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舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」
ランキング20とスタンダード20 ーもっとバレエに親しんでもらうためにー
●『オペラのあらすじ』に見合う『バレエのあらすじ』 (社)全国公立文化施設協会では、舞踊だけでなく音楽や演劇、さらに日本の伝統芸能まで、いろいろな舞台芸術の普及のために資料を作っています。この3月には前にもちょっと触れた『ダンス・マップ・オブ・ジャパン』とともに、おなじ文化庁委嘱事業として『オペラのあらすじ』が作られました。これは有名な、よく上演されるオペラのあらすじを写真をつけて説明、オペラへの興味を高め、鑑賞の助けにしようとするもので、日本オペラ団体連盟の加盟団体上演演目から22曲が選出されています。ここには、ヴェルディ、プッチーニ、ビゼー、モーツァルトから、ワグナー、そしてJ・シュトラウスのオペレッタ、さらに團伊久磨、田中均などの邦人も含め12名の作曲家の作品が選ばれています(敬称略)。 これを見て、バレエでやったらどうなるかなと考えてみました。この対象となるのは、原則わが国のバレエ団で上演されている作品で、そのなかから人気の高いスタンダードを選びだしてみようということです。したがって、よく知られていても、海外の特定のカンパニーだけのレパートリーになっているものは対象としません。 ということで、先月所用で名古屋へ行ったときに、新幹線のなかで具体的に候補をいろいろ考えてみました。10くらいはすぐにでますが、仮に20となると、あとは一長一短なかなか難しい、でも楽しい作業でした。 すると、翌朝、ホテルでたまたまTV朝日系列の局の「題名のない音楽会」という番組で、『人気バレエ20ランキング』を放映していました。うまいタイミングだったので、チェックアウト直前でしたが見入ってしまいました。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。 ここで、やや興味本位になるかもしれませんが、このランキングと私が考えていたスタンダードとあわせて少し紹介してみたいと思います。 ●TV番組『人気バレエ20ランキング』 じつは頭の部分をよく見ていなかったので、どういう基準でランクづけしたのかは分かりませんが(多分投票)、20位から順に福田一雄さんの指揮でさわりの部分を演奏、いくつかの作品は新国立劇場バレエ団のダンサーがパ・ド・ドゥやソロを踊るもので、途中に芸術監督の牧阿佐美さんがクラシックバレエの基礎について簡単に解説しています。ダンサーはトップクラスがほとんど出演、技術、容姿ともにさすが、バレエの普及にも大いに役立ったのではないでしょうか。 この番組は2日にわたるもので、この第1日は20位から5位までが発表されました。ここでまず、そのランキングを20位からあげておきましょう。 『瀕死の白鳥』、『レ・シルフィード』、『火の鳥』、『真夏の夜の夢』、『マノン』、『こうもり』、『海賊』、『ボレロ』、『パキータ』、そして11位は『ラ・バヤデール』です。このなかの5曲は、多少の演出の違いはあってもスタンダード作品だということは、とくにどれといわなくてもバレエ好きの方はお分かりでしょう。また『こうもり』、『マノン』も特定の振付者の作品(プチさんとマクミランさん)であることはほぼ明らかです。『火の鳥』は、われわれ古い愛好家はフォーキンさんのものがまず頭に浮かびますが、最近の若い方はベジャールさんの振付によるものを指しているかもしれません。『真夏~』はどうでしょうか。これはいろいろな作品があり、日本人による振付にもいいもの(名古屋の松本道子、東京シティなど)があります。あとはバランシンさんのものも知られていますが、アシュトンさんのものも最近日本で上演されましたから、それもずいぶんランクに寄与しているのでしょう。もう1つ、『ボレロ』です。これは圧倒的にベジャールさんのものを考えていると思いますが、スペイン国立のフラメンコによるものを含め、多くの優れた『ボレロ』があります。