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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.45

「『くるみ割り人形』シーズンに

  あえて反するグループたち」     
 
2002年1月15日
 

 舞踊界では毎年12月は『くるみ割り人形』シーズンというのは、わが国でも大分前から定着しています。年によって多少の増減はありますが、このところ数年を考えてみても、大手、中堅バレエ団、そしてバレエスタジオでも、私の知る限り平均して全国で20を越える『くるみ~』が上演され、延べ回数にするとその倍ほどになるのではないでしょうか。ただ、関東と中部、それに京都、神戸でもけっこう多いのに、大阪ではそれほど盛んではないように思うのですが、それは何か特別 な理由があるのでしょうか。だいたい、大阪では12月の下旬には舞踊公演じたいがあまりないような気がするのですが、あるいは私の情報が間違っているのかもしれません。
 それはそれとして、この作品は、クリスマスパーティーの夜が舞台ということだけでなく、家族向けのお話であり、楽しく親しめる踊りや音楽であること、とくに子供たちをたくさん出演させられることなど、いろいろな点で上演する側、バレエ団にとってはおいしい作品です。バレエ団ではそれぞれ最後のカーテンコールなどさまざまな趣向をこらしてお客さんサービスにつとめています。
 したがってとくに12月の後半は、いろいろな『くるみ割り人形』が目白押しで、同じ日に2つも3つもの公演が重なることも珍しくありません。
 ところが、この12月に公演を行いながら、『くるみ~』以外の作品を上演するという臍曲がり?もたくさんいるのです。
 それは大きく3つのグループに分けられます。
 まず、もともとスタイルが違うもの。いわゆるモダン、コンテンポラリー系です。『くるみ~』を上演しないのは当然ですが、このような公演もけっこう12月に多いのです。フラメンコも毎年11月末から12月始めにかけて行われることが恒例になっています。
 つぎは『くるみ~』も上演するが、たまたま、あるいは他の作品と交互に上演することにしていて今回は別 の作品を取り上げたというケースです。昨年暮れでは新国立劇場や京都の宮下靖子バレエ団がこの例で、逆にバレエ団ピッコロは今回は『くるみ~』の番だったようです。ちょっと付け加えますと、新国立が上演した『シンデレラ』も、お話の親しみ易さ、子供が出演ができるなど年末向けの作品で、一時はいろいろなところで取り上げられたものです。
 そして、3っ目としてバレエ関係でもあえてこの時期に意欲的な創作作品を発表するグループがあるのです。
 今回はこのグループについてとりあげることとします。
 このタイプのでもちょっと異質のものがあるような気がします。それは佐多逹枝がオルフ祝祭合唱団とともに行っている合唱舞踊劇シリーズです。これは前にベートーベンの『第九交響曲』を取り上げたことがあるように年末の雰囲気があるのです。昨年暮れにもバッハとカール・オルフの合唱曲をバレエ化しています。さすがに佐多らしく、ダンサーの部分については自由な発想を楽しんでいるようないわゆる大人の風格が見えました。ただ合唱についてはなかなか大変なようです。
 このようなタイプはあまりありません。それでもうひとつのグループについて考えてみたいと思います。それは偶然かもしれませんがすべて名古屋で行われたものです。19日の北川淑子バレエスクール公演『DancingF』、22日川口節子バレエ団『舞浪漫01』、そして実際は11月ですが最終日30日に行われた後藤千花ステップ・ワークスバレエ公演を加えます。
 この3団体には共通点があります。まず主宰者が女性で現在(後藤)ダンサーであるかあるいはかつて(北川、川口) ダンサーであったこと。そしてそれほど大きな団体ではないが若くて優れた、将来性のあるダンサー、生徒が多いこと。そしてストーリー性のあるバレエ作品をメインに上演していることです。もちろん違いもあります。後藤のステップ・ワークスでは、ずっと東京から上田 遥(今回も)や中島伸欣を招いて振付けを依頼、自分はダンサーに徹しています。北川は今回は河内連太に台本を依頼した新作を振付け発表、川口はすべて自分の作品で、川口節子作品集という副題がついています。そして3人ともやる気満々なのです。あまり東京にはないタイプです。
 このなかで後藤千花ステップ・ワークスは名古屋市民芸術祭賞を今回も含めて3回も受賞するなど、高い実績を残しています。川口節子は振付け能力が評価され始め、その機会が増えてきています。それに対して北川淑子は、団体としては後輩という感じ。しかし、12月22、23日に熱田文化小劇場の開館記念公演で、モダンの野々村明子、フラメンコの中尾貴子とともに出演するなど、なかなか積極的です。
 具体的な作品評をするのがこのページの目的ではありませんが、ステップ・ワークスの上田作品3本、とくにメインとなった『知恵子~わが愛「エイプリル・フールの雪」』は、クラシックの子守歌を主体とした音楽でスムースに観客に侵み込んで来るような作品を智恵子役の千花初めみなよく演じていました。川口の作品は子供向けのものを含めて4本、再演の『マダム・バタフライ』、新作の『神になった男』など皆ユニークな感覚の作品で新しい刺激を受けました。北川の作品は新旧2作、初めて見たのですが、旧作はエスニックななかにドラマが見え、新作の河内の台本・美術による『サーカス物語』は、北川もダンサーたちも初の挑戦だそうで、旧作に比べるとまだしっくりしないところはありますが、上田遥の線を目指したいというだけに、メルヘンチックななかにユーモアのセンスを加えた作風はこれからが楽しみです。
 この3グループをとうして感じられるのは、クラシックそのものにはこだわらずに、しかしだれでも楽しめる分かりやすい舞台を目指していることです。この狙いは大賛成、これからの活動に大いに期待したいと思います。




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