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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

藤井 修治
 
Vol.58 「ソウルに行って来ました」  
2002年7月04日
 サッカーの第17回のワールド・カップは6月30日の決勝戦でようやく幕を閉じました。4年に1回ということでもあり、初めてのアジアでの開催でもあったからでしょうか。とにかく大さわぎでしたが、フーリガンとかテロの被害もなくてよかったですネ。
 僕なんかサッカーがフットボールのこととは知らなかったり、ボールが往復するのでラグビーと区別 がつかなかったなどという運動オンチですが、それでも勝敗が気になりました。日韓両国とも頑張って大活躍でけっこうでした。この機会に両国の理解が深まって、さらに仲良くなればW杯も大成功ですね。
 6月の16日から2泊でソウルに行ってきました。といってもサッカーを見に行ったのではありません。韓国のユニバーサル・バレエの「ロメオとジュリエット」を見に行ったんです。実は10年ほど前にユニバーサル・バレエの公演をいくつかビデオ収録したことがあるのです。プリマのジュリア・ムーンの全盛時代です。NHK在職時代のバレエ公演のテレビ化の腕を買われての話です。「白鳥の湖」全幕をはじめ、東京やソウル、 そして名古屋の愛知芸術劇場にも出かけました。ジュリアさんは韓国人ですがアメリカの生まれ育ちとか、国際感覚もあり、優美なバレリーナでした。フェルナンド・ブホネスをパートナーにしての「ジゼル」全幕や、 現在のABTの芸術監督のケヴィン・マッケンジーの詩人役での「レ・シルフィード」などでした。こういった名作は何回もテレビにしているので、振付の根本は頭に入れてあるのです。その時々状況を判断して少し撮り方は変えますが、作品の本質は不変です。テレビのスイッチャー(カメラを切り替える人)やカメラマンが僕のいうことをちゃんと聞いてくれるので収録ができるわけです。韓国のオリジナル・バレエ「沈清(シムチョン)」という作品は舞台げいこを見てのニワカ勉強で何とか収録できました。ジュリアさんが喜んでくれたので、僕も嬉しかったのを思い出します。
 ところが先日初来日した韓国国立バレエの舞台が立派だったので、ユニバーサル・バレエはどうなっているのかと気になってはいたのです。そんな時にこのバレエ団の最近の舞台を見ないかとのお誘いがあったので見に行って来ました。旅費も宿泊費も払っていただいたのは、過去のテレビ収録のおかげでしょうか。それならば、この公演の様子を皆様にお伝えしたいのですが、別 の雑誌に書く約束をしてしまいましたので、この欄は利用しません。でもほんの少しは紹介しましょう。
 ソウル市の中心を流れる漢江という大河の南側にある「芸術の殿堂」という広大な文化センターの中心にそびえる「ソウル・アーツ・センター」という巨大な建物の中心にあるオペラ劇場が今日の公演の場所です。2300人ほどの客席を持つ豪華な劇場で、舞台の幕があいてもとにかく派手な舞台を楽しみました。
 長い間、キーロフ・バレエの芸術監督だったオレグ・ヴィノグラードフが現在このバレエ団の芸術監督をつとめていて、この「ロメオとジュリエット」はこのバレエ団のために作りあげたものです。作者は韓国の観客の好みに合わせたのでしょうか、とにかく派手な舞台が目につき、演出・振付も親切です。
 舞台はシェークスピアの原作のとおり、昔のヴェローナですがとにかく美術がぜいたくで舞踏会の場などはキャピュレット家の人々の衣装が金ピカで目が痛いほど、そして二幕のカーニバルの場の人々の真赤な衣装で、ソウルの街中のW杯サポーターの赤いTシャツと同じく元気色でした。
 ヴィノグラードフはそれなりの主張を見せます。まずジュリエットの乳母がいません。かわりに友人でしょうか4人の娘さんが活躍して華やぎを加えていました。乳母がいないので主役2人の恋のとりもち役がいなくて、2人は積極的に愛し合います。そしてジュリエットが薬を飲んで仮死状態になると、死んだようなジュリエットを乳母が発見する場を省略し、すぐに葬儀の場になったりしたり、様々な創意工夫を見せ、従来の「ロメオとジュリエット」に異をたて、自己主張も見せています。
