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うらわまこと
 
Vol.4 「経験と知恵を生かして 
  -NDTIIIに思う-」
2000年5月2日
 

NDTというと、舞踊ファンならだれでも、イリ・キリアンが育て上げたネザーランド・ダンス・シアターのことと分かるでしょう。ところが、私のように年老いた舞踊ファンは、日劇ダンシングチームがまず頭に浮かびます。第二次大戦中(60年も前のこと)に松尾明美、松山樹子、谷桃子など多くの優れた舞踊家を生み、戦後も重山規子や清水秀男らのスターを擁したNDT。専属のダンサー、そして学校(養成所)をもっていた東京・有楽町の日本劇場は、民間(東宝)ながらしっかりした体制をしいていました。その頃浅草の国際劇場にはSKD、西には現在も盛んな宝塚など、民間にはアーチストを育て、専属とする劇場があったのです。でもここで申し上げたいのはこのことではありません。 さて、NDTの公演は4月の22、23の2日間、彩の国さいたま芸術劇場で行われました。とくに23日は「NDTII&IIIガラ」として、日蘭交流400周年を記念して来日中のオランダ皇太子が来館され、多くのオランダ人関係者がドレスアップして出席、華やかな雰囲気に包まれていました。これはオランダ大使館が多くの席を手当てして日本の皇室や地元の名士を含めて招待したものだそうで、舞踊の会がハイ・ソサエティの集まりに利用されることはこれまでのわが国ではほとんどありえない、貴重な機会でした。これは大変嬉しいことですが、ここで取り上げたいのはこれでもないのです。
上に記したように、今回日本で公演したのはNDTIIとIIIです。IIとIIIがあれば当然Iもあります。これはどう違うのでしょうか。二は17歳から22歳、そしてIIIは40歳以上のダンサーによって編成されているのです。当然Iはその中間。こうなると、Iは一軍、IIは二軍、そしてIIIはOB、OG(つまり現役を卒業したもの)と考えたくなります。たしかに、年齢だけではそう見えます。しかし、そうでないことはもちろんです。IIは若さを生かしたダイナミックでスピーディな作品を、そしてIIIは豊富な経験を生かして人生の機微を描いた滋味豊かな作品を踊っているのです。わが国を考えてみますと、若いグループは、ジュニアバレエとか、ユースバレエとして決して珍しくありません。というよりむしろジュニアクラスがもっとも層が厚く、活躍しているといってもいいと思います。
それに比べて、中高年はあまり尊重されていません。日本全体が若者の時代とかいわれて、能力や意欲があっても世代交代の波に洗われ、場を失っているのです。舞踊会も例外でないというより、政治や経済の世界とは別 の理由で以前から長い間現役で踊り続ける人は少ないのです。途中で舞踊と縁がきれなくても、「教え」や「振付」そして「スタジオ経営」に移ってしまうのです。これも必要です。ある意味ではわが国の舞踊会をささえているのはこういう人達ですから。
それはそれとして、『舞台で踊るのは若いうちだけ』というわが国の現状は少し残念です。NDTIIIを見ても、さすがにだてに年はとっていないという、若さにはない味と説得力のある舞台を見せているのです。また、そういう作品があり、それを楽しむ観客がいるのです。日本でも森下洋子さんのように、世界でも珍しいほど長い間超一流の力を維持している人もいます。しかし、長期間にわたってダンサー一筋というのは、作品、観客、あるいは収入面 などで極めて難しいのも事実です。
老害というのは、高齢になっても現役でいるためではなく、現役を退いても権限をもち続けようとするところに起こるのです。経験と知恵を生かして生涯現役というような人が増え、社会もそれを認めるようになれば、かえって老害も減るのではないでしょうか。それが健全で豊かな社会だと思います。



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