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山田マミのやっぱり、パリが好き

山田マミのやっぱり、パリが好き

フランス・パリ在住の山田マミさんが、現地発信の最新ダンス情報をタイムリーにリポート!
ダンスだけでなく、ワイン、フェスティバル、市場などなど、パリっ子たちの日常生活も、
山田マミさんによる独自の視点でお伝えします。動画によるダンス映像の配信も見所です!

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新シーズン

フランスは、9月が新学期。2ヶ月の夏休みを終えて、学校だけではなく、多くのことが新たに始まる。劇場も新シーズンの始まりだ。

2018年は日本とフランスの外交が始まって160年目。これを機に、パリを中心とした文化交流イベント「ジャポニズム2018」が5月から始まっていたが、ダンスフェスティバルなどで忙しかったので、日本文化までは手が回らず、これでは日本人として情けないと慌てて行ったのが、9月13日のエッフェル塔の特別ライトアップ。

このイベントは国立シャイヨ劇場での松竹大歌舞伎と連結しているはず、だって、シャイヨ劇場はエッフェル塔の真正面にあるからね。で、まず公演を予約。この予測は大当たり、いやそれ以上だったのは、なんと皇太子様がいらしていたのだった。
いつものごとくなんの予備知識もないまま劇場に入り、席に着いた。さて、松竹歌舞伎ってなんだっけ(失礼)という程度の知識しかない私は、とりあえずプログラムを読み始めていた。

すると、バタバタバタと折りたたみ式の座席が持ち上がる音があちこちでして、多くの人が起立している。顔を上げて皆の視線が集まっている方向に目をやると、なんと、皇太子様がいらっしゃるではないか!正月の皇居の一般参賀に行った事もなければ、大々的な国家イベントに参加した事もない私は、まさかこんなかたちで皇太子様をお見かけするとは思ってもいなかった。わ~お!皇太子様と同じ空間で観劇するなんて!
松竹歌舞伎は2演目の上演で、実はこの休憩中に皇太子様がライトアップの点火ボタンを押すという、大事なイベントがあったのに、場内アナウンスの「休憩中にライトアップが始まります。皆様にはシャンペンをご用意しております」の「シャンペン」「ライトアップ」の二言に舞い上がって、休憩に入るやいなや、席を立ち、ホールでシャンペンもらって、バルコニー最前列に陣取り、「シャンパングラスの向こうのエッフェル塔」などとのんびり写真を撮っていてはいけなかったのだ。

なかなか始まらないライトアップに少しイライラしていると、劇場内部から大きな拍手が。慌てて戻るも時すでに遅し。皇太子様を囲んでのイベントを逃したらしい。シャンペンのおかわりに走っていてはいけなかったのだ。

そうこうしているうちに、始まったライトアップ。照明デザイナーの石井幹子氏と石井リーサ明理氏の、母と娘のコラボレーション作品。日本の伝統楽器によるボレロのリズムの和洋折衷からフュージョンまで、多様な現代の日本文化を表している。映像も非常に凝っているのだが、いちいち説明してもらわないとわからないくらい細かくて、私の知能レベルでは「ふ~ん」で終わってしまった。家に帰ってネット検索して解説を読んで、「あ~ら、そういう事だったのか」
シャンパンフラッシュに続いて、始まったイルミネーション。

さらに詳しく知りたい方は、下記をクリックしてください。イリュミネーションの説明と、映像がネットに紹介されています。

http://www.japonismes2018highlight.com
https://www.youtube.com/watch?v=Nu_00qHGGzY

日本人でありながら、伝統芸能をほとんど知らない私。とほほ…
初めて見る松竹大歌舞伎は面白かった。

中村獅童と中村七之助、今回がパリデビューだそうです。それにしても、タイトルがアルファベットだと、さっぱりわからん。
「Iromoyô Chotto Karimame Kasane」「Narukami」
つまり、「色彩間刈豆かさね」「鳴神」で、漢字では正しく読めないけれど、アルファベットなら読める。でも、アルファベットなら意味がさっぱりわからない、というわけで、日本語とアルファベットの両方があって初めて理解できる私。情けないかも…