 われわれはどうしても初めて見たもの、慣れ親しんだものにひきずられてしまい、以前と違ったものを見ると抵抗を感じてしまいがちです。新しい「ロメオとジュリエット」もちょっと変だなと思ったのですが、二日つづけて同じものを見たら、なるほどと思うことも多く、それなりに楽しめました。この舞台はいまのところ日本で上演する予定はないようなのです。腰をあげてソウルに出かけた意味はあったような気もします。
 6回だかの公演の最後の2回を見たのですが、その翌日はW杯決勝リーグで韓国とイタリアが戦うとかで、ソウルの町は赤Tシャツがあふれかえっていました。夜8時半からというのに昼間から市庁前の広場の大スクリーン前はもう若者たちでいっぱいでした。ということで混雑を避けて早めに空港に向かいました。この日の前日がバレエの最終日だったのは、バレエ人気がサッカー人気にはとうてい敵わないからだとの判断だったわけでないでしょうが、日が重ならなくてよかったとは思いました。芸術とスポーツは集客力で価値をきめるものではないはずですけど、W杯は名のとおり世界的な行事だと痛感させられました。ついでに街頭であの赤いTシャツ(コピー商品)を買いましたが、僕には似合わないみたいです。
 早めに着いた空港で待つうちにテレビでのW杯中継を見ていたら日本はトルコに負けてしまいました。ガッカリ!夕方の仁川発、成田行が濃霧のためおくれて到着したころ、こんどは韓国がイタリアに勝ったとのこと。他人の国のことなのによかったなと少し嬉しくなりました。同じ東洋人だからでしょうか。でも日本のサポーターたちが、ベッカム様とかロナウドー!と呼んでいて地球も狭くなったなーとも思います。スポーツのよいところでしょうか。僕なんかニワカファンで終わりましたが、これを機会に本格的サッカーファンになった人は多いはずです。それに対してやはり舞踊ファンは多いとはいえません。でもすばらしい舞台が続々と現れれば希望はもてます。舞踊家の皆さんよろしく!
 さて、久しぶりの韓国の話に戻します。昔行った時は、街中に見られるハングル文字が一字も読めなくてイライラしました。欧米では看板もアルファベットだから大ていはわかります。ところが韓国ではトとかOとかオスやメスの記号に近いような字がならんでいて何が何だかチンプンカンプン。ところが今回行ったらわからないけど抵抗が薄れたみたいです。何事も一回で判断してしまったら申しわけないような気もします。外国も一回だけでなく、二回三回と行けばずっと深くその国を理解できると思います。だいぶくたびれてきた僕ですけれど、もう少し頑張ります。ハングル文字も勉強したいとも思いますがもう遅いですよネ。
 でも、近くて遠い国、韓国については、もう少し理解しなくてはなりません。初めてソウルに行った時、博物館で韓国の古墳の内部の壁画が、日本の高松塚古墳の壁画とすごく似ているので驚いたことがあります。もちろんむこうが先輩です。でも日本ではお年寄りは韓国が日本の植民地だったころの考えが少し残っているみたいです。考えを改めなくてはいけません。
 いま東京の国立博物館でやっている「韓国の名宝展」で華美な美術品の中に古い高麗青磁などの陶磁器があります。これなども日本への影響は大きいのですが、時代が下って朝鮮時代になってからの朝鮮白磁は、この時代から仏教にかわって国教になった儒教の教えに従ったもので、一切の虚飾を排した単純な型と白一色の器の美しさは類がありません。いっぽう庶民にはそのころもまだ仏教が信じられている、生活品などはものすごくカラフルだったりします。地味と派手、単純と複雑などの面 白さ。やはりその国を知るのはまずは大まかにでも歴史を学びたい。久しぶりの韓国行きで、そんなことも痛感しました。



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