この音楽は、ここに入ってはいませんが、『春の祭典』(ストラヴィンスキー)とともに、多くの振付者の創作意欲を刺激するようです。 ここまでの私の感想は、まず『海賊』のランクが少し低いなということ。在京の大バレエ団でレパートリーとしているところがないというのが原因かなと思います。さらに、終わりの3~4曲ほどとの関連でいうと、『牧神の午後』、『ペトルーシュカ』も捨て難いです。ただし、最近あまり上演されないのが残念です。『カルメン』もいくつかのバージョンがありますが、このあたりとは同格であってよいでしょう。 ●こんな作品や項目も欲しい気がします 次に10~5位。『ライモンダ』、『ラ・シルフィード』『ロメオとジュリエット』、『シンデレラ』、『コッペリア』、『ジゼル』です。10位からの4つは、間違いなく新国立劇場バレエ団を中心に東京バレエ団、松山バレエ団上演の効果でしょう。ただ、『ロメオ~』(『ロミオ~』でなく)といっているところに、とくにどのバージョンが重点かが分かります。『コッペリア』も多分『Kバレエカンパニー』が取り上げたのが大きく寄与しているのではないでしょうか。 『ジゼル』は森下洋子さんが絶品の松山バレエ団版、マラホフさんの円熟が目を引いた東京バレエ団版が印象に残りますが、それだけでなく作品そのものが多くの人に好まれているのだと思います。私としてはこれはスタンダードのベストスリーにぜひ入れたい作品です。 上位4つはまだ発表されていません。しかし、もうわかったも同然、すなわち、1位から『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』、『眠れる森の美女』、そして『ドン・キホーテ』です。順位は1と2、3と4は逆も有り得ます。とくに『ドン・キ~』が上位に来るかもしれません。前にこのページでも書いたように、このところ、3月からでも日本バレエ協会、牧阿佐美バレヱ団、そしてこれから新国立劇場バレエ団と上演が続いているからです。これ以外にも松山、東京、Kなどのバレエ団でも近年上演している『ドン・キ~』がチャイコフスキーの3大バレエに食い込むか、興味あるところです。 以上の前提で、私の選定との違いをコメントしておきます。古いものでは『ラ・フィユ・マル・ガルデ』(リーズの結婚)、そして『バフチサライの泉』。どちらも日本のバレエ団が上演しているスタンダードとして、少なくともベスト20までには入れたい作品です。『ラ・フィユ~』は東京でも牧阿佐美、谷などでレパートリーにしていますが、『バフチ~』は名古屋や関西では上演していますが、東京での上演がほとんどないのはなぜでしょうか。私は好きな作品ですが・・・なお、来年1月に横浜で上演の予定があります。 もう1つ特記すべきは、チューダーさん、バランシンさんの作品が上がっていないことです。前者では『ライラック・ガーデン』(リラの園)、『火の柱』など、後者では『セレナード』、『シンフォニー・イン・C』(水晶宮)、『アポロ』など。それぞれ歴史的な意味だけでなく、現在見ても素晴らしい作品です。多分、それぞれの作品で票が割れてしまったのでしょう。 ですから、話を戻して私が紹介冊子を作るとしたら、この辺りは作品よりも振付者で項目を立てたら良いと思います。敬称略でチューダー、バランシン、さらにプチ、ベジャール。マクミランは『マノン』、アシュトンは『シンデレラ』だけでよいか。たとえばアシュトンとして『シンデレラ』以外に『ラ・フィユ~』、『2羽の鳩』などを加えるのはどうでしょうか。 さらに、日本人の作品をどうするか。これもぜひ入れたいものです。作品単位よりも個人別がいいかもしれません。たとえば、佐多達枝さん、石井潤さん、望月則彦さんなど。清水哲太郎さん、今村博明さん/川口るり子さんにもいい作品があるのですが、どこでもみられるスタンダードといえるかどうか、その辺が趣旨との関連で悩ましいところです。良い作品はもっとお互いに融通(売り買い)し合えるようになるといいと思います。海外にも売れるとよい。深川秀夫さんの作品が最近ドイツ(シュツットガルトなど)で上演されたようで、嬉しいことです。