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ニュース・コラム

舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

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成城ダンスフェスティバル2012:“青い地球プロジェクト”第2弾
さらに一歩踏み込んだステップアップはあったか? 3月16日 9作品 2ステージ at 成城ホール

日下 四郎 2012年3月27日

続く第2パートへの登場者は、神永宰良と山本裕、そして井上恵美子の3人。ここでの共通項目は、個と社会ということになろうか。まず神永の「Fukushima――3月16日の空」は、震災地福島出身のこの作家が、今日ただいまの心境をストレートにダンスに託して綴ったもの。昨年夏の同じ〔プロダクション直〕の手になる『夢洞楽』にも、やはり「放射NO!」を出しているが、主題は同じでも当然作りは別。黒衣や白面をつけた大勢の群舞は、とりまく目下の状況を、作者神永の心理に重ねて代弁する。個の作品でありながら、そのまま社会に直結している点でも、典型的な現代舞踊の一例といえる。

反対に山本の「VERY SWEET」は、男女の交接からイメージしたデュオで、いわば個に徹した非社会の作品。副題に書かれた“孤独な肉”を感じさせるには、まだ何かが不足しているが、逆にそのテーマが浮び出るかどうか、それが今後この作家のターゲットとなるだろう。3つめの「狂詩曲V」は、ここのところの井上の老女シリーズの新作1本。歌曲『王将』をBGに、宝くじにからめた人間の金銭欲を風刺したソロには、バックにちゃんと社会を感じさせ、相変わらず達者なもの。しかし考えようによっては、既往の作品といっしょに一応レパートリーにしまい込む形で、そろそろ小休止を打つタイミングかも知れない。

ラストの3本は、二見一幸、桑島二美子、折田克子の3作品である。「nameless」の二見は、もともとヌヴェル・ダンスがデビューの作家だが、今ではすっかり自己のスタイルを樹立しており、巧みに活用される照明ともども、自らのフタミ節を含め、数名のカンパニーを自在に踊らせてファンの目を楽しませた。いちばん若手の次の桑島作品は「完結することの出来ない物語」。タイトルにはいつもチョッピリ観念性とアイデイアをまぶしながら、動きの中心にはしっかりとダンスが埋め込まれている点が立派。ひとつだけ技術的なことだが、打音のサウンドが効果よろしく、おかげで途中に挿入したナレーションらしき詩句の朗読が、よく聴き取れなかったのが画竜点睛を欠いた。

フェスティバル最後の締めは、ベテラン折田克子の「from HERE」である。再構築したという元の「赤い汽車」は見ないが、振付をつらぬく中心イデーが〔地熱―自熱〕という作者の説明には、いかにもこの人らしいと納得させられる。いくつかの群れが、先ずがっちりと身体の居場所を定め、そこから考えられるあらゆる身体の形を、貪欲に周辺からとり込みつつ、ラストに折田のソロになる。〔ここから先〕も、またどこまで行っても身体とダンスあるのみ。今さらながら、貴重な存在だ。

思いつきやわき道にそれた舞台の氾濫するコンテンポラリーの世界。それとは対照的に、この成城ホールの新しい企画には、揺るがぬダンスへの夢と身体がある。そしてそのプロデユーサが、長年この世界で音響の職人として知られた〔プロダクション直〕の山本直氏。

長いキャリアだが、過去同氏のサウンド選曲に対しての態度には、ずばぬけて厳しいものがあった。ダンサー側から創作の意図を正確に理解した時点から、それ以後の音の作業には、あくまでも己の感性を信じて、外部からの妥協やの要素を一切許さない。そのプロセスはスタッフというより、むしろアーティストの姿勢に近い。

ダンスと至近距離にあるそんな長年の現場体験が、いつしかこの人に少しでもおもしろい、観る人を刺激するダンス作品をならべ見たいというプロデユースへの興味を惹き起こした。それがモティーフのすべてだ。来年の第3回はもちろん、このフェスティバルの末永い継続と発展を祈るや切。(16日マティネ所見)

日下四郎
日下四郎(Shiro Kusaka)
芸術文化論・ダンス批評・演出
 
本名:鵜飼宏明 京都市出身。
東京大学ドイツ文学科卒業後、東京放送(現TBS)へ入社、ラジオ・テレビのプロデューサーとして数々の番組を送り出す。1979報道制作部長職を経て退社、 故・三輝容子とダンス・シアター・キュービックを設立、13年間にわたりトータル・アッピール展の創作(台本・演出)にかかわる。90年代は淑徳短期大学、日本女子体育大学大学院にあって非常勤講師、主にドイツ表現主義芸術を論じた。現在はフリー・ランス。著書:「モダン・ダンス出航」「太陽と砂との対話」「竹久夢二」「現代舞踊がみえてくる」「東京大学学生演劇75年史」「ダンスの窓から」「ルドルフ・ラバン」(翻訳)など。他に、ビデオシリーズ「日本現代舞踊の流れ」(全6巻)の完成があり、その全テキスト・演出を担当した。