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幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと

Vol.75

「公立文化施設と舞踊公演の企画
   
ー舞踊を理解し、関心を持ってもらうためにー

2003年4月3日

 (全国)公文協、正式には社団法人全国公立文化施設協会という堅苦しい名前の団体があります。この団体は、全国に2千2~3百あるといわれている公立(国、都道府県や市町村立)の会館、ホールなどの文化施設のうち約7割が加盟しており、たんなる親睦や情報交換にとどまらず、施設の目的を効率的に実現するための企画を立て、実行するものです。そのための事務局が東京オペラシティにあり、文化庁からの委嘱業務も含めて、文化施設の活性化と芸術文化の振興のために積極的なサービスを行っています。前にもこのホームページで触れたことがありますが、私もここのアドバイザーとして、舞踊に関して各施設に助言する仕事をしています。社団法人になるまえからですから、もう10年になりますか。
 最初は問い合わせや依頼に答えるという話だったのですが、実際にそれらはほとんどありません。それは、まず自主事業(施設の主催事業)が少なく、主体が貸し館であるところが多いこと、そして主催事業でも音楽や演劇、あるいは伝統芸能系がほとんどで、舞踊は極端に少ないためだと思います。もちろん、舞踊を積極的に取り上げている施設もあります。それは舞踊の専門家や関心の極めて高い人を責任者やスタッフにおいているところで、残念ながらそういうところはあまり多くはないのです。
 なんとか、公立の会館、ホールで舞踊をもっと取り上げてもらいたいと思っているのですが、バレエ、ダンスはいかがですかと御用聞きにまわるわけにもいきません。
 それで、まず文化施設の担当者に舞踊について関心を持ってもらうことから始めること、そしてそのためにはいろいろな形で舞踊に触れ、理解してもらうことが必要だと考えています。その具体的な方法として次の3つに焦点をあてています。
 ひとつは公文協の機関誌『アート・エクスプレス』に舞踊の記事をできるだけたくさん載せてもらうことです。最近号では森嘉子さんとその舞踊団、とちぎ(宇都宮)の文化財団のワガノワ・バレエ・アカデミーに留学のためのオーディション、そして貫成人さんにピナ・バウシュとヴッパタールについて書いてもらいました。それ以前にも、たとえば三浦雅士さんのペジャールの『ザ・カブキ』論、NPO法人となっNBAバレエ団について芸術監督の安達哲治さんに、さらに麿赤兒さんに大駱駝艦について、また新国立劇場のバレエ研修所について。これ以外にもいろいろなかたに書いていただいています。
 さらに具体的なアプローチとして、このたび「バレエ・ダンス公演企画の実際」という小冊子を作りました。これは、文化施設の役割から、バレエ、モダンダンス、プトー、フラメンコの簡単な歴史と現状、舞踊創作や公演の実際のケース、公演予算の立て方、宣伝の方法その他舞踊に関するいろいろな情報をまとめ、舞踊公演の自主企画をたてるために参考にしてもらおうとしたものです。この点については改めて詳しく取り上げることがあるかもしれません。もう一つが、毎年開催している公文協と文化庁が主催する、公立文化施設の担当者向けの研修「アートマネジメントセミナー」で舞踊に関わるプログラムをできるだけ数多くとりあげることです。
 少し前置きが長くなりましたが(毎度のことで)、2002年度はこの2月19日から21日まで代々木の国立オリンピック記念青少年総合センター(通称オリセン)で開かれたセミナーの舞踊関連プログラムについて紹介したいと思います。
 今回は3日(正味2日)間に合計16のブログラムが行われましたが、そのうちワークショップが4件ありました。能管、日本舞踊とモダンダンス、演劇(水と油)にくわえて、私は「デモつきワークショップー動いて知るダンスの知識と魅力」というタイトルのワークショップを担当しました。
 ワークショップとはなにか、2時間でどれほどの効果があるのか、という問題はあります。本格的なものはもっと長い期間が必要でしょう。限られた時間でのワークショップでは、まず体験ですが、何を体験するのか、それを表現と創造、そして楽しさと考えました。さらに今回は少し欲張って、バレエの形式性の特質、そこからのモダン、コンテンポラリーへの変化を、表現とスタイルの関係に焦点をあててデモ、つまり実際の動きで見てもらい、それを前提として受講者に参加してもらうことにしたのです。
 まずバレエの表現(創造)は、きめられたパントマイムの組み合わせによって行われることを実際に演じました。デモンストレーターは砂連尾理さんとデュオで今売り出し中の寺田みさこさん、彼女は石井潤さんのところの出身で、現在もクラシックもレッスンを受けているのです。その彼女にトウシューズを履いてもらい、マイムとアダジョをやってもらいました。その相手は不肖私、昔取った杵柄で、直前のちょっとしたリハーサルだけで組んで踊り、そしてマイムのやりとりもなんとかこなしました。たとえば、グリッサード=アラベスク=パンシェ=プロムナード=パ・ド・ブレ=ピルエット、こういえば訓練を受けているダンサー同士なら理解し、実際に踊れる、これがバレエなのですね。
 この形式性にあきたらず、もっと自由な動きや構成をめざしたのがフリーダンスからモダンダンス、さらに自分自身の感性や相手との関係のなかで動きや表現を求めていくのが現在のダンス、いわゆるコンテンポラリーダンスということができます。この点についてはJCDNの佐藤範一さんの説明で、実際の創造体験の指導は砂連尾/寺田さんが、そして最後にお2人が作品の一部を実際に踊ってみてもらいました。このお2人は昨年のトヨタコレオグラフィーアワードを受賞しています。
 大学のアートマネ専攻の学生を含む約60名の参加者は2人1組でコンタクト・インプロビゼーション的な表現、創造体験に積極的に参加していました。
 参加者にどう受けとめられたか心配でしたが、終了後の雰囲気も良好でしたし、後からのアンケートでも、こちらの意図を理解した上での参考になった、面白かったという意見が多く、ほっとしています。
 さらに嬉しかったのが、8月に行われる北海道文化財団が担当する文化庁委嘱事業としての「アートマネジメント研修講座」のテーマに舞踊(洋舞)を取り上げる予定だが、そこにもこの一部を織り込みたいという話をいただいたことです。これまでも各地でアートマネジメント研修はいろいろと行われており、音楽や演劇はそのなかによく取り上げられているのですが、舞踊はまったくお呼びでなかったのです。それが2日間すべて舞踊というアートマネ研修を行うという。私の努力が実を結んだというわけではありませんが、いずれしろこれは大袈裟でなく舞踊界にとって画期的な出来事だと思います。
 これが成功し、全国各地で舞踊をテーマとした研修講座が開かれることをせつに望みます。先の「バレエ・ダンス公演企画の実際」もいいテキストになると、いささか我田引水ですが思っています。
 

 




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