D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
Vol.85

「「創作」に注目ー夏休みにも各地ですぐれた創作がー」

2003年8月27日

 1年中そうですが、とくに夏休みになると全国各地でいろいろな団体、グループが会を行います。古典や
スタンダードの大作もありますが、それは一般には秋から暮れ、あるいは春先で、この時期にはアトリエ公演や発表公演が主体で、そのなかで小粋な創作がしばしば見られます。
 今回はそのなかから私が注目している4人の作品を紹介したいと思います。
 まず名古屋でみたもの、3人です。
 松岡伶子バレエ団は、わが国を代表するバレエ団ですが、毎年夏(7月)にはアトリエ公演として、若い団員や生徒に舞台の機会を与えるとともに、わが国を代表する振付者の作品を上演しています。これまで、篠原聖一、坂本登喜彦、望月則彦さんなどが登場していましたが、今年は島崎徹さんの作品を取り上げています。島崎さんはカナダや欧州で活躍し、新国立劇場をはじめ、国内外で多くの作品を発表している、今人気の振付者の一人です。松岡さんとの付き合いは古いのですが、こういう形では久し振りの登場です。
 作品は2つ。ジュニアのめの「SWANS」と団員のための「OUR SONS」です。どちらもクラシックとは違う彼独特のオフバランスで身体をくねらす動きですが、「SWANS」はジュニア向けらしく、ややファンタジック、それにたいして「OUR SONS」の方は、コレルリの古典的な音楽での、透明感のある、しかも女性の美しさを引き出すような作品でした。彼じしん、これが私のバレエです、といっているのですが、ここしばらくの彼は、決して題材も音楽、衣装も日本の伝統的なものを使っているのではないのですが、どことなく日本的な清浄な精神を感じさせ、また女性のもつ美しさを十分に意識した舞台づくりになっています。
 小池亜貴子さん以下のダンサーたちもよく彼の意図を実現していました。
 次に2人の名古屋の女性振付家です。
 まず7月には川口節子さん。佐々智恵子バレエ団出身で、独立してからも佐々智恵子バレエ団の創作の会や同人との会にも参加、そこでもストラビンスキーの「結婚」などセンスのある作品を出品、少しずつ外部からも認められるようになりました。
 今回のメインはミュージカルの「アニー」の舞踊化。たんに子供向けとか出演者が全部子供というわけではありませんが、いわゆる新しい感覚の作品というよりは、物語をうまく運ぶところに主眼があります。彼女も分かりやすく楽しくまとめています。といってもいろいろなアイディアがちりばめられて、彼女の才能の豊かさを示しています。
 この会での現代作品は、小品集のなかの「Storms」。ストーム、嵐に翻弄され、逃げ惑う人間描いた、彼女らしい小気味良い動きの作品です。この会では、子供たちの作品でも「10人のインディアン」や「ひまわり娘」など、大人でも十分に楽しめるアイディアとセンスの小品が多数みられました。このような作品が、たとえば東京新聞のコンクールの児童舞踊の部に出品されたら評判になるのではないのかなと、つい思ったものでした。 
 私は従来から、ぜひわが国のだれかにも古典バレエの現代版、あるいは自分版を作ってもらいたいと思っているですが、島崎さんとともに、川口さんもたとえば「白鳥の湖」や「ジゼル」のユニークな自分版に挑戦してもらいたい1人です。
 北川淑子さんは、まだあまり注目されるところまでには至っていませんが、あなどれない力をもっています。ジャズ系の出身といえるのですが、現在はバレエ、しかし中心的な動きははモダンダンスのスタイルに入るといっていいでしょう。しかし、この日のジャニス・ジョプリンの「サマータイム」などによる「JANIS」には、ジャズの素養も感じられます。彼女の曲からとった「nothing is left to loose」(失うものはなにもない)をテーマとしたこの作品は、ブルーで虚無的な空気をシャープな動きで表現したもので、なかなか見応えがありました。ここも川口さんと同じで、メインは「みにくいアヒルの子」。このよく知られたストーリーを幼い子たちもふくめて、突飛なアイディアを加えながらなかなか感動的にまとめていました。
 ここには、お弟子さんたちが、きちんと名前をだして自演、あるいは子供たちに小品を振り付けています。それぞれがなんとなくお師匠さんと共通するもの、ちょっとずれた感覚が魅力的みたいなところがあってこの点でも興味を引きました。
 ここまでは名古屋の公演。もうひとつ特記したいのは大阪のKバレエスタジオの会です。ここは矢上3姉妹、すなわち香織、久留美、恵子さんの主催するスタジオです。とくに新国立のプリンシパルとして抬頭してきた山本隆之さんの出身母体として、また恵子がコンテンポラリーの振付者として国内外で活躍しだして名前が知られるようになってきました。確かに恵子は振付に素晴らしい才能をもっていますし、ダンサーでも福岡雄大、福田圭吾さんなど若い力が多数おります。しかし、このスタジオの今日あるのには、香織さん、久留美さん2人の姉たちの存在も忘れてはなりません。
 このスタジオの発表会がありました。主体はクラシックで、山本さんをプリンシパルとした「コッペリア」、若手のグラン・パも見応え十分でしたが、この欄では創作を対象としていますので、恵子さんの「Toi Toi」をとりあげます。彼女の作風はクラシックをベースにしながら、オフ・バランスをまじえ、激しく鋭い動きに特徴があります。
 この日の作品はますます彼女らしさが過激になってきたような気がします。久留美さんもよく動きますが、恵子さんはダンサーとしてもすばらしく、作品の芯として若さ絶頂のテクニシャン福岡雄大さんと見事なデュエットを見せました。クラシックでもコンクール上位を占める他のダンサーたちも素晴らしい動きで作品の魅力を高めました。
 このスタジオは、1月に恵子さんの作品で正公演を行い、今回は発表会という位置付けなのですが、なまじっか公演よりははるかにレベルの高い、しかも斬新さをもった充実したものでした。
 わが国では、ダンサーは素晴らしいがいい振付者がいないということがよくいわれます。しかし海外で活躍しているのはダンサーだけではありません。振付者もけっこうあちこちで請われて作品を発表しています。たしかに、まだ十分とはいえませんがこれは作品セールスの問題もあるでしょうし、観客の問題もあると思います。つまり、創作では人が集まらない。したがって新作は比較的集客に気を使わなくてよい発表会で上演する。こうすると余計注目されにくい、ということになってしまうのです。
 ここにあげた以外にも、この期間だけでもいくつか注目すべき創作作品が上演されています。もっと「創作」に興味をもつ人が増えるといいと思います。このページでもできるだけ創作をとりあげていくつもりです。

 

 




掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。
お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。
また、このページに関する意見等もお待ちしております。
 
mail:video@kk-video.co.jp