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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.05/06
 

「賞は舞踊界の実態を反映しているか
          ー各種表彰、顕彰の顔ぶれに見るー」

 


●厳しい状況のなか、頑張っている舞踊界
 ゴールデンウイークがやってきました。今年(2005年)この期間に海外に出かける人は過去最高に近く、44万人を超すそうです。どこに行くのかは分かりませんが、別の調査(万博がらみ)ですと、行きたい国の一番はイタリア、次いでフランス、スペイン、それから韓国だったか、アメリカか、あとはドイツ、イギリス、オーストラリア、ロシアなどが並んでいたようです。いずれにしても、海外に行ったらぜひそれぞれの都市のオペラハウスで、自前のオペラやバレエ、オーケストラを見聞きしてきて欲しいものです。そして、自分たちの町にはなぜこんなにいいものがないのかと不思議に思って下さい。
 5月3日は憲法記念日、日本の憲法は風前の灯、少なくとも第九条だけは護っていきたいと思います。軍隊のある普通の国にしたいなんて馬鹿なことをいう人がいますが、中核都市にオペラハウスがないほうが、よっぽど普通ではないですよね。
 どうも、この国は心よりお金、文より武にどんどん変わっていっているようで怖いです。
 といっても、この期間中に、新国立バレエ、東京バレエ、松山バレエをはじめ、多くの舞踊公演やコンクールが行われており、(オペラハウス問題は別として)まだそれほど捨てたものでもないとも思います。

●初夏は賞の季節
 この時期は、春の褒賞、叙勲の季節でもあります。この褒賞と叙勲と本質的にどう違うのか、どうやって選考するのかも知りませんが、ここでも舞踊関係者が対象になっています。紫綬褒章には清水哲太郎さんが、そして石井かほるさんと花柳昌三郎さんが旭日小綬賞を受けています(ほかにもあるかもしれません)。さらにこの5,6月には舞踊界プロパーの各賞の授賞式が行われます。もちろん、これ以外のも、文化庁関係(たとえば芸術選奨)や朝日舞台芸術賞はすでに終了していますが、今年は4月に行われた舞踊批評家協会賞を含めて、これから橘秋子記念財団、日本バレエ協会、現代舞踊協会、東京新聞、そして松山バレエ財団などの授賞式が行われます。
 理屈からいけば、これらの受賞者が現在の舞踊界でもっとも活躍しており、高い業績をあげているわけです。ただ、年間賞といっても、過去の活動の累積という面もあり、この賞のほとんどが重複を避けることになっていますので、必ずしもその年でもっとも優れた活躍をした舞踊家とは限りません。もちろん、各受賞者はそれなりに立派な業績をあげてはいますが、過去の受賞者にも今回受賞者と同等か、それを上回る活躍をした人がいることも事実です。

