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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと

Vol.71

「基本姿勢の違う4つの「白鳥の湖」」

2003年2月4日
 前回は昨年の回顧で、バレエ分野は一昨年に比べて話題が少なかった、そのなかで物語性のある創作のお話をしました。03年に入って1ヶ月、今年はなかなか話題は多そうです。まず感じるのは早々に古典名作が目白押しということ。もちろん谷桃子バレエ団の望月則彦さんや大阪の矢上恵子さんの新作が発表されていますが、首都園だけでも「くるみ割り人形」が3つ、「白鳥の湖」が4つも演じられたのです。しかも「くるみ~」もそうですが、「白鳥~」もそれぞれタイプの違うものなのです。「くるみ~」の3つ目はまだこれからですので、「白鳥の湖」について少し考えてみたいと思います。
 まず、その4つを上演順に上げておきます。(敬称略)。
 日本バレエ協会神奈川支部第20回自主公演
  演出振付 エレーナ・レレンコワ 主演:大滝よう、法村圭緒
 貝谷八百子記念貝谷バレエ団 貝谷八百子13回忌記念公演
  演出振付 山本敦子(貝谷八百子による)主演:下村由理恵、森田健太郎
 松山バレエ団公演   演出振付 清水哲太郎 出演:森下洋子、清水哲太郎
 2003TAMAフェスティバルバレエ 10周年記念公演(バレエ連盟TAMA)   演出振付 高田紀男 主演:志賀三佐枝、森田健太郎
 主演者は、女性は森下洋子さんのような世界第一級の超ベテランからニュージーランド帰りの新星大滝ようさんまで、しかもその間に下村由理恵さん、志賀三佐枝さんの日本を代表する実力者、男性も清水さんから法村さんのベテラン、新人に、実力者森田さんは2度の登場と、どちらも現在の日本の各年代を代表する顔ぶれです。さらに指揮の福田一雄さんは、貝谷とTAMAの2バレエ団、実は「くるみ~」でも振っているのです。
 ここで考えたいのは、このダンサーの出来栄えやその比較ではありません。演出の問題です。この4つの「白鳥~」は、それぞれあるスタイル、あるいは演出の思想を現わしているのです。実は幕仕立ても、全4幕もあり、1、2幕を合わせて1幕1、2場として全3幕とする、休憩なしで続けるがそれぞれを独立した幕とするなど様々なのですが、比較のときには、4幕仕立てを前提に表現しました。
 まず神奈川支部のレレンコワさん版は彼女はキーロフ出身だけに、いわゆる旧ソ連のスタイルをベースにしています。これをひとことでいうと1、3幕は芝居(マイム)を使いますが、2、4幕の場つまりバレエ・ブランでは芝居はほとんど省略してしまうのです。しかも、芝居もその場のやりとりだけで、ドラマ上の整合性という視点にはあまり意識がないのです。たしかにレレンコワさんの演出は、旧ソ連版のなかでは、全員に細かく演技をさせており、舞台に厚みを感じさせます。しかしたとえば后を選ばなければならなくなっていささか憂鬱な王子を元気づけるためのものであるパ・ド・トロアの時に王子がひっ込んでしまうなど、やや首をかしげるところがあります。また、4幕の最後にオデットと王子は死を選び、悪魔ロットバルトは滅びるのですが、オデットと王子は湖に落ちたままで終わります。これは彼女のアイディアでしょうが珍しい幕切れだと思います。
 貝谷バレエ団のものは、これは良く知られていますが、ダンチェンコ劇場のブルメイステル版にもとづいています。これは音楽を初演時のチャイコフスキーの原曲に近い形に戻し、物語を具体的に説明し、ドラマ性を強めようとしています。最初にオデットがロットバルトに白鳥に変えられる部分、最後にロットバルトが滅び、白鳥たちが再び人間に戻る場面 を付けくわえていますし、3幕で王子にオディール(黒鳥)をオデットに 見誤らせるために民族舞踊のダンサーをロットバルトの手下として設定しています。また音楽ではプチパ/イワノフ版の3幕のグラン・パ・ド・ドゥの音楽を1幕に戻し、パ・ド・トロアに続けて友人たちに踊らせるのです。これはとくに3幕は下手をすると表面 的な説明におわる危険があります。実際には下村さん、森田さんの力でなんとかドラマがみえるようになっていました。ただ、グラン・パ・ド・ドゥは、王子を楽しませるものとして使うにはとくにアダジオの音楽はドラマチック過ぎます。まだ従来のように王子と女官(乳母)の踊りとしたほうが説得力があると思います。
 松山バレエ団の版は、そのバレエ団の演出振付者のオリジナルで、これが本当は望ましいのです。清水さんの解釈は、原作からがらっと変えたものではありませんが、音楽は原作に近く、しかし、ライジンガー(初演)でも、プチパ/イワノフでも、ブルメイステルでもない、清水版、松山版であることは確かです。この特徴は、まず物語を王子・王妃の王国とロットバルト・オディールの王国の戦いと設定し、ロットバルトが王子の王国をわがものにするために、オデットを白鳥に変え、王子を狩りに行かせ、オデットに出会わせ、愛するようにするのです。そして、手練手管を使って王子をだまし、オディールに結婚を誓わせる。それによって彼の国を滅ぼそうとします。これは具体的には、ロットバルトが1幕から登場し、王子に弓をプレゼントします。いぶかしがる王子に彼は空飛ぶ白鳥を見せ、その気にさせます。一種の催眠術でしょうか。そして王子が誤って愛を誓ってしまった時、ロットバルトは弓を真二つに折ってしまいます。王子は全力をふり絞ってロットバルトと戦い、彼を倒しますが同時に自分とオデットも命を失います。しかし、2人は天国で結ばれるのでなく、未来に再生することを見せて終わります。装置、衣装などの美術も松山風ですし、振付も全く違います。森下さんの存在がこのコンセプトを豊かに具現したことは間違いありません。
 さて、最後の高田版は牧阿佐美バレエ団のウエストモーランド版をベースに彼のアイディアを付け加えたものです。この特徴は、基本的にはプチパ/イワノフ版に添っていますが、マイムをきめ細かに活用するとともに、日常的な動きも取り入れて、できるだけそれぞれの場に意味を持たせ、説得力を高めようとしていることです。とくに2幕の王子とオデットの出会いでは、王子のなぜそんな姿でここに、という問いに対して、オデットの説明が詳しくマイムで語られます。確かに王(女王)、悪い、泣く、愛する、結婚、誓うなどのマイムには決められた形がありますが、それをしらなくても感情がこめられていると大体の意味は分かります。旧ソ連版では、この部分はほとんど説明なく、2人が組み合ったり離れたりして踊るだけです。
 これらの特徴や違いを詳しく説明してもことばでは分かりにくいし、スペースも足りません。そこでもう一度要点を整理しておきます。神奈川と多摩(TAMA)は踊りの部分はあまり変わらないのですが、とくに2、4幕のマイムの考え方が正反対です。貝谷と松山は音楽は原曲に近いのですが、貝谷はブルメイステル版を基礎にしているのに対して松山は基本コンセプトから振付までほとんど清水オリジナルであるということでしょうか。
 こんな見方も面白いと思います。

 




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