公演後のレセプションにて。お二人ともとっても素敵でした。

リヨン・ダンスビエンナーレ

奇数年に行われるリヨンのダンスビエンナーレ。今年は9月11日から30日までがリヨン市内と近郊で、オーベルニュ=ローヌ=アルプ地域圏では10月中旬まで行われている。ダンスはパリがメインといえど、リヨンもかなり手広くやっているので要チェック。

ビエンナーレが始まって最初の日曜日に催されるデフィレは、町を挙げてのお祭り。 12人の振付家とそのカンパニーの指導のもと、1万5千人が参加して踊る。子供から大人まで、老若男女入り混じって、踊りながら町を練り歩き、それを数万人の人が見に行くというもので、 過去に一度も雨天中止になったことがないというのも驚き。

最終地のベルクール広場はものすごい人で、どうやっても中に入れないので、諦めた。ここで盛り上がるには、路上パフォーマンスを早々に切り上げて、広場で待機しなくてはいけなかったのだ。

ここが広場の入り口で、これ以上進めなかった。あとで聞けば、皆で踊って歌って超盛り上がったらしい。最後まで見るためにはかなりの体力をつけておかなくてはならないようだ。2年後、できるかな?

ノートルダム大聖堂

リヨンに行ったら必ず拝むのが、ノートルダム大聖堂。フルヴィエール大聖堂ともいうそうだ。リヨンの2つの川のうち、ローヌ川の対岸からでもその美しい姿を見ることができる。写真右端の丸い屋根は、リヨンのオペラ座。

ノートルダム大聖堂まで電車でも登れるけれど、その下の公園が気持ち良いので、ゼーゼー言いながら登るのをオススメ。
どんなに頑張っても写真に入りきらない大きさ。というか、大聖堂の正面前の敷地が狭いだけなんですけど。でもまあとにかくでかい。

内部はこんな感じで、豪華。

今日は大聖堂横の古代ローマ劇場でのダンスパフォーマンスを見に来たのだった。学生やアマチュアがプロの作品を踊るという企画で、ジャンヌ・ガロワとユヴァル・ピックの作品。

ジャンヌ・ガロワの「クインテット」をベースに再構築した「ソル・アンサンブル」アマチュアなりに頑張っている。それにしても、見晴らしの良いステージというのは、気持ちが良い!

日常の動きをベースにした、ユヴァル・ピックの「Flowers, crack, conrete」

勅使川原三郎さんのインタビュー会見。街の中心地にあるビエンナーレが主催するカフェでのトーク。誰でも参加できるのがいい。ディレクターのドミニク・エルヴュさんも笑顔で参加(写真右)

お気に入りの振付家ユヴァル・ピックの「Acta est Fabula」。写真中央の赤いシャツの人が小林円香さん。小柄だけれど、カンパニーの中では一番エネルギッシュで、飛び跳ねてばかりの振り付けを見事にこなしていて、観客の喝采を浴びていた。

アンジュラン・プレルジョカージュの新作「グラヴィテ」。タイトル通り「重力」をテーマに、振り付けのボキャブラリーの多さ、構成の綿密さなど、どれを取っても完璧で、さすが!と唸らせる作品だった。

劇場公演ばかりじゃない。街のあちこちでイベントが展開していて、ダンスが日常の一部だと感じさせてくれる。
ここは旧市立病院。今は改築されて、レストランやショップ、イベントスペース。 街のど真ん中にあるから、病院にしておくのはもったいないということなのかな。ここのチャペルでジェローム・ベルの作品。

このスペースは土足禁止で、床に転がっているオレンジ色のクッション(これが体に馴染んで、めっちゃくつろげる)にもたれて、時間をかけて見る作品。忙しい日本人向きではないと思う。日本から来た人が「全然動かない作品で、飽きた」と言っていたが、寝転がってゆっくり動くダンサーを見ていると、一緒にグダグダしている感じで心地よかった。
ダンサーはどこにいるかというと、

ゴロゴロしていました。

メイン会場のメゾン・ド・ラ・ダンスのロビーは、子供のサーカス体験場となっていた。今日の演目は、サーカスだからかな。

2階のロビーは、子供の遊び場スペース。運動が苦手な子はここで遊べる。親子連れで来られる劇場って、いいね!

