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2006.5/10
劇場が主催するバレエ教室とジュニアバレエ公演
ー貴重なティアラこうとうのケース、ただし限界もー
●劇場が主宰するジュニアバレエ団
先口(5月3日)、ティアラこうとう・ジュニアバレエ団(英文ではユースバレエ)の 第1回発表会、「ヘンゼルとグレーテル」が行われました。
なぜこのページでこれを取り上げるのでしょうか。なかなか面白い作品で、その内容は あとで触れますが、それが主たる理由ではありません。それではジュニアバレエ団だから でしょうか。たしかに、それはひとつのアピールポイントではありますが、他にもジュニ アバレエ団とかユースバレエと称するものはいくつかありますし、率直にいってここより も長い歴史、高いレベル、そして実績のある団体もあります。そしてそのなかから大人の バレエ団に成長したところもあるのです(たとえば、バレエ・シャンブル・ウエスト)。 もっといえば、わが国ではスタジオをベースにしてバレエ団として公演を行う場合には、 その多くが男性ゲストプラススタジオの若い生徒たちというのが実態なのです。といって、 これらのレベルが低いかどうかは別の問題です。大手のバレエ団やその附属学校以外の日 本各地にある中小のバレエスタジオにも、なかなか優れた若いダンサーがいるからです。 たとえば、コンクールですごい素質をもったダンサーで、失礼ですがまったく知らないス タジオに所属しているものがたくさんいるのです。
話を戻してこのジュニアバレエ団のことを取り上げる理由は何でしょうか。それは、 これが日本で唯一の、劇場(ティアラこうとう)が主催しているティアラ・ジュニアバレ エ教室をベースにした団体だからです。これは名目だけではありません。もちろん教室の レッスンでは多少の受講料(半期15,000円)はとっていますが、今回の公演も劇場が 主催し、上演の経費を負担しています。
●12年の歴史をもつ公のバレエ教室
江東区が設置者であり、財団法人江東区地域振興会(理事長は江東区長・室橋昭氏)が 運営を受託していたティアラこうとうは、いわゆる公立文化施設ですが、東京シティ・フ ィルハーモニック管弦楽団と東京シティ・バレエ団と準フランチャイズ契約を結び、定期 的に公演を主催してきた、わが国では珍しいというか、貴重なところです。
このジュニアバレエ教室もバレエ団との提携と同時にスタートしました。これは江東区 の住民でもあるバレエ団理事長石井清子さんの力が大きかったようです。講師は、安達悦 子さん、山口智子さんなどシティ・バレエ団の幹部ダンサーや教師が担当し、開校しても う12年にもなります。小学校4年から高校生まで、江東区民だけでなく、広く各地からオ ーディションで受講生を選んでおり、現在90名が学んでいます。
優れた講師陣、安い受講料、充実した環境から、希望者は多いのですが、定員があり、 きわめて狭い門のようです。
公立の施設の経営は、この9月までに従来の運営委託方式から指定管理者制度に移行し なければなりません。この制度については、このページでも再三取り上げてきました。たしかに、民間活力の活用という趣旨は分かりますが、効率採算を重視するあまり、舞台芸 術への理解や劇場経営ノウハウの低い団体が指定されてしまうという問題もあるのですが、 ここでは従来の運営財団(地域振興会)がそのまま指定管理者に決まった(一応期間は5年間) ので、予算面の心配はあるものの、継続性の点では一安心です。
●主役はこの教室の出身で、新国立劇場のホープ
この教室の生徒たちは、これまでも東京シティ・バレエ団公演など江東区の諸行事だけ でなく、新国立劇場はじめいろいろな舞台に出演してきました。そして、今回第1回の発 表会が開かれたのです。発表会といっても、作品は東京シティ・バレエ団が全国子ども劇 場のためにつくり、22年間にわたって上演し続けてきた「ヘンゼルとグレーテル」。グリ ム兄弟の原作をフンパーディングがオペラ化し、それにもとずいて石井清子さんが演出・ 振付しています。
