藤井 修治 | ||
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2001年4月3日 | ||
ことしは東京の桜の開花が去年より一週間以上早まりました。お彼岸が温暖だったので、3月23日に早くも開花宣言が出され、間もなく28日に満開になりました。そして月末には珍しく雪が降ったので、花の時期も長びいたようにもおもわれます。 現代の日本は政治や経済には不安材料が多いのですが、とにかくも56年間は戦争がないという世界でも珍しい国で、桜前線の進行がニュースになるというありがたい国です。「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」とかいう古歌がありますが、桜がいつ咲くか気になり、咲けば咲いたでいつ散るか心配なのは、昔から現代まで同じなのは愉快です 。 きょう行った新宿のレストランの壁に良寛さまの歌が何首も書かれた額がかかっていました、その中の一首に感心。「鳥は鳴き四方(よも)の山べに花は咲く、春の心の置きどころなき」。これも似たような心境を歌っていますね。良寛は前述の古歌を知っての上でアレンジしたような気もします。この場合はさくらだけでなく、スミレタンポポレンゲソウとかいろんな花も見えてきます。 お花見に行って桜だけを見上げるのでなく、目の高さには椿や山吹が咲き、足もとには菜の花やムラサキハナナ(花大根?)、時には植え込みのパンジーも見えます。それも楽しい。もっとも上野公園の花見客は桜など見ないて飲んだり歌ったり。それを批判する人もいますが、これもいいんじゃないでしょううか。 桜は場所によって種類も様子もちがいますがほとんどが染井吉野です。この桜の寿命は60年だという人がいますが、もう少し長いみたい。人間の寿命と同じような気がして、親しみを感じます。上野公園や青山墓地には老木が多いのが魅力。隅田川の両岸のは戦後に植えられたらしく若々しさがあります、千鳥ヶ淵のはいまが最高の状態かも。そして老木でも若い木でも咲く花は同じ花なのが嬉しいことです。それに対して、数百年を経たしだれ桜の巨木は一本で迫力十分。春もたけなわは八重桜。大阪の造幣局の「通 り抜け」では一本ごとに違った種類の八重桜がとにかく華やか。等々、ことしもあたふたとあちこちかけずりまわっていますが、もう少しのんびり歩きたいと思います。桜が咲けば春の到来を喜び、散ってくれば春を惜しむ、元気で来年も見られるかと心細く思います。やはり日本人なんですよね。 桜は開花時期以外は無視されていますが、一年中それなりのよさがあります、夏の濃い緑もいい、毛虫が怖いけど。秋の紅葉は楓(かえで)の均等な赤さと違って一枚一枚の葉っぱに風情があります、赤や茶色や黄色がにじみ、虫が食った穴さえ優雅です、大望遠鏡で見る宇宙のようにも見えます。冬の裸木も春を予測させてくれます、桜に限らず、年間を通 して自然の変化を見ていると、人間の生きざまなどいろいろなことに連想が及んで、考えさせられるのですが、これも年のせいでしょうか。 さて、つい先日、練馬文化センターで催された松崎すみ子さんの主宰するバレエ団ピッコロ付属研究所の40周年記念発表会をのぞきました、4部構成で、生徒さんたちが続々と登場、次々と小品を踊りました。ゲスト陣も楽しそうに参加しました。最後の第4部はオルフの名曲による「カルミナ・ブラーナ」です、発表会としては重い曲かなと思いましたが、適切な省略と的確な構成で多彩 な登場人物がつぎつぎに出入りして美の賛歌といった趣きがありました。開幕間もなく「美への使者」という役名の柔い白衣のペアが登場しました、モダンダンス界きっての美女本間祥公さんと藤沢正さんという人が組んで、こどもたちを祝福したりする様子です。藤沢さんは実はこの欄を僕と交代で書いているうらわまこと氏です。神様のような役柄ですがこどもたちに囲まれていかにも嬉そうで、どちらかといえば人間的な感じでした。他のダンサーに比べて相当年長のはずで、激しくは踊りませんが、やせているくせに桜の大木のように舞台に重みとか厚みを加えてくれました、おかげで発表会としては立派なフィナーレになっていたと思います。若さや技術が重視されるバレエですが、年長者のおかげで舞台が立派になる場合も多いんです。うらわさんは学者であり批評家でもあるのですが、発表会ならば出てもよいそうです。出て欲しい場合は(株)ビデオまで申し入れされたらどうでしょうか? |
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