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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

藤井 修治
Vol.86「また敬老の日です」
2003年9月12日

 同時多発テロから丸2年ですが危機感が去りません。日本は少しは平和だなと感謝します。15日は「敬老の日」です。
 またまた私事で恐縮ですが、昨年、姉がつれ合いを亡くしましたので、今年になって西国三十三ヶ所の観音さまに巡礼に行くことにして、春から秋へ2泊3日で6回にわたるゆったりとしたツアーに参加しました。有名な四国の八十八ヶ所の遍路ではなく、関西の観音霊場のお寺巡りです。僕の姉なので当然老齢になっていますので、僕と弟が交代でついて行くことになりました。そして先日の第5回のツアーは僕の番だったのです。僕は敬老の気持ちは人並み以上とは思うのですが、かんじんの宗教心が乏しいためにバチが当たったのでしょうか、若いほうの僕が体調を崩してしまいました。年寄りを助けるつもりが逆に心配させてしまい、僕もいつのまに老人になってしまったとがっくりもしましたが、物は考えようで、強健とはいえない僕が、これまで生きて来られたものだと感謝の念も出て来ます。
 このツアーの発想は母から伝わったものです。三十数年も前のこと、母が父を亡くした翌年、四国の八十八ヶ所の遍路の旅に一人立ちしました。生来、呑気な母はマイペースで寺々を巡って2ヶ月ほどで帰ってきました。宗教心よりもレクリエーションといった感じで行ったのがよかったようです。おみやげの一つに高知のほうで買ったとかの木綿の手ぬぐいがありました。白地に紺色で「子供叱るな来た道じゃ、年寄り笑うな行く道じゃ」と大書してあります。愉快なので茶の間の壁に張っておきました。母が僕たち子どもにアピールしたものかも知れませんが、いまはもう僕が笑われる年になっていますので、思い出すとしんみりします。こういう民間のわかりやすい言葉はストレートに身にしみます。これは前にも書いたことですが、「むずかしいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを広く」というお坊さんたちの業績を分析した言葉を実践したいと、僕も皆さんの心の中に一つでも記憶に残るものがあったらいいなと思って、今日も寝ながら書いているのです。信仰というよりも信念のつもりです。
 それにしても今回の自民党の総裁選をテレビで見ると、近ごろの政治家はお洒落は進歩したようですが、何か醜く見えます。何が何でも一番になれ、なりたいという権力欲が丸見えです。明治時代の大政治家が曰く、「ほとんどの政治家は国のこと、国民のことではなく、わが党のこと、そして最終的には自分のことしか考えない」とか。これは現在の政界のほうがぴったりでしょう。国会中継では相手を指さして攻めたてていたりするのを見ると、もういやになってしまいます。
 昔は理髪店で床屋さんとお客が政治論議をしていました。自分が総理大臣になった気で、夢を語る人も少なくなかったようですが、何か愛敬がありました。これは政治の世界は自分たちには関係がない世界だからこそ憧れて話題にしたのかも知れません。実は僕は若いころに政治家や官僚やその志望者たちが周囲にいたので、その人たちの人間性を見たり、自分はそんな人材でないことが早くにわかってしまい、若くして超越したり、悟ってしまった気持ちになってしまったのです。そして欧米の紳士のまねをして政治や宗教の話は避けているのです。もちろん政界、財界に善人もいますよ。しかしテレビで見る政治家たちの応酬よりは、バラエティ番組でのお笑いタレントの会話のほうがずっとスマートなので、ついそっちの番組に切りかえます。しかし、海外のテロ再発の危機感など、むこうの国は政治と宗教が重なっているので、本当にこわいですね。これもあの人たちが世界で一番を狙っているからでしょうか。
 先日の24時間テレビもチラチラと見ました。ちょうど気になっているグループ「おやじダンサーズ」が派手なアロハシャツで楽しそうに歌って踊っています。歌は「世界に一つだけの花」だとか。「スマップ」の持ち歌のはずですが、しのぎをけずっているオジサン世代が歌うとさらに説得力があります。歌詞ははっきりとは聞きとれませんが、人間は他人と比べたがり、一番になりたい人が多いけれど、お花は小さい花、大きい花いろいろあるけど争わないということでしょうか。いまよく聞く、「ナンバーワンでなくオンリーワン」というわけでしょう。みんながナンバーワンを狙ったら争いだらけになりましょう。ヒットソングのチャート順、アイドルの人気順位、封切映画のもうけ高などは一時的なもので、ドンドン変わるからいいのですが、政治が急変すれば大混乱するだろうし、世の中は本当にむずかしいものです。
 負け惜しみにとらわれるかも知れませんが、くり返しくり返しいうことに、僕は偉い人とか大金持ちよりもいい人が好きなんです。しかし考えてみますとこれは僕がいい人ぶっても100%善人ではないからでしょうか。それでも自分は生まれてこのかたウソをついた事がないなどという大ウソはつかないので、まあ善人のほうかとも思います。世界を真剣に考えていますと公言するような政治家たちに本当に世の中をよくしようとする気が乏しいような気がしてならないきょうこのごろです。いまや自分の仕事にもあまり使命感を感じていない僕ですが、僕としては、そのほうが少しはお役に立つことができるかなと思っているのです。人々と仲よく折り合いをつけながら何とか平和にその日ぐらしをしているように思われがちな僕も、多少は厳しい面も残しておいて、時には怒ったりもするのです。
 さて、先日、また新しくできたバレエ・コンクールの審査にうかがいました。コンクールというものは神様でない人間が人間の順位をつけて、ついにはナンバーワンを選ぶものなので、いつも審査する時に心が少々痛みます。しかし審査の先生がたの間に素人が一人ぐらいいてもいいかなと思ってお引き受けしたりしているのです。長く生きているといろんな面から人間が見えてきて、技術だけではない視点からも人材が見きわめられるという多少の自信があるのかも。何もバレエ界の振興を図ろうなどという大それた気持はないのですが、スターが生まれたり、下位の人に次への勇気を与えたりするのに助けになったり、コンクール参加者の人生に何かしら役に立つのかも知れないかと思うと、年輩フリーターの審査もそれなりに意味がありましょう。敬老の日に際してそんなことを考えました。

 




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