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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.03/24
 

「現代舞踊協会の役割とは
          ー新人公演百回に思うー」

 


 先日、05年3月中旬に、(社)現代舞踊協会が主催する新人公演百回記念のアンデパンダン新人舞踊展が3日にわたって開催されました。第1回は1956年、ちょうど半世紀で百回、平均して年に2回づつ開いてきたことになります。これは大変なことで、これまでの、そしてこれからの日本のモダンダンス界を担っている才能の多くが、ここから巣立ったといってよいでしょう。この記録はいずれまとめられるようですが、ここでは、この主催者である現代舞踊協会の役割、そしてその功罪について考えてみたいと思います。
 わが国の現代舞踊の、そして協会の歴史に触れていると、それだけで膨大なものになってしまいますし、これについては当ページですでにとりあげたことがありますので、次の点をあげておくだけにとどめます。
 ひとつは、わが国のモダンダンスは、世界のなかでも決して負けない歴史をもっていること。具体的には石井漠がわが国で最初のモダン・ダンス作品を発表したのが1916年といわれていますが、これは、クラシックバレエに対抗して、自由な発想、自由な動きを提唱したイサドラ・ダンカンがフリー・ダンスとして公演を行ったのが1900年、十数年しか違わないのです。そしてその後も高田雅夫、せい子、江口隆哉など、世界的に活躍していたのはほとんど現代舞踊の分野でした。もう一つは、舞踊(洋舞)の全国的な統括団体(日本芸術舞踊家協会)ができたのが1948年、そして全日本芸術舞踊協会が結成されたのが56年。これらはバレエもふくまれていたのですが、会長は伊藤道郎、石井漠、高田せい子とすべて現代舞踊系の方が務め、戦後の舞踊界をまとめてきていたのです。ちなみに新人公演はこの時に始まったのです。なお、58年にはバレエ部が抜けて、まさに現代舞踊協会になり、72年には社団法人となりました。
 つまり、わが国の洋舞をリードしてきたのはモダン・ダンスの分野であり、とくに戦後は現代舞踊協会がその中心的存在となってきたのです。
 では、現代舞踊協会は現在どんな仕事をしているのでしょうか。まず、さまざまなかたちで会員に踊る場を与えてきたことです。つまり、主催、あるいは共催での合同公演です。手元に現代舞踊協会が発行した2005年のカレンダー手帳があります。ここに年間の予定が書き込まれています。まず主催公演では、ここに取り上げたアンデパンダン新人、そしてオーディションによる選抜新人公演が9月にあります。これらはダンサー対象ですが、団体、作品対象のモダンダンス5月の祭典、新鋭・中堅舞踊家による舞踊公演(6月)、ジュニア・明日の新人による舞踊公演(8月)、全国から集まる現代舞踊フェスティバル(8月)、ここにまだ載っていませんが、11月か12月に文化庁助成の現代舞踊公演、そして今年から始まった文化庁新進芸術家公演事業が4組、さらに本物の舞台芸術体験事業も文化庁の助成で行われることになっています。参加、後援といっても実質的に協会が主体となる事業に、都民芸術フェスティバル参加現代舞踊公演(2月)、東京新聞が主催する現代舞踊展(7月)があります。これ以外にも、舞踊大学講座といった研修会や講習会、文化庁などの制度に応募する際の窓口になるなどの仕事もしています。江口隆哉賞、河上鈴子賞ほかさまざまな顕彰、他が主催するコンクールに賞を出したり、また機関誌も発行しています。細かくはまだいろいろあるのではないでしょうか。さらに全国各支部でもそれぞれ会員のための事業を行っています。
 それぞれが重要な役割を果たしているのですが、やはり、舞台の設定がその中心であるように思われます。というのは、上記の公演は1部を除きほとんどが複数日の開催で、そこに出演する会員は大変な数になると思われるからです。支部の主催まで含めますと、重複出演があるにしても、全国では協会会員2600人強の実質半数に迫るのではないでしょうか。たとえば、上記したアンデパンダンでも、3日間で、出場者百人を超えるのです。しかしも若手からベテラン、経験の長短、地域の広がりと、それぞれの立場、条件に合わせた舞台が用意されています。
 率直にいって参加者、出演者が多少の負担をする場合もあると思います。しかし、すべて個人で負担し、責任を負って公演を開くのは、とくに新人、若手にはきわめて困難な仕事です。このような機会があれば、それを利用して経験を積み、また存在を知ってもらうのは、大変に意義がありますし、また本人や指導者には嬉しいことでしょう。もし、現代舞踊協会
がなかったら、あるいはこれだけの事業をおこなわなかったら、日本の現代舞踊はどうなるか、それを考えればその果たす役割の大きさ、重要さは明らかです。
 ただ、持ち上げておいて落とすわけではありませんが、功の裏には罪があるのはやむえないことです。ここでの問題は、一言でいえば、会員が協会に頼ってしまうことです。具体的には、協会主催や後援の会にでていればいいと思ってしまうことではないでしょうか。たしかに、協会の事業は、ある公演を卒業すると、次のステップまで用意されている、ある意味では至れり尽くせりの会員サービスをおこなっているのです。
 もちろん、合同公演に頼らず自主的に公演を続けている団体もありますし、協会公演にも参加しながら、自分の公演を行っている舞踊家もいます。たしかに、新国立劇場が生れ、踊る機会も増えてきました。ただ、協会という親に頼ってしまう、親離れのできない舞踊家もいる気がしてなりません。たとえば、合同公演を生徒の発表会の場としているように見えるところもなくはないのです。
 私は前に協会の機関誌に書かせていただいたことがあります。合同公演をステップとして、ぜひ自前の公演を行って下さい、と。
 もちろん、協会の事業を無視しろというのではありません。しかし、これらをどう活用して、それからどうもっていくのか、自分についての将来像を明確にしてほしいのです。生徒を集め、育成するのも大事です。しかし、本人やその生徒がどのような創作活動をするのか、それがなければ育成してもそこで終わってしまいます。これはバレエにもいえるのです。現在バレエを学んでいる人が全員プロになるわけではありませんが、クリエイティブなプロ集団をめざすカンパニー、グループが少しずつですが現れてきました。
 現代舞踊界にもいないわけではないのですが、「作品やダンサーで食って行ける舞踊団」を目指して欲しいのです。
 たしかに、入場料収入だけでは難しいのは現代舞踊だけではありません。スポンサー集め、あるいは副業収入を考える。バレエだけでなくコンテンポラリーダンスや舞踏の分野には、これをしっかり行っているところがいくつもあります。
 再三お話していることですが、現代舞踊そのものは、日本的な感覚のダンススタイルとしてその表現力は素晴らしいものがありますし、魅力的なダンサーもたくさんいます。
 現代舞踊協会には、舞踊団、ダンサーが自立できるような工夫、施策をぜひ考えていただきたいのです。もう協会の力なしにやって行ける、というところが増えるのは、舞踊界にとって望ましいこと。といっても協会の役目がなくなるわけではありません。若手の育成、現代舞踊の広報・普及・振興、舞踊家の福祉など、やることはいくらでもあります。さらに、学校の正科に舞踊を取り入れてもらうこと、公立の舞踊学校を設立するように働きかける、とても重要な仕事です。
 「国立現代舞踊団」も欲しいのですが、これは協会と競合するのでしょうか。私はうまくやれば舞踊界全体の活性化につながると思うのですが。