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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
Vol.77 「あせらず、着実に基礎から
 ーコンクールの講評に代えてー

2003年5月2日

 コンクール列島、日本。各地、各時期にコンクールが行われています。この2週間にも2つのコンクールが開かれ、私も審査に参加しました。コンクールそのものの功罪、そしてその運営の方法にもいろいろな意見があります。この点についてはすでにこのページで書きましたので、今回は少し視点を変えて私の考え方を述べてみたいと思います。
 この2つのうちの1つが東京新聞主催の全国舞踊コンクール、もう1つはまちだ全国バレエコンクールです。東京新聞のコンクールでは、予選の結果発表のあとに審査員による講評があります。これは審査員の持ち回りで、今年は私の番ではなかったのですが、まちだのコンクールも合わせて、ここで講評というかたちで感想と参加者・指導者へのアドバイスをしてみたいと思います。とくに一番若いクラス、小学生の年代についての感想です。というのは、私の知る限りこの年代を対象にしたコンクールは他の国にはほとんどありません。つまりまだ早すぎるということで、同じ意見が国内にもあるのです。これはモダンダンスもそうですが、とくにバレエ部門についてよくいわれることです。
 したがって、ここではバレエの児童、小学生の部についての講評ということとします。これは、若年者対象のコンクールについての私の考えを示したものでもあります。

  みなさん、大変おつかれさまでした。正直のところ、いま発表された結果には納得できない方もおられると思います。ただ、わたしたちは少なくとも自分の判断に忠実、公正に採点したつもりです。たしかに、審査員のなかでも評価が分かれることはあります。だからこそ多くの人の目をとおし、またその採点を公表しているわけで、たとえばオリンピックの体操やフィギアスケートでも同じです。しかも、これはあくまで現在の評価であり、若いみなさんにはまだまだ時間というか将来は十分にあるのですから、今日の経験を生かしてぜひ一層の向上をめざしていただきたいと思っています。
 ここで、今回の審査について、感じたままにいくつかお話してみたいと思います。まず、きわめて多くの方が参加してくれました。バレエという芸術のためにこんなに多数の若いみなさんががんばっている。とてもすばらしいことです。
 ただ、率直にいいますと、参加された方々のなかに、一般的にいわれているコンクール、つまり、プロへの登竜門、その第一歩という面から見ると首をかしげる人がおられることも事実です。たしかに小学生のみなさんにプロを前提としたレベルを要求するのは無茶な話です。プロ、つまり人に見てもらえる一人前のダンサーになるのは、まだ5年も、あるいは10年も先の話なのですから。といっても、将来の成功をめざすのなら、現段階でもそれなりの条件と、準備が必要だと思います。なぜ、こんなことにこだわるのかというと、これからの将来のためにということで申し上げても、わたしは将来バレエを続けていこうとは考えていない、ここしばらく綺麗な衣装を着て、舞台で踊れればそれでいいのだという方にはあまり意味がなくなってしまうからです。もちろん、失礼ないいかたになるかもしれませんが、そういう方がいるのは結構なことで、プロになる気のない人はコンクールに参加すべきでないなどというつもりはありません。ただこれからお話しすることは、将来一人前のダンサーになりたい、それをめざしているという人のためのものだということです。もちろん、今将来を決めなければいけないというわけではありませんが、プロになるには厳しい条件と長い間の努力が必要です。これはとくに指導者のかたにお願いしたいと思います。
 ということで、いくつかをお話しさせてください。児童の部にもすばらしい素質と、この段階としての基礎をきちんと身につけている人もいます。ただ、全体として感じるのは基礎が不十分の人が多いということです。バレエに進もうと考えている人には当然ですが、コンテンポラリーの分野、あるいはミュージカルやジャズ系をめざす人にもクラシックの基礎は絶対に必要です。そのなかでもとくに重要なのはアン・ドォールです。私のみるところ、これが完全な人は一人もいないといってもいいくらいです。もちろん、始めてまだあまり長くない人も多いでしょうから、そのことをだめだといっているのではありません。問題にしたいのは、それにもかかわらずピルエットを2回も3回もまわる人がいることです。あえていいます。アン・ドォールがほとんどできていない人にはピルエットは無理です。これは当然、ポアントワーク(トウシューズ)についても同じです。指導者の方はお分かりでしょうが、足先だけでなく腰からのアン・ドォール、ひざのうしろをきちんと伸ばすこと、そして爪先の柔らかさとそれを十分に伸ばすこと、これがある程度までできるようになるまでトウシュウズをはくこと、いわんやそれでピルエットやトゥール・シェネなどは絶対にするべきではありません。もとろん下半身に合わせて上体のトレーニングも重要です。男性もトウシュウズこそ履きませんが、考え方はまったく同じです。小学生の年代では、アン・ドォールや爪先、ひざなどが不十分でピルエットが5回まわれてもちっとも評価できません。じつは今日の予選で、空中回転は1回、ピルエットは2回、しかしひざや爪先、そしてポール・ド・ブラ(腕の使い方)をきちんとしようとしている男の子が、回転の数はずっと多いのですが基礎がよくできていない子よりも上位に評価されていました。これは当然のこととはいえ、審査員のかたがたはさすがだと思いました。偉そうないいかたで御免なさい。
 もうひとつ、あえていってしまいます。これは上の年齢の人たちに多いのですが、体格、もっといえば栄養のよすぎるダンサーが目に付くということです。日常的な場では、健康上の問題は別として、それも云々するわけではないのですが、将来ダンサーとして舞台に立とうと思われているのでしたら、スタイルはきわめて重要です。キャラクターとしての道はあるでしょうが、それにも限界があります。もし体質がそうであれば改善しなければなりませんし、自己規制は絶対に必要です。森下洋子さんが現在でも最高レベルを維持しているのは、厳しい自己規制によるものだということはよく知られているとおりです。
 幼いうちからきちんとしておかないと、シニアになってからそれを是正しようとしても極めて難しいということを理解していただきたいと思います。
 現在大きな舞台に立っているダンサーでも、基礎が不十分で、それが一層の成長のネックになっているダンサーが、とくに男性にはみられます。いまは男性が貴重ですから、舞台の機会はたくさんあります。しかし、これからはそうはいかなくなります。指導者の方々は男性だからといって甘やかさずに、しっかり育成・指導して下さい。それが本人のためでもあります。そうしないと、中国や韓国のダンサーに負けてしまいます。
 最初にも申し上げたように、わたしはプロになる気はないという人もいるとは思います。しかし、そういう人でも基礎をしっかりしたほうが、じょうずに美しく踊れますよ。
 ここまで申し上げてきたことは、新しいことでも、独特の意見でもありません。外国の舞踊学校ではどこでもやっているし、指導者の方も十分にご存じのことです。にもかかわらず、現実にはいろいろな事情からなかなかそのとおりにならない。しかし、焦らずに着実に指導するのは極めて大事で、この機会にあえてお話しさせていただきました。他意はありません。口幅ったいことを申し上げたことをお許し下さい。

 

 




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