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舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」
ーダンサーたちも“かっこ良さ”の意識をー」
この日曜日(7月11日)に、似て非なる、あるいは違うようで共通点の多い公演を見ました。ひとつは上田遥さん演出・振付による「上田遥ダンスリサイタル」(東京青山円形劇場)、もう一つは三代真史ジャズ舞踊団「サムライ7」(名古屋市芸術創造センター)です。1時から青山で、終わってふっ飛んでいって、5時半からの名古屋新栄にピッタリ間に合ったのです。この2つのまず違う点は、上田作品は奥さんやお弟子さんもいますが、役に相応しいダンサーを選んで上演するプロデュース方式なのに対して、三代作品は男性主体の舞踊団のメンバーを中心に作られていること。また、ステージの形(円形とプロセニュウム)よって、したがって観客との向き合い方も異なっています。ダンス手法は前者がクラシック、モダン出身者が多く、後者はジャズやヒップホップ系の出身者が多いのです。 といっても、似ているところ、共通点はもっとたくさんあります。このダンススタイルについても、上田作品の「枯れ葉」にはジャズ系(名倉加代子さんのカンパニー)の鳥居かほりさんが主役を演じていますし、三代さんのところでも女性ダンサーはなかなかのクラシックの技術をもっています。プログラムの組み方も同じような傾向、すなわち第1部は小品集で、ソロからアンサンブルというかたちでダンサーたちが登場するのです。上田作品ではクアルテート・センスシエントス(クアルテートなのに6人編成とはちょっと解せませんが)との共演で、タンゴオンリーの、歯切れのよい高いテクニックを見せる「~アレグロ・タンガービレ~」。三代さんの方はヒップホップ、ブレークから、ロック、ジャズまでの「PLOFILE」で、アクロバティックなダンスやコミカルな動き。ここでは出演者が歌も歌いますが、上田さんの「枯れ葉」でも中村しんじさんがタイトルソングを歌います。いずれにしても、いわゆるクラシックバレエやモダンダンスとは違う、楽しくノリの良いダンスが並びます。 そして、第2部はどちらも物語性のあるドラマチックな作品、上田公演の「枯れ葉」、三代公演の「さあ、オペを始める」です。前者は浮浪の男が恋人をうるが、結ばれる前に死を迎えるという、後者は「白い巨塔」にヒントを得た、手術ミスで患者を死なせてしまう医師が、同じ病で命を失うという(脚本・演出 坂本久美子さん)、どちらも悲劇です。しかし、最後のその部分はシリアスで感動的ですが、そこに至るまでには、いろいろと工夫を凝らして、コミカルな面、また緊迫した場面なども設定しているという構成にも共通の部分があります。といっても、この2つの作品が似ているということではありません。登場人物も、音楽も、美術も、そして動きも全然違う作品です。たとえば、上田作品では膳亀利次郎さんやこの日は志賀育恵さん(ダブルキャスト)などの道化、三木雄馬さんなどの地獄の使者が活躍しますし、三代作品では4人の看護婦さんが楽しく活躍し、素人っぽいのですが実は芸達者な患者(上野茂さん)が面白い味を出しています。 客席の反応も興味があります。東京は一般に比較的おとなしいのですが、それでもダンスナンバーには1曲ごとに拍手、そしてコミカルな動作や客席への働きかけには思わず笑いなどの反応がでる和やかな雰囲気、それに対して名古屋はダンサーのファンが多いらしく、一人一人の登場、そしてちょっとしたジャンプや回転にも大変な拍手、どよめき、そして手拍子がわきます。この客席の違いは、地域特性もあるんでしょう(関西はもっと賑やか)し、プロデュース公演と舞踊団公演の違いもあるような気もします。 いずれにしろ、この2つの公演とも、多くの観客に支持され、楽しみを与えていることは確かです。 ここで実はこの2つの公演にはもう一つ重要な共通点があることを取り上げたいのです。それは、“ダンサーってかっこいい、とくに男性は”ということです。正しくは女性は当然ですが、男性も、です。 まず、それを感じたのは青山の舞台に、数人の女性ダンサーたちが登場したときです。円形ですから、すぐ目の前です。黒の衣装、ダンスブーツ、タンゴの音楽が流れるとすかっとした動きがそれにのって始まります。みんな上手い、スタイルがいい、つまりかっこいいのです。さらに舞台上と目があったりして、コミュニケーションが生まれます。鍛えられたプロの技と、しかし別世界でなく、同じ空間にいるという親密さの両方がそこにはあるのです。ついで、三木雄馬さんのソロ。正直のところ、半月ほど前に名古屋で見たときは大分お疲れの様子、でも今日はすごかった。女性にもてるだろうな、もしかしたら男性にも、と思うほどの魅力がありました。それに続いて渋さと独特の表現の膳亀利次郎さん、ワイルドさとナイーブさが共存している韓国のキム・スンヨンさん(今、韓国男性がもてもて)、さらに大人の雰囲気ながら動きはシャープな柳瀬真澄さん、上田はるみさんなどなど。たしかに大きな舞台では相当に感じが違ってくると思いますが、要はアップに耐える力(目の前でもボロが見えない)をみんながもっているということです。つぎの「枯れ葉」でも、テレビドラマのヒロインでもあった鳥居かほりさんに対して、中村しんじさんの演技と歌の魅力はなかなかのもので、ファンが増えるだろうと思わせるものがありました。 ここのプログラムには全員の大きなカラーの顔写真が載っています。これは出演者を知ってもらい、売り込むために大切なことなのですが、面白かったのは、舞台の実物のほうがずっと美しいということです。もちろん、写真がまずいのでなく踊っているときの彼、彼女がさらに魅力的なのです。 もうひとつ考えたのは、これが手足の超長い欧米人だったら、大分受ける感じがちがっただろうということ。スタイルがいいといっても日本人の場合には、なんとなくわれわれの代表という親しみがもてるのです。噂の大物に生で接するのも法悦でしょうが、これはハレ(非日常の特別)の世界、それに対して顔馴染み、われらがスターを応援するのは、まさに通常の生活の一部と考えることができるでしょう。 これをさらに強く感じたのが三代真史舞踊団の舞台でした。ここは先に述べたように男性中心で、海外公演も多く、海外で高く評価されているカンパニーで、三代さんはじめ8人の男性ダンサーが、ダイナミックな踊りと達者な演技を見せるのです。それぞれは必ずしもそれほどのスタイルとはいえないのですが、舞台の上ではまさに「かっこいい」。客席も若い女性が一杯、それどころか私の前の中年の女性までも席を乗り出して手拍子、お陰で私は舞台をみるのに苦労しました。本論に関係ありませんが、劇場ではきちんと背中を伸ばしたり、とくに乗り出して見ると後ろの席の人が迷惑するのです、念の為。 ほかの公演でも、私は男性ですから魅力を感じる女性ダンサーはもちろんですが、さらに女性にもてるだろうな、ファンができるだろうなという男性もとくに最近目につくようになりました。ファンを増やすのは大事なこと、ダンサーの方もそれを意識して舞台上だけでなく、舞台を離れてもより魅力的になるように心掛けてほしいと思っています。