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藤井 修治
 
Vol.16 「再演のすすめ」  
2000年10月11日
 シドニー・オリンピックの余韻が残っています。生中継を見る余裕がなかったので、くり返し放送される総集編などを見たりして感心したりしています。新体操やシンクロナイズド・スイミングなど、日本人も芸術点で点がとれるようになったのですね。シンクロの「火の鳥」の振りを覚えてしまった人もいるのではないでしょうか?創造することのすばらしさに目ざめた人もいるはずです。テレビで見ても、題材の設定や音楽の選曲から細かい仕上げまで、莫大な時間やエネルギーが注入されているのが想像できます。
 対して、日本の現代舞踊芸術の場合では、観客の絶対人数が多くはないこともあり、舞台が消耗品としてインスタントに作られる傾向が強いようです。出演者も一応は器用にこなしてしまうので、何とか幕が上がります。しかし幕がおりてから、ああすればよかったこうすればよかったではもうおそいのです。こちらも残り少ない人生、わざわざ面 白くない舞台を見に行くのは時間の無駄だと思うのですが、万が一すばらしい舞台が見られるのではないかと、またまたでかけていきます。そしてまたがっかりすることが多いのです。たとえつまらない舞台でも、友人や周囲の人々が「ヨカッタワヨー」などといえば、作者や出演者もけっこういい気分になって、またまたつまらない舞台を作ってしまうのです。そして結局は正直な観客の足が遠のきます。それだけでなく、本当にいいものも人目にふれずに消えて行く場合もあるでしょう。
 オリンピックは、金メダルを期待された人が銀メダルで、世界にその実力を示しても敗者扱いをされる厳しい世界です。それに反して現代日本の舞台芸術の世界は、たとえ駄 作でもそれなりの評価を受けたりもします。日本は幸福な国だといえましょう。そこでわれわれは本物偽物を見分ける目を養わないと大切な人生を無駄 にしてしまいます。それにはまずナマの舞台をたくさん見ることです。
 10月3日、モダンダンスの長老、芙二三枝子さんの公演を見に行きました。前半の新作では彼女の健在ぶりを確認することができたのですが、後半、28年ぶりに見た「土面 」の迫力に圧倒されました。縄文人に思いをはせ、原始的な動きを積み重ねたパワフルな作品です。久しぶりの再演でさらに整理が行きとどき、照明プランの巧みさなどにも助けられて完成度も倍増、観客を納得させる舞台になっていました。
 現代舞踊芸術はイマを表現するものだから、一回だけ上演したらもうおしまいだという考えもあります。しかしこの場合は、初演以来、長い熟成の時間をかけて再創造された舞台には、人生経験なども加算した充実したものがありました。芙二三枝子さんはダテに年をとってはいなかったわけです。
 芸術ファンの中には、伝統や権威にしがみつく人もいる反面、とにかく新しいものを追い求め、先鋭的な作家の初演作品を追いかけつづける人も少なくありません。しかし秀作の再演の成果 をもフォローする必要もあります。新しい題材による新作を量産するのもよいのですが、必然性がなく、仕上げも悪い新作は公害にもなってしまいます。再演によって、作者も納得のいく作品を完成し、観客もその作品の意図を成長した目で把握できるはずです。これは他のジャンルの芸術や日常の事柄にもあてはまることだと思います。



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