D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.34 「感動3連発、
  そして新しい出会いのあった週末」
2001年7月3日
 

 2日間で3公演を見るというのは決して珍しいことではありません。2日で4つどころか5公演だってないことはないのです。ただし、その3公演のすべてに感動するなんてことは滅多にありません。そのきわめて珍しい体験を先日の土日(6月23,24日)にすることができました。
 それで、前回から引き続いて批評のあり方について書くはずだったのですが、それを先送りして、今回はこの件についてお話することにします。
 この2日間3感動とは、まず23日新国立劇場バレエ団の『トリプル・ビル』での「リラの園」、その日の夜の粕谷辰雄バレエ団の「ジゼル」、そして翌日の熊谷市での岩木団次のル・クール・ド・バレエいわきでの「ラ・シルフィード」です。それぞれ決してパーフェクトとはいいませんが、しかし間違いなく感動させる要素を持っていました。
 もちろん、これまでこの3つだけが感動を呼んだわけではありません。最近では、たとえば松山バレエ団/森下洋子さんの「ロミオとジュリエット」、牧阿佐美バレエ団/上野水香さんの「白鳥の湖」など。前者は当然に感動的な舞台を期待し、確実にそれ以上のものを得る驚きであり、後者は類いまれな素質が着実に成長しているのを確認する喜びです。それに対して上の3つは、期待していなかったわけではありませんが、ある意味では予期せぬ というか、新しい発見、あるいは再発見という形の感動でした。
 まずアントニー・チューダーの「リラの園(ライラック・ガーデン)」。私はあちこちでいっていることですが、個人的には踊りよりドラマ(もちろん舞踊作品における)に惹かれ、バランシンよりずっとチューダーがいいと思っているのです。そのなかでも「火の柱」、「喇叭の響き」とともにこの作品がマイ・フェイバリットです。
  意にそわない年上の男との結婚をひかえたキャロラインは、友人たちとの別 れの宴に臨む。そこには愛しあう若い男もきているが、ゆっくりとお互いの気持ちを伝えるひまもなく別 離の時が来る。最後に若者はライラックの花束をキャロラインに捧げる。彼女はしっかりとそれを胸に抱いて婚約者とともに去っていく。キャロラインの酒井はながひかえめながら的確な演技で、とくに最後の、彼に強い思いを残しつつ、しかしそれを振り捨てて新しい生活に向かう健気で悲しい気持ちが痛いほど感じられて、思わずもらい泣きしてしまいました。恋人の山本隆之、婚約者のゲンナーディ・イリイン、その過去の愛人の草刈民代、みな好演でしたが、さらにキャロラインの理解者で、ひそかに彼女を案じ、なぐさめる友人、高山優の演技もまた私の心を打ちました。
 ここで実は別の発見をしたのです。というのは、私が見たのは二日目だったのですが、その夕、初日に見たというある批評家にこの話をしたら、彼女は全然良くなかったと、評価が正反対。キャストは全く同じ、そんなことってあるのか、あるいは彼女と私の見方が基本的に違うのか、少し気になっていたのです。ところが、その翌日、熊谷に行く途中であるバレエファンに会い、彼女は新国立を3回とも見たというので確認したところ、初日の「ライラック~」はだめだったが、2日目は見違えるほど素晴らしかったというのです。別 に他人がいったからどうということはありませんが、しかし、先の批評家も、このバレエファンも、ともに初日は表面 的、形式的でまったく訴えてこなかったと同じことをいっていますから、出来が大きく違ったことはたしかなようです。したがって批評をするときは、いつ見たかを明示する必要があるということを改めて感じました。
 この彼女のことですが、日本のバレエもとても良くなったと、この日もわざわざチケットを買って熊谷まで見にきているのです(もちろん、出演者の友達とか親戚 とはまったく関係なし)。自分でもサイトをもっており、とくに日本のバレエの素晴らしさを発信しているんだそうです。批評家のなかにも彼女の爪の垢を煎じて飲まなければいけない人がいるのではないでしょうか。この点はまた次の機会に取り上げたいと思っています。
 さて、話を戻しましょう。感動の第2は、粕谷辰雄バレエ団の「ジゼル」。下村由理恵さんのジゼル、佐々木大さんのペザントはもちろん凄いのですが、ここでの感動は篠原聖一さんのアルブレヒト。彼も生後半世紀を超え、古典全幕はこの日で最後、つまり古典からの引退舞台なんだそうです。私はまだやるべきと思いますが、これが最後と決めた彼の演技は、とくに終盤のミルタに強制され、息も絶え絶えに踊る場面 、そしてジゼルとの別れの場面は鬼気迫るものがありました。そして幕が下り、再び上がってカーテンコールにこたえる彼は、気力をふりしぼって立っているのがやっとという状況、それを妻の由理恵さんが優しくエスコートし、客席に向かって彼を前に押し出す。客席からもブラボーがとび、感動的な場面 でした。彼の引退は残念で認めたくはありませんが、一方でこれが舞台人としての至高の時なんだろうなという、うらやましさを感じたことも事実です。
 3つ目は熊谷での岩木団次さん、京子さんの「ラ・シルフィード」、主役は渡部美咲さんと堀内充さんです。充さんのテクニックと役づくりはさすがですが、とくに新しい感動は美咲さんです。彼女は妖精的な部分をたくさんもっていますが、正直ここまでとは思いませんでした。最初はちょっとしたいたずら心からのちょっかいが、じょじょに本当の愛に変わる、しかしその愛する男からの裏切り。捕らえられ、羽根がとれる。男の行動に呆然とし、しかし憎みきれずに死を受け入れていく。美咲さんの心理表現は、人間とは結ばれることのない妖精の運命と悲しみを的確に伝え、見る人に十分感情移入させるものでした。また、これとは別 に森本由布子さんが久し振りの古典グラン・パ・ド・ドゥで衰えぬ力を見せてくれたのも大変嬉しいことでした。
 実は、この次の週末(6月30日/7月1日)にも、ちょうどこれを書いている途中で3つの公演を見たのですが、それぞれにいろいろと考えさせられることがありました。これも近い将来紹介したいと思っています。




掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。
お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。
また、このページに関する意見等もお待ちしております。
 
株式会社ビデオ
〒142-0054東京都品川区西中延1-7-19
Fax 03-5788-2311