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うらわまこと
 
Vol.20 「新国立バレエ団に見る 
  日本バレエの特長」
2000年12月12日
 

 前週のこのページの藤井修治さんの「キーロフ・バレエに思う」に、新国立の「ラ・バヤデール」とキーロフの「バヤデルカ」の見比べのことがのっていました。彼の趣旨は「それぞれに特徴がありいい所もあるのだが、まだやはり本場(ロシア)にはかなわないという短絡した意見も多かった。もっと先入観抜きでものを見る方がいい」ということです。これは私のその前の週の文章をはじめ、このページで再三述べている、日本全体のブランド思考、つまり自分の目で見ないで、ブランドや肩書きで判断してしまう、もっと主体性(しっかりした自分)を持つべきだとという考え方に一致しています。
 そこで藤井さんの文章をフォローするかたちで、私の「ラ・バヤデール(バヤデルカ)」観を述べてみたいと思います。私が見たのは新国立は11月18日(酒井はな、逸見智彦、越智久美子)と21日(アンナ・アントーニチェワ、カルロス・アコスタ、田中祐子)で、キーロフは12月4日(ウリヤーナ・ロバートキナ、イーゴリ・ゼレンスキー、エルヴィラ・タラーソワ)で、キーロフはベストのメンバーで私も大変期待していました。
 女性主役ニキヤでいいますと、顔の小ささ、手足の長さからいうと、アントーニチェワ、ロパートキナ、酒井の順です。しかし、私は感動したのは酒井、ロパートキナ、アントーニチェワの順でした。たしかに3幕の踊りはロパートキナはしっかりしていました。しかしとくに2幕、花籠をもって踊り、毒蛇に噛まれる、解毒剤を与えられるが敢えてそれを拒否して死に向かう。そこでのきめ細かな表現は酒井はなが抜群、感動をおぼえました。男性は正直のところ3人とも不調、なかではさすがにゼレンスキーが経験の差で見せ場をこしらえたというところでしょうか。残念ながらアコスタは自分でもいらいらしているのが分かるほどでした。逸見は2幕は最悪、3幕でだいぶ挽回しましたが、自分でも納得していないのではないでしょうか。
 コール・ド・バレエの日ロ比較も大事です。私は前から新国立のコール・ド・バレエは急激に進歩し、単にそろうだけでなく、作品の性格、場の形成という面 で高いレベルにあると思っていました。そして舞台の出来はそれを裏切らないものでした。とくに21日の第3幕、影の王国の32名の舞姫の幻影が山から降りてくる場は本当にすばらしいものでした。ここは踊りが終わってもそのまま次の場に進むのにもかかわらず、自然に発生した観客の拍手は長く続きました。それに比べて外国のバレエ団の舞台ではコール・ド・バレエはそろわないという定評があります。事実、1幕やとくに2幕の舞姫たちの踊りはばらばらでした(オームを手にした踊りなど)。しかし、どうなることかと思った第3幕、影の王国の場は新国立ほどではありませんでしたが、十分に合格点でした。ここは率直に褒めていいと思います。たしかに男性ダンサーについては、全体としてキーロフの方が大分上だということを率直に認めなくてはなりません。これはキーロフと比較しなくても、私も前からいっているところ、新国立の当面 の課題でしょう。では長期的な課題は?私は自前のスターの育成だと思います。現在の主役は全部既製品ですから。
 話はそれましたが、たしかに日本のダンサーは身体条件の面では平均して外国人にはかないません。しかし、それは絶対条件はなく、一つの要素にすぎないのです。大切なのはいかに的確に作品や自分の役を理解し、表現するかということです。森下洋子を持ち出すまでもなく、吉田都や下村由理恵など、決して恵まれた姿態の持ち主とはいえないダンサーが海外では高く評価され人気もある。日本人にバレエが向いていないのではなく、日本人ならではのバレエを作り上げていけばいいのではないでしょうか。




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