎに多くの書物を読みとばすのもいいですが、気に入った本を時々読みかえすことも大切でしょう。情報過多の現代、乱読と精読の効果 的な使いわけができればよいのではないでしょうか? 僕も残り少くなってきた人生をもっと有意義に使いたい。初めて見る新作で視野を広げたいし、くり返し見てきた好きな作品で慰めも得たい。つい欲張りになってしまいますが、実際にはなかなか実行できないのが現状です。 |
掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。 お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。 また、このページに関する意見等もお待ちしております。 |
||||||||
|
||||||||
株式会社ビデオ Copyright © VIDEO Co., Ltd. 2014. All Right Reserved.