●地元で頑張るバレエ団に
 それはそれとして、今年度の受賞者を紹介して、そこから舞踊界の状況を考えてみましょう。
 舞踊批評家協会賞は舞踊関係では多分唯一重複受賞を妨げない賞です。これまで森下洋子さんがほとんど毎年受賞していました。こういう方がその年にもっとも活躍した舞踊家を選ぶという点ではいいのですが、受ける側の意欲とかお祭りという要素を含めると、重複受賞は避けるというのも一理あります。
 ただ今回は舞踊批評家協会賞も新しい顔ぶれで、むしろ話題というか、ユニークさを重視したようです。バレエ団では大手を抑えて、振興のNBAバレエ団とバレエシャンブルウエスト。NBAは舞踊史上の貴重な作品の復刻上演、シャンブルは創作の全幕ものを作り続けているという、特徴がはっきりしているところが評価されたのでしょう。さらにわたし的には、シャンブルはずっと八王子を本拠としているし、NBAも昨年から所沢にスタジオを新設、地元での公演に力を入れるという、地元密着型のバレエ団だというのも重要なポイントであると思います。本当はもっと遠くの団体を考えたいのですが、残念ながら大都市圏以外にはプロの団体がないという実態、ここがなんとか変わらないのかというのが、私が常に考えていることです。五井輝さん深い激しさも素晴らしいですが、笠井叡さんの広範囲な活躍も無視できないと思います。岩淵多喜子さん、上村なおかさん、工藤丈輝さんの新人賞はこの協会らしい選択、上村さんがらみでは、平山素子さんも東京だけでなく愛知での活動も高く評価できます。
 名倉ダンススタジオの授賞も意外性を感じます。ジャズダンスの芸術性を認め、一方でエンタテイメント性も評価の対象となるという両面から、意味ある選択だったと思います。ただ、屁理屈をいうとダンススタジオを対象とするというのはやや違和感があります。むしろ主宰者の名倉加代子さんでよかったのではないでしょうか。
 この東京以外のバレエ以外という点では、(財)松山バレエ団顕彰が先行しています。昨年、バレエキャラバンの主宰者金光郁子さんが選ばれていますし、今年は創作・指導の北海道の能藤玲子さん、ダンサーとして福岡の田中ルリさんが授賞されます。教育関係もここの特徴、今年はお茶の水女子大学の片岡康子さんです。
 オーソドックスなのが橘秋子記念財団、指導者として岡本佳津子さん、ダンサーとして酒井はなさん、演技・助演として本多実男さん。重複受賞なしという条件のもとでは順当といえます。なお、ここにはスタッフのための賞もあります。現役バレエダンサーという条件なのが(財)日本バレエ協会の服部智恵子賞、今年は山本隆之さん、今や新国立バレエ団を背負って立つ存在、妥当な選出でしょう。男性では既受賞者以外では逸見智彦さんの活躍が印象に残ります。女性は若手に注目株がたくさん、順調に伸びれば近い将来1人に絞って選ぶのに苦労しそうです。なお、多くの賞を受賞している新国立劇場バレエの志賀三佐枝さんが突然の引退。とても残念です。

●現代舞踊家に中川鋭之助賞
 東京新聞の中川鋭之助賞はこれまでずっとバレエ分野から選ばれていましたが、今回初めて現代舞踊畑から川野眞子さん。彼女も前から意識されていたのですが、ここにきてようやくの受賞です。
 現代舞踊分野では、(財)現代舞踊協会の江口隆哉賞があります。この分野の若手、中堅ダンサーに対してはほかに表彰がありますので、これは創作や指導という点に重点があります。いわゆるコンテンポラリーも対象になりますが、これはほかにも賞がありますので、実際には伝統的なモダンダンスが主体になります。今年は山田奈々子さん、長年にわたって追求していたテーマが花開いたといってよいと思います。もうひとつフラメンコへの河上鈴子賞もありますが、こちらは隔年で今年は実施されませんでした。この分野はベテランが頑張っていて、大きな地盤変動がないので、隔年でも選出が難しいのですが、これは決して全体が低調ということではありません。芸術祭大賞の鍵田真由美さん、佐藤浩希さんは今乗りに乗っていますが、河上鈴子賞はすでに受賞しています。
 東京新聞の芸術舞踊賞は少し前から洋舞と邦舞それぞれから選出するようになっています。今年は西崎緑さんと吉田都さん。吉田さんはダンサーというだけでなく、舞踊界に対する貢献といった意味ももっており、少し前の熊川さんと同様、わが国のダンサーの国際化の象徴であり、またこれから世界を目指す若手の目標になるものとしての受賞といえるでしょう。
 朝日舞台芸術賞は、新国立劇場バレエ団の『ライモンダ』、若手の黒田育世さん、近藤良平さん。ここも重複を妨げませんが、正直のところコンテンポラリーは人気・実力派の順送りという感じで今回は新顔、過去には重複がありますが、これからどうなりますか。つけ加えますと、芸術選奨文部科学大臣賞は熊川哲也さんと斎藤友佳里さんでした。
 こう挙げてくると、それぞれは条件を考えるとほとんどが納得。ただ、舞踊界全体とすると、既受賞者でコンスタントに高い業績をあげているところもあり、逆に大変すぐれているのにタイミング、巡り合わせで受賞できないものもあって、いろいろな意味で興味があり、参考になります。
 いずれにしても、受賞者はこれを励みに、さらに頑張って欲しいと思います。