リヨンのスター、ムラド・メルズキの新作「ヴェルティカル」。垂直に立った壁をよじ登るなど、縦横自由自在に動くダンサーたち。フランスではヌーボーシルクの世界では第一人者。もちろん公演は完売。

満足して会場を出たら、ホールから音楽が。

公演終了後、間髪入れずに始まったダンスクラス。インスタラクターの掛け声に合わせて、みんなで踊ればなお楽し。人の目なんか気にしない、踊りたければ踊るのさ。お父さんもお母さんもおばあちゃんもおじいちゃんも、みんなの顔が輝いている。サーカス体験、公演、そしてレッツダンスと、踊りづくしのメゾン・ド・ラ・ダンス。ダンスをいかに日常の一部にするか。この問題に取り組んできたドミニク・エルヴュの努力は、ちゃんと実っているのだ。

旧メゾン・ド・ラ・ダンスだった劇場。今はこの地区の名前を取って、クロワ・ルッス劇場。

勅使川原三郎と佐東梨穂子は、50人のリヨン国立交響楽団の演奏家をバックに、ベルリオーズの「幻想交響曲」を踊った。
この後、パリで2週間に渡り「白痴」を上演するという、相変わらず精力的な公演活動をしている。疲れ知らず、時差ボケ知らず。そのコツを教えていただきたい。

日本の多くのアーティストは、カーテンコールが慌ただしい。幕が下りるまで頭を下げっぱなしか、軽くお辞儀をしたらすぐに引っ込んでしまう。だから写真を撮るのが難しい。フランス人なら笑顔で客席を見渡してくれるから、シャッターチャンスはたくさんあるのになあ。

La (Horde)。2016年のダンス・エラルジーで2位になって以来、目覚ましい活動をしている。3人のアーティスト集団なので、それぞれの名前は表に出てこない、ちょっとミステリアスな集団。今回偶然にもリヨンで会う機会があって話を聞くと、3人の異なるジャンルのアーティストがそれぞれの知識を出し合って作品を作る、マルチ集団なのだった。今年のビエンナーレのポスターも、彼らが製作している。アンジュラン・プレルジョカージュとジャンヌ・ガロワの写真を合成して、ありそうでありえない構図を作ったのだと。確かになんか変。

ガロワの頭が二つあるし、プレルジョカージュの足だと思っていたのもは、ガロワのものだし。
今回上演の「TO DA BONE」は、ダンス・エラルジーで見ていたけれど、10分の抜粋と全編上演では全く違う。エネルギッシュに動きまくっただけの部分がコンクールで踊られていたけれど、その後、息切れして舞台で横になる姿や、ダンサー同士でおしゃべりする様子や、リアルタイムの映像をホリゾントに移したり、身近なオブジェを使ったりと、ダンサーだけどフツーの人という描き方が共感を呼ぶようで、舞台と客席の一体感に満たされた公演だった。マルチな感覚を持った作品は、新鮮に映る。

舞台そのものが手品だったマルタン・ジメルマンの「Eins Wzei Drei」。仕掛けいっぱいの装置と、風変わりな人物三人が繰り広げる突拍子もない出来事に、笑いっぱなし。

カーテンコールもふざけている。

今年のビエンナーレは、新企画「ダンサトン」で締めくくった。「ダンサトン」とは、DanceとHackathonの合成語で、ダンスとテクノロジーのコラボレーションを競うコンクール。今年が第一回目で、リヨン(フランス)、ロンドン(イギリス)、リエージュ(ベルギー)の3カ国3都市で同時開催された。400近い応募の中から、各都市5企画を選んで、9月28日に現場で初顔合わせ。ダンサ-、振付家、デザイナー、技術者、広報、まとめ役の六人でチームを作って、定時にドアが開いて一斉に作業に入り、夜10時にドアが閉まって残業なしの2日間で作品を作って、3日目に発表するという、時間制限付きの過酷なコンクールだ。優勝企画には、それを実現させるための資金援助として、コンテンポラリーダンス専門のメセナBNPパリバ財団から1万ユーロが出る。事前にどんな感じのコンクールになりますか~?と聞いても、初めてのことなので、ちーともわかりまへんという返事。
リヨンの会場はポール・ピクセルにて。

