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うらわまこと
 
Vol.10 大人のための「児童舞踊」 
2000年7月26日
 

児童舞踊というと、一般のバレエファン、ダンスファンは、子供の発表会や学校の運動会のダンスのちょっと高級なもの、くらいにしか思っていないのではないでしょうか。私もかつてはそうでした。しかし、わが国には(社)全日本児童舞踊協会があり、東京新聞の全国舞踊コンクールには、児童舞踊という部門があります。協会の合同公演や、とくにコンクールの上位 の作品を見て、私はこれは日本独自の見事な舞台芸術のカテゴリーの一つではないかと思うようになりました。
そこで、コンクールに毎年数点の作品が参加、ほとんどが入賞、今年も第1位 をはじめ6作品すべてが入賞、入選した、岐阜県中津川市に本拠をもつ「かやの木芸術舞踊学園」の創立30周年記念公演を見に行ってきました。場所は土岐市文化プラザ大ホール、この沿線ではもっとも大きなホールで、とくに舞台は奥があり、使いやすそうです。
「かやの木芸術舞踊学園」は、平多宏之、陽子夫妻が主催しており、最近は息子さん木原創、友里夫妻も制作に参加しています。たしかに、平多というと、襲名とか名取という古風なイメージがありますが、それだけにマナーはしっかりしており、経営や教授法はきわめて科学的、合理的です。
さて、当日のプログラムですが、コンクール作品、好評で再演の創作、そして新作です。出演者は児童だけでなく、創作は成人が主体です。
児童舞踊は、たしかに子供達は達者で可愛いのですが、それよりもメッセージが明確なこと、そして作品にさまざまなアイディア、とくにセンスのある落ちがついているところに惹かれるではないでしょうか。たとえばフニクリ・フニクラなど、だれでも知っているメロディーを替え歌にして、出演者達がうたっている「母に捧げるラプソディー」(舞台はテープ)。内容は一見母親に感謝しているようですが、実は教育ママを風刺しているのです。子供の将来に熱心な母親を褒め殺ししているようで、それだけでも楽しいのです。
第1位の「誰が為に鐘は鳴るACTII」は昨年のIに続き、ボスニアの悲劇からけなげに立ち上がる孤児たちを描いたもので、彼等への応援歌でもあります。その他にもきちんと取材してアレンジした日本民踊の子供版など、その姿勢がしっかりしているだけでなく、振付も出演者の演技も見事なものです。もう子供のダンスという域を超えています。
つまり、メッセージの内容が明らかで、しかもそれをタイトルを含めて作品全体で伝えようとしている。しかもそのメッセージが私には共感できるもの、つまり社会や人間に対する鋭く、しかも暖かい視線が感じられるものが多いのです。
「In The Park」という新作では、カーペンターズの曲を使って、公演での若年、中年、老年のエピソードを寸描しているのですが、そのリズムでただ踊るだけでなく、そのなかに人々のやりとりを違和感なく取り入れるなど、振付もなかなかのものですし、さらに高齢化社会の問題点なども指摘しているのです。それでいてユーモアもあり、子犬を登場させたり、場面 転換の間、幕前で寸劇をしたりして見せる工夫もあります。
最近のダンスは、物語性を排して、動きや構成そのものを見せるか、シンボリックなメッセージを伝えるという傾向が強くなっています。こういうものも決して否定はしません。
ただ、殺伐とした世の中で、「人間の悲しさ、愛しさ、素晴らしさ」を強く感じさせるドラマも大切です。それが感動を呼ぶのではないでしょうか。
伝えたいコンセプトが明確で、それを舞踊という手段をとおしてできるだけ分かりやすく表現する。児童舞踊はそのような私の芸術観の原点であるような気がします。




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