舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト
撮影・映像制作に関するお問い合わせはこちら
舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」
毎年11月末から12月初めは、投票やアンケートの季節です。多くの分野で年間の賞やベストがこれから決まるからです。スポーツ界ではプロ、アマとも華やかですし、芸術文化の世界でも、文学(出版)、映画、美術など、さらに音楽、演劇などの 舞台芸術でいろいろな選定、発表が行われます。舞踊界でも他の分野に比べると決して量(種類)や質(賞金など)は多くないのですが、それでも少しずつ増えてきています。 ここで少し授賞や表彰について整理してみたいと思います。 まず、その意味です。認められて大変嬉しい、これからの励みになる、が優等生的な反応でしょう。さらに、気持ちの面だけでなく、キャリアにプラスになり、これから仕事の数、役の大きさや出演料などで有利になるかもしれないというのが、実質的な効果です。一方、これで上がりという意味、これまで大変お疲れさまでしたという意味をもっているものもあります。さらに、人や場合によっては賞など要らないとか、内容に不満だからと辞退することもあります。 賞についてさらに考えるには、その性格を明らかにしておく必要があります。 賞(表彰)は次の2種類に大別することができます。すなわち、賞を授ける方が勝手にというか、一方的に選考、決定するものと、賞を目ざして参加、手を上げたものの中から審査して決めるものです。大きな賞は前者に属するものが多いようです。たとえば文化勲章、あるいは各種の叙勲、褒章はみなこれにあたります。ノーベル賞で、この前田中さんがいきなり選ばれてまず本人が驚いたというのは典型的な例です。年間賞に相当するものはほとんどこれですが、さらにとくに何か社会に役立つような大きな成果を上げたときなどに特別に与えるものもあります(国民栄誉賞など)。また後者としては、コンクール、コンペティション、あるいはフェスティバル(~祭)のようなものがこれに当たります。ただし、今回はコンクール類は別に考えます。たしかに、芸術祭、映画祭なども一種のコンクール、コンペティションではありますが、参加資格がプロだということで、若手、新人のコンクールとは一線を画したいと思います。もちろん、アマチュアに賞を出すことがあってもかまいませんが。 また各種の支援、助成も選考方法は似ているところがありますが、これも本質が異なります。 受賞者を決定し、発表、表彰する主体による区分もできます。一つは公的なもの、たとえば国や都道府県、市などの地方自治体が与えるものです。もう一つは私的な賞です。といっても当然に社会的な意味をもつわけですが、そのなかには芸術関係者、すなわち芸術団体や、協会、連盟などの業界団体のものと、第三者、たとえば新聞社などの企業、あるいは個人が与えるものとがあります。さらに細かく分解しますと、自らの資金でみずから選んで与える方法と、授賞組織(企業や個人)が自らの名を冠して資金などを提供し、選定は別に委員会などを設けてそこに委託する方法もあります。授賞組織がスポンサーを求めて行うこともあり、また現在は低金利で大変ですが、基金を設定して運営することもしばしばあります。 報道の内容もいろいろあります。大別すると表彰状、トロフィーに、副賞として賞金、記念品、賞品、さらにそのなかには海外旅行や学校での研修といった権利を与えることもあります。また、あるテーマ、分野、たとえば重要な事件(ニュース)や、優れた出版物や映画、あるいは好感度の高いタレントなどに関して投票を求めてその上位者を新聞や雑誌、あるいはTV、ネットなどの媒体に発表したり、有職者、専門家にアンケートして、それをそのまま掲載することもしばしばあります。この場合には、発表すること自体が報償で、それ以上のものは与えないのが一般的です。ただし、プロ野球などの最優秀選手や新人王などは、担当記者の投票で決まりますが、この場合には表彰するだけでなく金銭や物品などの副賞もついています。 決定の方法、プロセスもさまざまです。すでにいくつかはとりあげましたが、多くの場合、選考委員、審査委員を決めてその合議によります。その前提として、推薦や投票があってそれを参考にし、尊重するケースもあります。前記したとおり、アンケート、投票結果をそのまま生かすものもあります。 ここで舞踊に関してどんな状況か、具体的に取り上げてみましょう。 公的なものには、芸術や学術などの文化を広く対象とするものがあります。文化勲章、文化功労者、各種の叙勲、また芸術院会員や文化庁長官表彰もこれに入るかもしれません。ただ、これらの部門ではとくに洋舞関係は年齢的なものもあり、やや分が良くないのです。まだ文化勲章はありませんが、森下洋子さんがその資格ともいうべき文化功労者になっていますので、可能性はあります。独立して舞踊部門が設けられているものでは、芸術選奨(大臣賞、新人賞)、参加者のなかから選ぶものでは今年から関東、関西に分かれた芸術祭(大賞、優秀賞、新人賞)があります。いくつかの自治体では、それぞれ芸術祭的なものを主催して賞をだしていますし、またその地域の芸術文化の振興に貢献した芸術家を表彰する制度をもっているところもけっこうあります。今度少し時間をかけて、この辺りを調べてみようと思っています。 民間の賞は少しずつ増えてきました。 まず、よく知られているのが、業界団体である社団法人日本バレエ協会の服部智恵子賞、そして同じく現代舞踊協会の江口達哉賞、河上鈴子賞です。日本舞踊、児童舞踊など、他の協会でもそれぞれ褒賞制度をもっていると思います。次に財団法人化しているバレエ団の顕彰です。松山バレエ団、牧阿佐美バレエ団では、財団の賞を複数出しています。これらは、基本的に外部の評論家を主体に選考委員が決められ、有識者へのアンケートによる推薦を参考にしながら選定しています。法人ではありませんが、舞踊批評家協会賞も長い歴史をもっており、協会賞と新人賞、なかなかユニークな選出を続けています。 新聞社系では東京新聞の舞踊芸術賞、中川鋭之助賞があり、最近朝日新聞の舞踊芸術賞が設けられ、ここにはダンスが含まれています。これらの選考方法もほぼ上と同じです。 また近年、企業がとくにコンテンポラリーダンスに賞を出すようになってきました。トヨタコレオグラフィーアワード、トリイアワードなどがダンスプロパーの賞、キリンビールも現代芸術を対象にした賞を出しています。 また、年間ベストアンケートは雑誌ではダンスマガジン、新聞ではオン・ステージが行っており、それぞれ紙面に掲載されています。ここで残念なのは、音楽新聞の社主であった村松道弥さんが亡くなられた後、村松賞や創作作品ベスト3といった賞やアンケートがなくなったこと。新しいものへの賞がうまれるのも大変結構ですが、由緒ある賞がなくなるのは寂しいものです。 賞は狙って取るものではありませんし、取れるものでもありません。優れた業績をあげた、あるいは舞踊界に貢献した個人や集団に与えられるものです。それだけに審査、選考には厳正さが求められます。と同時に賞のもつ意味、特性をはっきりさせることも必要です。その特性と審査結果が一致したときに、その賞は真に権威のあるものになるのでしょう。 残念ながら舞踊の賞は、舞踊界では注目されるとしても社会的に注目されるところまでに至っていません。スポーツや映画、あるいは文学などのように、マスコミにも注目されるようになると、もっといい意味で盛り上がり、価値もいっそう高まると思うのです。 ただそのために「傾向と対策」などが、いわれるようになるのは困りますが。