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うらわまこと
 
Vol.16 「笑える作品は程度が低い?」 
   
2000年10月18日
 

 最近はいろいろな事情で日本舞踊を見る機会が増えています。皆さん(専門家や愛好家は別 として)は、日本舞踊についてどんなイメージをもっていますか。「日本の伝統文化としては重要だけど、あまり現代に通 用しない独特の世界」などと思っている人が多いのではないでしょうか。正直私も以前は漠然とそのように考えていました。しかし、近頃は本音をいいますと、いわゆる洋舞系の作品よりずっと現代に通 じる見ていて楽しいものがたくさんあると感じるようになりました。
 最近見たものに『流星』という作品があります。花川蝶十郎さんと梅蝶さんの「踏影会」で上演されたものです。多分専門家のかたは、作品も踊り手(お弟子さんです)もたいしたことはないといわれるでしょう。でも私は十分に楽しみました。簡単にいいますと七夕に天から降りてきた流星が雷家族のいざこざを仲裁するという話、見せ場は祖父、夫婦、子供の4人を、頭にかぶる角で区別 し踊り分けるところです。角を取り替えると即座に人格(雷格)が変わり、それらの家族の関係が現代にも通 じるように記号化されているのです。私も現代の親子、夫婦の関係を思いながらにやにやしっぱなしでした。お客さんも大変喜んでいました。このように現代に通 じ、分かりやすくて楽しく、しかもいろいろと舞踊的な工夫があり、踊り手の腕が試される作品、そして客席から大受けの作品が日本舞踊には他にもたくさんあります。さすが長い歴史と伝統のある日本舞踊だと思います。
 さて、このようなことを書いてきたのは、日本舞踊を見よう!というためではありません(もちろんご覧になられてもいいですが) 問題は洋舞系の公演、あるいは作品に、このような意味で客席を沸かせる作品がどれだけあるかということです。
 舞台を見ていて思わず笑いが出る、手を叩きたくなる作品がどれだけあるでしょうか。たしかに、ダンサーのテクニックへの拍手は別 としても、上田遙、永田幹文の作品には、自然と客席に笑いが起こるものがありますし、河野潤、中村しんじ、伊藤キムなどもこの意味でユニークな個性をもっています。しかし、全体としてはどうでしょうか。
 もちろん、笑いが出なければ良い作品でない、というつもりはありません。感動で涙が出た作品もありますし、知的な刺激を受けるものもあります。しかし、客席を笑わせて受ける作品がきわめて少ないのも事実です。とくに、率直にいって現代舞踊系のかたは、客席を笑わせてはいけないと思っているのではないか、と感じてしまうくらい皆さんまじめです。わたしの経験からみますと、日舞、洋舞を問わず、楽しい作品、笑える作品は最後の拍手も多いです。(それ以外で受けているものもありますよ)。
 たしかに、コンテンポラリー系で「笑い」売りにしているグループもでてきました。ただ、まだ作品としてはコンセプトや文脈が理解しにくいものが多いような気がします。
 お前は程度が低い、舞踊(ダンスといわないといけないかな)はもっと高級な観客を相手にすべき、という人もいるでしょう。しかし、舞踊界を支えているのは、私のような程度の低い人達なのです。ただ、分かりやすくて、楽しいくて感動的で、自然に笑いや涙が浮かぶ、そしてそこに何か考えさせる作品、勇気づける作品、これは決して程度の低い作品ではありませんし、それを楽しむ人が程度が低いとは私は絶対に思いません。
 動きやその構成を追求する作品、コンピューターなどのハイテクを駆使する作品があって も結構、しかし分かりやすく人間の哀歓のドラマを描いて心に響く作品も、そんなの古いと いわずにぜひ見せてもらいたいものです。




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