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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.11/9
 

再び「公立文化施設・指定管理者制度」について考える
  ー芸術性、質の低下は許されないー


 
 

●公立ホールはだれが運営しているのか
 以前にも同じようなことを取り上げたことがありますが、専門的?な、つまりあまり面白くない、しかし重大なことを書きます。それは公立ホールの運営についてです。
 一般の方は、××市民会館とか、○○文化センターといった、いわゆるホールで仕事をしている方については、サービスがどうとかいう場合以外はあまり関心はないと思いますが、今ここのところに大きな問題が起こっています。
 私も昔はそうでした。ホールでどういう作品を上演するかを決めたり、チケットを売ったり、会場を案内したりする人、そして芸術団体、たとえばバレエ団とかダンススタジオが公演や発表会のために場所を借りたりするときに応対する人は、そのホールの職員であろうと漠然と思っていました。もちろん民間の場合にはそういうケースが多いと思いますが、都道府県営、あるいは市立、区立などの公立のホールでは、そうでないところも多いのです。
 では、いったいどういうところがホールを運営しているかというと、文化振興財団とか、スポーツ・文化振興事業団、芸術文化協会、地域振興公社、都市整備公社、あるいは社会福祉公社など名称はいろいろですが、いわゆる公益財団に設置者すなわち都道府県や市などが管理を委託しているところも多いのです。したがってホールで働いている方は、こういうところの職員で、例えば県や市の職員ではないのです。といっても、財団ですから、営利でなく、公益事業として活動しています。
●ホール管理の効率化、経費節減を
 ところが、この従来のやりかたにメスがいれられました。
 細かくいうとややこしいので簡単にしますが、これは公立のホールなどの運営基準となっている「地方自治法」の1か所が改正されたからなのです(2003年6月)。それは現在の「管理委託制度」を「指定管理者制度」に変更するということです。この指定管理者とは、従来の公共的団体の枠を外し、民間業者を含み、その目的は住民ニーズに効果的、効率的に対応するため(中略)そして経費の節減を図ることなのです。
 そして2006年9月1日までに、そちらに移行しなければならず、しかもその管理者(団体)の指定には原則として公募方式をとるということになっています。
 つまり、端的には計画書を提出して、応募した団体の中から(もちろん質的な部分を無視するのではありませんが)、まず効率と経費節減に重点をおいて選び、指定することになります。
 実は、この地方自治法は、文化ホールを主として対象としている法律ではないのです。ここでは「公の施設」となっており、そこには図書館、公民館、博物館から保育園、福祉施設、老人ホーム、児童館、スポーツセンター、リクリエーションセンター、さらに公園、駐車場から公営墓地までも含まれます。
 たしかに施設の管理や、決められたサービスを効率的にやればよい施設もありますが、クリエイティヴな活動を本来とする文化施設が入っているのが問題なのです。
●芸術創造・発信に重要な専門性、継続性
 いうまでもなく、舞踊だけでなく音楽や演劇などの創造活動、あるいは地域の住民を参加させての芸術活動には専門的な知識、人間関係やノウハウを必要とし、それは短期間では身に付けることはできませんし、継続性も重要です。
 それを効率や経費削減という点で評価され、選択されたのでは、これまで一所懸命に芸術活動を進めてきた組織、人材にとってはたまったものではありませんし、その芸術を鑑賞する側、観客にとっても大きなマイナスです。
 ここには2つの大きな問題があります。
 1つは、組織として、担当者として蓄積してきた芸術性、いろいろなネットワーク、ノウハウが切れてしまうおそれがあることです。もちろん、上記したような従来の公益団体が引き続き指定管理者になるケースも少なくはありません。しかし、現実に新規企業が指定管理者となり、従来の財団が解散に追い込まれるケースもでているのです。その場合そこの職員は路頭に迷う恐れもあります。しかも、指定管理者は3~5年ごとに見直さないといけないので、人材も長期育成はできず、実際に契約社員に切り換えているところもでているのです。
 もう1つ、民間の営利企業が指定管理者なったときは、採算の悪いものは排除され、お客の入る安全なもの、たとえばロックシンガーやお笑いタレントなど、TVなどでの人気者が取り上げられるケースが多くなるでしょう。それらが程度が低いとはいいませんが、バレエやモダンダンスなどがとりあげられる可能性はますます低くなると思われます。
 しかも、また分かりにくいことをいいますが、従来直営、つまり県や市、区などが直接運営していたところも、できるだけ指定管理者に移せという指示があり、それを検討しているところもあるのです。こうなると必ず新しいところが管理運営することになり、蓄積や継続はほとんど望みがありません。
●公立文化施設の使命を明確にして、その実現を
 これは、結局は小泉民営化、「民間にできることは民間に」にそっているわけで、民間企業にとっては、文化ホールだけでなく上記のような各種施設の管理事業は大きなビジネスチャンスだということになっています。
 公園とかスポーツセンターは別かもしれませんが、文化ホールはビジネス、つまり営利第一でやられたらたまりません。
 でも法律は決まり、もうあとにはもどれません。ではどうしたらよいでしょうか。
 それには大きく2つの考え方があります。
 1つは指定管理者に対して、芸術の重要性を理解してもらうこと、経費削減だけにこだわらないようにしてもらうことです。
 効率は大事です。しかし、それは文化施設の使命、役割をしっかり果たすことを前提としての効率化であり、無駄の排除です。使命はなにか、それは良質の芸術の創造、提供、発信であることは明らかです。そのために(社)全国公立文化施設協会では、発行している機関誌(アートエクスプレス)やアートマネジメントセミナーなどで、この点をしっかり訴えていこうとしています。
 もう1つは観客、すなわち芸術の受け手のほうから、それを積極的に要求していくことです。住民に良い芸術をというニーズが強ければ、公立施設としてはそれを尊重せざるをえません。とくに指定管理者制度が完全に実施される2006年9月からは、従来と比較して芸術的にどう変わったか、サービスの質はどうなったかをきちんとチェックしていく必要があります。私も個人的にそこは厳しく見ていきたいと思っています。
 なお、これを書き終ったとき、東京芸術大学長で画家の平山郁夫さん、大原美術館長の高階秀彌さんが、文化、学術関係施設に関する最近の効率性が採算性を重視する動きについて「国際的にも文化芸術に対する姿勢に疑問を持たれる」として、「文化芸術の衰退を危惧する」という声明を文部科学大臣と文化庁官に提出したということを知りました。
 舞台芸術関係でもこのような動きが生れて欲しいものです。