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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2008.9/18
 
意識変化、そして改組を迫られる舞踊関係法人
 
●世界、日本は大きく変化
 丁度1年休ませてもらいました。また再開します。よろしく。
 この1年間、世界的にいろいろなことがありました。わが国でも総理大臣が3人も変わりましたし(まだ9月15日、3人目はだれがなるのか分かりませんが)、物価は上がり、株価は下がりました。格差の広がりも激しさを増しています。年金・介護・医療問題(なんですか後期高齢者とは)。世界的には環境、資源(石油、食料など)問題。挙げていたらきりがありません。
 なぜこんなことを書いたのか。それは、この間に舞踊界を揺るがすような大きな変化はなにも起こらなかった。これは良いことなのか、どうなんでしょうか、ということです。
 ただ、変化につながりそうな動きがまったくなかったわけではありません。そのなかからいくつか取り上げてみたいと思います。そこには舞踊界外部からの動きと、内部の動きがあります。
●社団法人、財団法人改革
 外部からの動きとは、社団法人、財団法人を対象として、新しく公益法人制度が制定されたことです。社団、財団はそれに基づいて今年(2008年)12月1日までに改組しなければならなくなりました。この要点は、現在の社団法人、財団法人は、それぞれ一般社団法人、公益社団法人と、一般財団法人、公益財団法人のどちらかに移行(変更登記)しなければならなくなったということです(変更登記しない場合、特例法人としてその後5年間はこれまでの社団あるいは財団法人として継続可能、ただしその後は解散となる)。
 現在、社団もしくは財団法人は民法上非営利の公益法人と認められていたわけですが、新法施行後は、公益法人として認められなければ(つまり一般法人では)、原則として税法上のその他の特典はなくなってしまいます。
 舞踊界には現在多くの公益法人があります。日本バレエ協会、現代舞踊協会、全日本児童舞踊協会、日本舞踊協会、そして神奈川県芸術舞踊協会は社団、松山、牧阿佐美、東京、スターダンサーズの各バレエ団は財団です(正確には、たとえば…牧阿佐美バレエ団では財団法人は橘秋子記念財団…のように多少組織的に複雑なケースはあります)。公立文化施設関係では、全国公立文化施設協会も社団法人ですし、指定管理者に文化振興財団といった該当する団体が多数あると思います。
 これらは一般法人でよければ比較的移行は簡単ですが、公益として再登記し、収益や寄付に関して税法上の特典を受けるためには、それなりの厳しい条件審査があります。
 実際には、課税、非課税の事業区分はとてもややこしいのですが、それを詳しく説明していてもきりがないので、ここの問題は、上にあげた法人は、公益性の認定を受けるための条件を整備しなければならず、それは簡単なことではないというにとどめます。とくに専門の事務スタッフの少ない所では、内容、形式を整えるのはとくに大変ですし、認定を受け登記した後も管理、事務の仕事は現在よりもずっと複雑になるでしょう。
●舞踊界全体の改革を
 では、現在社団法人や財団法人でないところはどうでしょうか。自分たちは関係ないとも言い切れません。ひとつは現在会社組織やNPO法人となっているところには、いろいろと影響が出てくる可能性がありますし、上記の法人のメンバー(会員)、たとえば個々のダンサーの在り方にも何らかの変化が出てくるでしょう。
 一方で、現在任意団体である各分野、各地の協会、連盟、あるいは舞踊団体については、一般法人になるのは比較的容易になります。事実それをめざしているところもあるようです(公益法人になるのは大変ですが)。
 この公益法人の大改訂は、政府、官庁や自治体と癒着して天下りや仕事をもらっている法人を対象としたもので、指定管理者制度が文化施設を主ターゲットとしたのではないのと同じように、芸術関係法人はいわばとばっちりを受けたようなものです。しかし、この災いを転じて福となすように、法人だけでなく舞踊界全体で、公益とはなにか、社会における役割とはなにかをしっかり考え、その実践につとめるとともに、経営の合理化、近代化が進められればいいと思います。
●それ以外の動きも少しずつ
 公益法人の問題以外に、この一年間の変化や出来事には、次のようなものがあります。1、新国立劇場開場10年、2、舞踊界若返りの兆し、3、コンクールの乱立の影響が現れてきた、4、文化施設の休・廃館、転用の動きが加速、一方で反対運動も強化、といったところでしょうか。さらに、国の文化政策にも微妙な変化があるように見えます。
 新国立劇場の舞踊部門については、初めて海外から芸術監督(デヴィット・ビントレー氏)を迎えるのが決まったこと(2年先ですが)、海外や国内各地への進出、共同制作などの動きが活発になってきたこと、そして研修所が少しずつですが拡充されてきたこと、などが目に付きますが、10年間の総合的な検証が望まれます。
 舞踊界若返りとは、具体的には団体トップの問題が中心ですが、それがたんなる交替なのか、新しい動きが生まれてくるのかを見極めるには、もう少し時間が必要です。一方ダンサーについては、全体のレベルは上がっていると思いますが、新しい時代を創るようなスターが生まれてこないのがやや心配です。
 コンクールについては、毎年2~3の新、増設があるという傾向が続いており、当然に日程の重複が生まれています。そのためだけでないのですが、出場者に変化が生まれています。これは意識の変化、あるいは舞踊インフラ(基礎的条件)の変化かも知れず、注目しておく必要があります。
 施設問題ではびわこホールの休館問題が社会的にも衝撃を与えましたが、結論は二転、三転しています。各地の舞踊界にとって重要な厚生年金会館も風前の灯です。
 これらについては、いずれタイミングをみて取り上げたいと思います。
 このページの休載(つまりサボリ)の期間にいろいろな方からご心配をいただきました。また、掲載記事(Vol.78)がヒントとなって地域のダンスの活性化のための活動を推進しているという、プロデューサーの方からのメールもいただきました。
 これからも、なんとか老骨に鞭打って、舞踊界への率直な思いとともに、各地で頑張っている方々、ユニークな活動を行っている方々をご紹介していこうと思っています。
 ご叱正、ご指導、よろしくお願いします。