箱型の大きな建物が立ち並ぶ一角にそのポール・ピクセルはあった。倉庫の中での作業という感じ。

6人のグループが5つだから30人が同時に仕事をする。さらにこの場所のスタッフも参加するから、かなりの大所帯。コンクールだけれど、競争なし、みんな仲良く、場所を分け合っての精神。顔写真を貼って、みなさんよろしくお願いします。

その横の、未来の希望を書くコーナーには、「国境なし」の言葉も。もともと書いてあった質問を、自分なりに変えて思っていることを素直に書く。フランス人らしいなあ。

特別に本番前のリハーサルを見せてもらった。みんな平等だから、5つの同じ大きさのスペースで、それぞれのグループが最後の詰めを行っていた。

そしていよいよ本番。5作品とも観客参加体験型だ。

脳神経の動きがスクリーンに現れて、それに合わせてダンサーが踊るというもの。日本でもワークショップなどで人気のファビアン・プリオヴィルさんの作品。

心臓の鼓動に合わせて、というのだけれど、心拍数の高い人と低い人の比較でも交えてくれたら面白かったのではないかしら。

中央に手をかざすと、スクリーンにキラキラ星のように輝く人が踊り出すというもの。太鼓の上に砂を撒いて叩くと、振動で砂が踊るのをイメージした発想が面白いと思ったけれど、実際にできたものは、ちょっとパンチが足りないなあ。

これはなかなか楽しい。駅などの人が多く行き交う場所に設置するのだと。床に示された点線を辿ると、見知らぬ人と出会い、マイクから流れる指示に従って二人で踊るというもの。

さすがフランス人、物怖じせずにこんなことをしてくれます。もちろんここで踊っている人は、今日見に来た一般の観客。

これが今回優勝して賞金を獲得した作品。企画者はエリック・ミン・チュン・カスティングさん。
携帯に取り込んだアプリをクリックすると、音楽と指示が流れる。それに合わせて、街中でもパーティー会場でも、どこでも踊りたいときに踊るというもの。ここでは観客に分からせるために、音楽が聞こえているけれど、携帯にイヤホンをつけて聞くことが前提なので、街で突然何人かが踊り出すという現象が起きるかも。

この日の朝、実際にロンドンとリエージュで実験したのがこの映像。同じ音楽でオーダーも同じなのに、全く違う作品になる。スクリーンがあれば、全く違う場所にいる人とコラボすることもできるわけで。実現したら面白いと思う。

右側の人が優勝者のエリック・ミン・チュン・カスティングさん。スポンサーのBNPパリバ財団の人と真剣に話している。今後のことを話しているのかな。

日本があちこちで展開している。

ここは昔ギメ美術館だった。何年も放置されていたが、メゾン・ド・ラ・ダンスの創作の場所に改築するらしい。費用はかなりかさむらしいけれど、リヨン市が援助してくれるという。市や国がダンスの発展に協力してくれるなんて、どこかの国とは大違い。羨ましい限り。でも、プロジェクトをちゃんと立てて、市や国に働きかけられる指導者がいるからできることなのだ。リヨン市がエルヴュ氏を迎えたことが、着実に良い方向に向かっていて、リヨンはダンスが身近な都市として発展していくのだろうと思った。

体育館みたいな大広間では、ヨアン・ブルジョアのアクロバティックな公演。

上から人が滑り降りてくる~
津川友利江さんが大活躍していました。

山田マミ プロフィール

幼少よりダンスを始め、80年代はアメリカに没頭するが、今は亡きダンス・ア・エックスでローザスの「オットーネ・オットーネ」を観て、ヨーロッパの歴史の深さに圧倒され、フランスに移住。しかし、言葉の壁に阻まれ、英語圏への脱出を計画。ところがその矢先、腹ぺこで歩いていた私に「ヴォワラ、マドモアゼル」と林檎を差し出してくれたおじさん。レストランに仕入れる林檎が1個足りなくなってもいいのかしらと心配しつつも感動!もしかしたらフランス人ってすっごく優しいかも?脱出計画は一挙に吹っ飛び、フランス定住を即決める。住んでみたら奥が深いフランス生活。1年が2年になり、、、あっという間に13年。住めば都のフランスはパリで、納豆と豆腐を食べ、中華街でベトナム麺をすすり、日曜日はマルシェで季節の野菜と魚を買い、時に日本のカボチャを育て、楽しく過ごしております。

 
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