D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

HOMEニュース・コラム今週の評論 > うらわまこと Vol.14
うらわまこと
 
Vol.14 「重要なスタッフの役割 
  -ボリショイ劇場公演に思う-
2000年9月19日
 

ロシアへ行ってきました。今村博明、川口ゆり子夫妻の主催する「バレエ・シャンプルウエスト」が、8月末から9月上旬にかけてエストニアとロシアのサンクト・ペテルブルグとモスクワ、3か所で計6回の公演をおこないましたが、そのうちモスクワのボリショイ劇場の2日間を見てきたのです。ボリショイでの演目は「時雨西行」、「オンザロード」、「天上の詩」(第1幕第2場・第2幕)の3本、すべて音楽も含めて日本人の作品です。冒険ともいえるし、当然という見方もできるでしょう。
とくに「時雨西行」は、藤間蘭黄の振付・出演の部分は完全に日本舞踊のスタイルで、それと今村・川口振付のクラシック・バレエに基礎を置く部分とを融合させたもので、ロシアの観客がどの様な反応を示すか、非常に興味深いものがありました。
2日間満員の観客は、ほとんどが現地の人か日本人以外の観光客で、はじめは多少の戸惑いはあったものの、最終的には大変な喝采でした。
いずれにしろこの公演は大変な事業だったと思います。日本のバレエ団が独自で海外公演をしようとする場合、国内とは違う難しい条件がたくさんあります。契約などの法規や広報などのマネジメント、客席に向かって傾斜している舞台を克服するダンサーたちの技術といった問題ももちろん大きいのですが、これをちょっと別 の視点から考えてみたいと思います。それはスタッフ、裏方の問題です。ボリショイのような劇場ではもちろん、照明、音響などのスタッフはきちんとそろっています。しかし、そういった人達だけにまかせるわけにはいきません。といって、日本からのスタッフが全てを仕切ることも不可能です。ここには当然両者の共同作業が必要になります。日本側には初めての劇場、ロシア側には初めての作品です。言葉もしきたりも違います。それ以外にも、最初はお手並み拝見的な気持ちなど、それぞれにさまざまな思惑があったかも知れません。
音響、装置、幕の上げ下げのタイミングなどそれぞれ大変ですが、そのなかでとくに難しかったのは照明ではないでしょうか。というのは、これらの作品は日本的な特徴をもち、微細なプランに基づく照明がなければならないからです。全体の進行に責任を持つステージング・ディレクター(舞台監督)の森岡肇さんもですが、照明ディレクターの後藤武さんは、事前に詳細なデータをだし、きめ細やかな打ち合わせをしたといいます。そして結果 は、客席から見ていてもきわめてうまくいっていましたし、ボリショイ劇場のスタッフも非常に協力的で、これだけ一生懸命やってくれるとは思わなかったといのが、日本サイドの感想でした。これは、おたがいに専門家として通 じるところがあったのでしょうし、さらに人間として信頼し合えたからではないでしょうか。
私たちは、舞台の華やかさに目をとられ、その裏の縁の下の力持ち的なスタッフのことはつい忘れがちです。しかし、私のささやかな体験からいっても、出演者が十分に舞台で力を発揮するには、スタッフのバックアップが絶対に必要です。ここでとくに大切なのは、皆で協力して舞台を作り上げるという意識であり、その基本は互いに信頼し、認めあうことです。
指揮者やオーケストラ、衣裳や装置、そして照明の役割や効果は、実際の舞台をみていれば分かります。しかし、その裏に、あるいはそこに行くまでに演出・振付家、出演者、そして各スタッフの大変な努力と共同作業があることを忘れてはなりません。




掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。
お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。
また、このページに関する意見等もお待ちしております。
 
株式会社ビデオ
〒142-0054東京都品川区西中延1-7-19
Fax 03-5788-2311