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うらわまこと
Vol.79 「バレエの創作作品とトウ・シュウズ」
 
-2つのバレエ団員による創作公演からー

2003年5月28日

 5月の中旬に、似たようなタイプの公演を名古屋と東京で続けて見る機会がありました。17、18日の佐々智恵子バレエ団の「バレエ・セッション2003」と、19、20日の谷桃子バレエ団の「クリエイティヴ・パフォーマンス・アット・パーシモン」です。似たようなといっても、同じ作品を上演したということではありません。それをいうなら新国立劇場バレエ団とチャイコフスキー記念東京バレエ団が『白鳥の湖』で、新国立劇場と東京文化会館で同じ時期にまさに激突しています。これも興味がありますが、今回書こうというのはこういうことではありません。それは団員による創作の会という点です。これは、生徒を含む発表会というのではなく、あくまで団員のための試演会、あるいは真の意味のワークショップともいうべきものです。もちろん、スタジオ公演ではなく、きちんとした会場での、入場料をとっての公演です。
 この2つのバレエ団は、ともに長い歴史をもち、堅実に、高いレベルの活動を行っています。そして古典とともに創作にも力を入れ、本公演でも創作の大作を発表しています。しかも団員による創作発表の会は、ともに長い歴史をもっているのです。佐々智恵子バレエ団では、毎年欠かさず開催して今回が第15回目の記念公演です。谷桃子バレエ団のほうは過去に「アトリエ公演」としてしばらく続けていましたが、少し間をおいて「クリエイティヴ・パフォーマンス」として復活の第1回です。
 モダン、コンテンポラリーなどのダンス系では、上演するのはほとんど創作作品であり、指導者だけでなくある程度経験を積んだダンサーは創作に手をそめるというのが一般的です。ただし、舞踊団としてそのような場を設けるということはあまりありません。中堅、若手のダンサーたちのために創作発表の場を設けるのは、主として各地の協会やプロダクションです。もちろん、団員や弟子たちのために創作の場を設定することがまったくないわけではなく、たとえば麿赤兒さんの大駱駝艦は壺中天(スタジオ兼小劇場で)若い踊り手による公演を連続して行っていますし、片岡康子さんがこのところ毎年お弟子さんの作品による会を開いているのも記憶に残っています。(5月末にもやります)。
 バレエの場合には、たとえば日本バレエ協会が若い協会員のために創作発表の場をつくるということはないようです。ただそれとは別に、合同公演、たとえば「ヤングバレエフェスティバル」などで、力のある振付者を起用するということはありますが。たしかにバレエはダンスと違って古典、スタンダード作品がたくさんあり、公演でも創作の占める部分は大きくありません。ただし、スタジオやスクールの主宰者がその発表会に創作を上演することはしばしばありますが、現役のダンサーが創作を発表するとか、自作を踊るというケースはきわめて少ないのです。
 これは、モダン(ダンス)とクラシック(バレエ)との本質的な違いからきているともいえますが、バレエでも創作が求められていることはいうまでもありません。ただし、モダンを含めて、ダンサーとして経験が豊富なら作品が作れるというわけではありません。創作には手法の勉強、そして才能、さらに経験が必要なのです。
 そのためにも、そのような場、機会がなければなりません。ダンサーの技術については民間のスタジオ、スクール、研究所などと呼ばれるものが各地にありますし、コンクールもたくさんあります。しかし、創作については教えるところもほとんどないし、コンクールもそうたくさんはありません。しかも、それに参加するのは圧倒的にダンス系です。
 話が遠回りしましたが、そこでこの佐々智恵子、谷の両バレエ団の創作の会が貴重なのです。この公演の批評をするのがこの欄の目的ではありませんので、個々の作品評はしませんが、両公演をとおして共通に感じられることがあります。佐々さんの会の5作品、谷さんの会での4作品のなかで、創作としては(完成度は別として)、やはり振付者としてすでに注目されている川口節子さんと黒田育世の作品が目に付きます。なお、佐々さんの会ではすでに舞踊団をもって世界各地で公演している三代真史さんも出品していますが、彼はすでに自分のスタイルをもっていますから、創作としてとりあげるのとは少し別のところにあります(つまり商品としてみるべきなのです)。
 黒田さんの作品はいわゆるコンテンポラリーダンスの範疇に入るもので、バレエ作品とはいえないでしょう。もちろん、バレエかダンスかを区分することは本質的には問題ではありませんし、また彼女の作品を踊った高部尚子さんと彼女自身が、クラシックのトレーニングをしっかり受けていたことがその成功の大きな鍵であったでしょう。しかし、バレエダンサーの創作としては、異質のものです。
 そこへいくと川口さんの作品(『奇跡の人』)は、作法、構造、そして技法的にバレエの系譜にあります。ヘレン・ケラーとサリバン先生の関係を描いたこの作品は、基本アイディア、空間構成、振付とも彼女らしい才気のみえるものでした。しかし、これもバレエシュウズ。トウ・シュウズを使った作品は佐々さんの会で2作、谷さんの会で1作でした。ここで正直感じたのはトウ・シュウズによる創作の難しさです。
 バレリーナがトウシュウズを使ってつま先で立つようになったのは、今から170年ほど前、有名なマリー・タリオーニの『ラ・シルフィード』からだといわれています。つまり、これは妖精や鳥(たとえば白鳥)や人形の役に適したものとして利用され、さらにフェッテやピルエット、トゥール・シェネなどの技法、そしてアラベスクやアチチュードなどのポーズといった決め事に効果を発揮しましたが、心理や感情の表現に直接かかわることは、暫くはありませんでした。
 このボアント(爪先)の動きにドラマ性を与えたのがフォーキン(たとえば『ペトルウシュカ』)、チューダー(『ライラック・ガーデン』、『火の柱』)などであり、さらにクランコ、ノイマイヤーさんへと続きます。一方、動きの抽象化に利用したのが、バランシン、フォーサイスさんたちです。エドワード・ロックさんにもポアントを使った作品がありますし、ローラン・プチさんも新作(たとえば『デューク・エリントン・バレエ』)でもトウ・シュウズを使っています。わが国でも、佐多達枝さん、小川亜矢子さん、望月則彦さん、今村・川口さん、さらに佐藤宏さんなどは、トウ・シュウズを使った優れた作品を作っています。
 今回の公演では佐々智恵子バレエ団の小川典子さんがストーリーのあるもの、神戸珠利さんが象徴的なもの、そして谷バレエ団では植田理恵子さんがややコミカルな風合のある抽象作品を発表しています。それぞれに工夫と努力のあとはみえますが、それぞれもう一息です。自分がどのようなタイプの作品を作るのかをまず明確にして、構成、振付や音楽、美術を具体化するわけですが、そこにおいてトウ・シュウズにこだわるのなら、まねするという意味でなく、諸先輩のトウ・シュウズ作品を研究するとよいのではないのでしょうか。トウ・シュウズを捨てるのではなく、それをうまく生かした作品はとてもすばらしいと思います。

 

 




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