うらわまこと | ||
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2003年1月22日 | ||
いよいよ2003年です。年の初めにあたって少し昨年の舞踊界の状況を、ただし総合的にでなく要点を絞って考えてみたいと思います。
まず全体としては、バレエ界は、とくに民間では01年に比べて、02年は少々話題に乏しかったような気がします。たしかに、01年は21世紀のスタートであり、また森下洋子さんの舞踊生活50年や牧阿佐美バレエ団の創立45周年といったイベントが重なって、余計に活気があったかもしれません。しかし、昨02年は不況も進み、子どもの数も減少している、さらにもしかすると新国立劇場の影響もあったのかも。この辺は少し時間をかけて見ていくことが必要でしょう。 モダン部門は、きちんとは分けられないにしても、いわゆるコンテンポラリーやパフォーマンスについては、日中韓など国際交流もふくめてなかなか活発でした。伝統的な現代舞踊系も昨年はなかなか頑張っていたと思います。これは舞踊界全体にいえるのですが、とくに各地が元気で、たとえば文化庁芸術祭に遠方から参加するなど意気込みもたいしたものでした。 バレエ界が話題にやや欠けたというのは、民間に創作、新作が少なかったことが一つの理由であったと思います。一昨年は、牧阿佐美バレエ団がローラン・プチさんの新作「デューク・エリントン・バレエ」初演や長年のジャック・カーターの「くるみ割り人形」を三谷恭三さんの新振付に変更上演、松山バレエ団も森下洋子舞踊生活50年記念作品として、清水哲太郎さんの「アレテー」を発表、さらに東京バレエ団、スターダンサーズバレエ団、谷桃子バレエ団などがそろって新作、あるいはバレエ団初演作品を上演したのです。それ以外にも松崎すみ子さんの「オンディーヌ」が芸術祭賞を受賞、トップダンサー下村由理恵さん、篠原聖一さんがそれぞれ新作を含むリサイタルを開いています。東京以外でも、札幌舞踊会が金森穣さんの新作集、関西でも野間バレエ団、佐々木美智子バレエ団、貞松・浜田バレエ団などが話題の新作を上演していたのです。もちろんこれだけでなく、東京シティ、NBA、さらに佐多達枝さん、などは毎年創作を発表しています。 このように01年にはいろいろな話題がありました。 それに対して昨年は、大手が新作はもとより、バレエ団初演作品もほとんどなかったのです。ただし、中堅クラスのバレエ団には元気なところもありました。小林紀子バレエシアターはディレク・ディーンさんの「ジゼル」を本邦初演、NBAバレエ団は「名残橋」などの新作でロシアなどにツアー公演を実施しています。 さて、昨年のとくに邦人の新作はどうだったでしょうか。一昨年ほどではないものの、いくつかの新作は発表されています。量 的には少なくても、実はいわゆる一晩物(長尺作品)にはわりに目立つものがありました。 そのなかからとくに次の3つを上げることができます。 佐多達枝作品「beach」(9月世田谷パブリック)、佐藤宏作品「真夏の夜の幻(ゆめ)」(9月新宿スペースゼロ)、そして今村博明、川口ゆり子作品「タチヤーナ」(10月新国立・中)です。 佐多さんは長期にわたって、毎年精力的に質の高い創造的な作品を発表し続けています。文学作品をベースにしたものも多く、ここのところカフカのバレエ化に熱意をいれており、「父への手紙」といった秀作もあります。今回の「beach」は、劇場機構を活用して浜辺での多彩 な人間関係をドラマチックに、そして幻想的に、さらにちょっぴりエロティックに描いています。視点のはっきりした構成で、彼女の代表作の一つになると思います。 佐藤さんは振付者として決して経験深くはない、まだ若手のほうです。でも自分のグループ<ラ・ダンス・コントラステ>として毎年2回は作品を発表しています。昨年も6月にも中村恵さん、ピエール・ダルドさんの作品を含めて自作の小品を上演していますが、9月には長編の「真夏~」を発表しました。彼としては物語性の強いものですが、独特なポアントを使いながらオフバランスの独特な動きを基本に、シェイクスピアドラマの複雑な人間関係をしゃれたセンスで舞踊化しています。大人の観賞にたえる作品だと思います。 バレエ・シャンブルウエストの主宰者、今村、川口さんは、今日ではむしろ珍しく古典バレエの手法によって新作を作っています。4年ほどまえにも「天上の詩」で芸術祭大賞を受けていますが、今回もプーシキンの「オネーギン」をバレエ化した「タチヤーナ」で大賞を受賞しました。これも古典バレエの技法に基づき、そのスタイルをとった作品ですが、ストーリーを分かりやすく、しかもドラマチックに表現しています。ドラマ的には前作よりもさらに見応えがありました。 この3作品とも、スタイルの異なる作品で、私はそれぞれに大変に評価しています。もちろん評価する人はほかにも多いのですが、現在の創作バレエの風潮、大勢である抽象性からすると少し外れているともいえるのです。この違いを形式的にいうと、物語性があるとは、出演者が何かの役に扮しているもの、抽象性とは、そうでないものです。 たとえば、キリアンさんやフォーサイスさんなどのスタイルはもっと抽象的で、動きに傾斜しています。ケースマイケルさんもエド・ロックさんもそうです。日本でも評判のいい金森穣さんや島崎徹さんもあまり意味の強いものは作っていません。これはこれでいいと思いますが、いろいろなタイプがあっていいわけです。キリアンさんにだって「バース・デイ」のような具体的な意味をもつ傑作もあるわけですし、少し前の作品ではありますが昨年来日したシュツットガルト・バレエのジョン・クランコの作品、たとえば「じゃじゃ馬馴らし」などは物語バレエの枠といってもいいでしょう。マッツ・エックさんもそうです。 こじつけるわけではありませんが、そうそうたる金森さん、島崎さん、そして中島伸欣さんの、物語性をもたない作品を集めた新国立劇場の「J-バレエ」が、その観客の少なさに私をふくめて多くの人々に衝撃を与えました。 もちろん、これにこりる必要はまったくないのですが、ドラマチックな、あるいはユーモラスな、物語性のあるバレエをもう一度見直す必要があるのではないでしょうか。この1月には、殺人的ともいわれるエネルギッシュでダイナミックな動きを作る矢上恵子さんも「Karma」(ロミオとジュリエット)を発表しているのです。島崎徹さんもストーリーのあるものも作ってみたいといっているようです。 モダン分野にふれるスペースがなくなりました。今回は各地の現代舞踊団が上京してなかなか面 白い作品を見せてくれたということだけにして、次の機会に詳しく取り上げたいと思います。 |
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