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舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」
前回(先々週)のこのページで、モダンダンスに対するコンテンポラリーダンス度を計る基準項目について、前半の5つを取り上げて説明しました。その時も申し上げたのですが、モダンダンスとの違い(それにこだわる必要ないということも含めて)を本質論でやればやるほど分かりにくくなってしまいますので、ある意味でお遊びになってしまうことを承知で、形にこだわって考えてみました。つまり、かっこよくいうと、具体的に描写することによって本質(の違い)に迫るというディスクリプティヴアプローチです。 さて、前回はテーマ、動き、出演者の性格(役割)、衣装・美術など、そしてメイクアップの5つをピックアップして対比させましたが、今回はつぎの5項目目です。 6.音楽 a.現代音楽が多い、古典でもポピュラーなものは避ける b.ポップス系、レトロなもの主体。クラシックもポピュラーなものが多い *分かりやすい例でいいますと、a.ではタンゴを使う場合でも、ファン・ダリエンソやフランシスコ・ カナロ(ブエノス・アイレスの街の香りのするド・タンゴ=ド・はド演歌のド)でなくアストル・ピアソ ラを、というぐあい。それに対してb.はラテンでもレトロなポップスたとえばラ・パロマ、グリン・ア イズ、ジャズでもデキシーや1930年代のダンス音楽。先日の北村成美の作品ではウエスタン・ヨーデル (キャトル・コール)も。さらに珍しいきのこではトニー・谷(しかもユー・ピロング・ツー・ミーのし ゃれ歌)まで使っていました。私はこういうの大好きです。クラシックでも、モーツァルトやシュトラウ スを使うのはb.に多いようです。ただ、現代的な工事や機械を思わせる衝撃音的なサウンドを使う一派 もあり、これはどちらにもあります。 7.出演者のせりふ、音声 a.ほとんどない、せいぜい効果音的なもの b.個人が掛け声やぼやきなど、日常的な言葉を発することがある(ストーリーを運ぶのでなく) *a.では「ハッ」とか「フー」といった音声、あるいは掛け声を出すことがたまにはありますが、原則 としてはダンスは声を出さないという姿勢をつらぬいています。それに対してb.では、声をださないほ うが多いとは思いますが、コンドルズのように落語をやったり、そこまでいかなくても、ちょっとしたそ の場のやりとりやぼやき、驚き、怒りなどの独り言など、ことばを発することは少なくありません。さら に、出演者同士で舞台上で私語をかわしたりすることもあります。これは動きがいわゆるダンスだけでな く、自転車にのったり、じゃんけんしたりと日常的なものが使われるためでもあるでしょう。 8.プログラム(公演パンフレット) a.高価でなくてもきちんと作る b.ごく簡単(ワープロのコピー程度)。チラシのほうが豪華なことが多い *とくに付記することもないのですが、印刷物でデザインに凝ってしまい、よく読めない場合が時々あり ます。美的感覚も大事ですが、まず書いてあること、つまり出演者や振付者、スタッフなどは分かりやす く載せて欲しいものです。これはどちらかというとb.になるでしょう。 9.客席(会場) a.ゆったり、座席指定(全席あるいは一部)のこともある。 b.狭い、つめこむ。床に座布団、履き物を脱ぐこともある、全席自由。 *a.は通常プロセニアム形式のホールを使用します。したがって固定式の椅子に腰掛けて見るのが一般 的です。それに対してb.ではもちろん例外はありますが、倉庫やスタジオなど、平土間に観客席を設定 、椅子があればいいほうで、靴を脱いで上がって布団に座るというケースも少なくありません。そして幸 か不幸か満員のことが多いので、どんどん詰め込まれて真ん中に座ったつもりが奥の方に押し込まれてし まったりします。この雰囲気を楽しめる人もいるのですが、老人にはつらいものがあります。経費の関係 もあるのでしょうが、定員は守っているのかなと心配になるときがあります。それを確認する年寄りがい たら、多分私です。これはいやがらせでなく、いざ(火事とか地震)というときのためです。 10.開演時間(休日、マチネーを除く) a.比較的早い。6時30分からせいぜい7時 b.遅い。7時以降、8時開演も少なくない *これは、観客の便宜もありますが、始まりとともに終演との関係もあります。上演時間はa.は2時間 前後、b.は1時間から1時間半くらい(例外は多いです)。どちらもクラシックバレエに比べると大分短 いです。 ここまでで10項目になってしまいましたが、次の2項目をエキストラとして加えたくなりました。 E1.営業活動、公演形態 a.スタジオ、スクールをもち、その生徒とゲストによって、年1~2回新作を発表する。公演日は 比較的大きいホールで1日。営業や制作担当をとくにおがず、チケットも主宰者や生徒(弟子)の関係で 売りさばく。とくにレパートリーを準備してはいない。舞踊団体による合同公演もしばしば行われ、そこ を発表の場とするダンサーも多い。 b.カンパニーの形をとり、制作担当やプロデュース専門会社と契約し、営業活動を行っている。レ パートリーを整備しておき、売りこみの資料にしている。中小の会場で複数日公演を行う。ホールやプロ デュース会社主催の会もあり、海外との交流も活発である。 E2.観客 a.出演者の関係者(家族、友人など)が多い。そのなかにはダンサーもいて、お互いにチケットを 負担し合っている。批評家や研究者はあまり多くなく、したがってロビーでの交流もダンサーや指導者中 心。 b.関係者よりも純粋の愛好者(ファン)が多い。批評家、研究者も多く、ロビーではこれらの顔見 知り間の交流が行われている。この意味では世界は広いとはいえない。 お分かりの通り、a.がモダン系、b.がコンテンポラリー系です。 上記のとおりきちんと割り切れるわけではなく程度問題ですが、さらに悪乗りすると・・・ b.が10以上=コンテンポラリー度高い 7~9個=コンテンポラリー度やや高い 4~9個=コンテンポラリー度は高いとはいえない 3つ以下=コンテンポラリー度はあまりない もちろん、本質論としての創造性、新奇性、個性は重要ですが、この判断は難しい。 例をあげて見ましょう。 9月末の1週間(9月22日から28日まで)、次のものを見ました(敬称略)。 22日コンドルズ、23日H・アール・カオス、25日日韓ダンスコンタクト、26日イデピアン・クルー、28日シゲニカルゲート(北村成美)。 この5つのコンテンポラリー度はどうでしょうか。a.b.の判断が難しいものもありますが、そこはえいやっ!と。 コンドルズ=10~11(今回は会場がシアターアプル) ・・アール・カオス=3OR4(祭日で開演が早かった) 日韓、出演者(4組)によって違うが=3程度(韓国)から9~10(たかぎまゆ) イデビアン・クルー=11~12 シゲニカルゲート=11~12 もちろん、これは私の独断と偏見によるお遊び的判定ですから怒らないで。多分この基準では、これ以外でも珍しいきのこ舞踊団やダンスシアタールーデンスはコンテンポラリー度が高く、勅使河原三郎、伊藤キムは中間になるのではないでしょうか。 10月にはいってからのローザスは、日本のアーチストの公演とは会場とかプログラム(パンフレット)などの点では同列に比較できませんが、全体としてb.のウエイトが高いことは間違いないようです。 もちろん、a.b.どちらがいいというものではありません。これは私の信念(おおげさ)ですが、舞踊はスタイルでよしあしがきまるものではありません。いいものはいい、だめなものはだめ、あるいは個人の感覚に合うか合わないかなのです。 ただ、一般にa.と思われている人、団体でもこれで判断するとb.がいくつもあったり、その逆もあったりして、この意味での新しい発見もあり、けっこう面白いものです。