主役のヘンゼルは石井清子さんに師事し、この教室から新国立劇場バレエ研修所に学ん だ八幡顕光さん、今や新国立劇場バレエ団の契約ソリストとして大いに嘱望されています。 グレーテルの村木真実さんも教室の生徒であり、今年高校を卒業、オーディションによっ て東京シティ・バレエ団に入団した若きホープです。この兄妹の父母と魔女はバレエ団員 が演じていますが、あとはジュニアバレエのメンバー(教室の生徒)90人の過半数が、い ろいろな妖精、森の動物や鳥たちなどで出演しています。
まだ技術的には十分といえないメンバーがいるのは年齢からしても当然ですが、基礎の たしかさ、マナーのよさはさすがと感じられました。
●教室のシステムには日本的な問題が
このようにわが国としては大変に進んだ考え方、システムをもっているにもかかわらず、 あるいはそれだからこそ、いくつかのわが国的(特有の)な問題もあるようです。これは 海外では考えられないことで、これに類した問題点はこれまでも指摘してきました。
それはこういうことです。この教室をたとえば学校として拡大、充実しようとすると、 バレエ界から反発を受け、協力をえられなくなるのです。つまり、多くの、全国に1万も あるといわれる個人のスタジオの経営を圧迫するおそれがあるからということです。この 教室のように、公的な、あるいは民間の大資本がバックにあって、充実した教育システム を持つバレエ学校が生まれ、しかもそれが一流のバレエ団につながっていると、バレエダ ンサーを目指す若者たちは、そこへの入学を望むようになります。それも、まったくの初 心者から受け入れるのであればまだいいのですが、ある程度の教育を受け、しかも才能の あるものをオーディションで選ぶという方式であると、個人のスタジオでは、そこで学ん でいる才能ある若手が、いわば引き抜かれてしまうという意識になるのです。
そうなれば各スタジオの生徒が減り、経営が成り立たなくなるおそれがあります。です から、そういうスタジオの指導者は、自分達の生徒にオーディションを受けることを禁止 したり、そのような学校や団体への協力をしないとか、妨害をするケースがいろいろなと ころで見られるのです。
したがって、大手のバレエスクールで生徒をオーディションで選ぶ場合には、あくまで 本拠(籍)はもとのところにおき、スクールでの教育は週1回など、サブの役割にとどめ、 しかもその発表会に出るかどうかの判断もその本拠の指導者にまかせるといった方法をと っています。つまり、それぞれのスタジオで足りない部分をおぎない、主体性はもとのス タジオにあるという、一種のサービス活動ともいえるものになっています。
ティアラ・ジュニアバレエ教室、ジュニアバレエ団でもこのような方法なのです。わが 国では、ほかのバレエ教室でも、バレエ団でも、オーディションを行う場合には、新国立 劇場をはじめ、所属するところの指導者の許可を必要とするケースが多いのです。
●プロのバレエ団、しっかりしたバレエ学校を全国各地に
もちろん、所属を変える場合、円満に行われるほうがよいとは思いますが、その前提で あるよりよい学ぶ場、踊る場を求めて移動したり、参加したりできる自由が日本のダンサ ーに少ないのは、どこかおかしいような気がするのです。とくに男性ダンサーでたちばが 不安定なのにフリーになるものが多いのは、ここにも理由がありそうです。
ただし、現在のわが国の状況では、上のような理由で移動を自由にするのは簡単ではあ りませんし、それが望ましいかどうかも疑問です。たとえば、バレエ団を変えたからとい って給与が上がるということはほとんどなく周囲との関係がむずかしくなることが多くなるからです。真に望ましいのは、私の持論ですが、 全国各地にプロのバレエ団(ダンスカンパニー)があって、そこに充実した内容を持つ舞 踊学校が付属していること、そしてその地区のすぐれた素質のある若者をきちんと教育し、 プロの団体に提供していくシステムが確立していることです。
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