D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.48

「安定、充実してきた新国立劇場舞踊活動

  ただし、将来の課題も明らかに
 
2002年2月19日
 
 2月上旬から中旬にかけての約10日間の間に4回、新国立劇場で公演を見る機会がありました。まずオペラ劇場で『白鳥の湖』の5キャストのうちの2つ、中劇場での「新国立劇場バレエ研修所の第1期年次発表会」、そして小劇場における「伊藤キム作品集」です。古典の名作、研修事業、さらにコンテンポラリーの人気者と内容もバラエティに富み、客席もなかなか活気に溢れていました。全体としては新国立の舞踊部門は着実に成果 をあげているということができます。  ただ将来に向けてということになると、率直にいっていろいろと課題もあるように思います。
 少し具体的なところから考えて見ましょう。
 まず、『白鳥の湖』です。私が見たのは初日のスヴェトラーナ・ザハロワとダニラ・コルスンツェフ組と楽日の高山優、森田健太郎組です。高山組は、彼女がこれまでソリストとしてしっかりした演技をしてきていますので、プリンシパル候補としての興味からです。やはり彼女もほとんどのダンサーと同じように、初役の緊張による意識集中の難しさが技術そのものよりも、全体の踊りづくり、役づくり、そして作品づくりのところに見られました。主役に必要なのはまさにここのところです。今回いい経験として、これから努力をしてもらえば十分期待できると思います。
 ザハロワには彼女個人とは別の問題を感じました。彼女の特徴はなんといってもそのスタイルです。豊かで柔らかな甲、爪先、見事なラインを示す脚、そして美しく大きな動きやポウズ、これらは海外のダンサーのなかでも突出しています。これは大変素晴らしいことで、観客にも強くアピールします。観客の満足もちろん必要です。
 ただあえて心配するのは、当日ロビーや客席で[やっぱり(スタイルが)違うわね]という声が聞こえたことです。よほど[彼女は外国でも特別 なんだよ]、といってあげたいほどでした。たしかに、とくに湖の場では皆と同じ白鳥の衣装だけにこのスタイルの違いがはっきりしてしまいました。私は新国立のダンサーたちのスタイルは決して悪くない、全体に体位 が向上した日本人ダンサーのなかでも上位にあると思っています。しかし、ザハロワのスタイルは遥かにそれを上回っていたことも事実です。
 オデットだけは他の白鳥たちとは別格の存在であって、それが強調されてよかったという見方もあるでしょう。ただ、これが今の日本社会の風潮、つまり日本人嫌い、カッコいい欧米人みたいになりたいという、とくに若い人々の意識に乗っかると、やはりバレエは外来、主役は外国人という意識が強くなるのではないか、それが心配です。
 考え過ぎといわれるかもしれません。でも、噂によると次のオペラの芸術監督になる予定の人(ウィーン国立歌劇場制作局長?)が主役に日本人を使わないといって物議をかもしていると聞きます。短期的にはこれも一つの考え方なのかも知れませんが、『日本の国立劇場』であることを、将来に向けてつねに意識してなければいけないと思います。それにはゲストも将来のビジョンにふさわしい人を選ぶこと、そしてなによりきちんとした研修、育成システムを作ることです。
 研修問題は後にして、作品の内容にも問題を感じました。それはコンスタンチン・セルゲーエフの演出、振付についてです。とくに私が疑問に感じるのは(これはバレエ協会の時からですが)、1つは黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥのコーダです。オディールの32回のフェッテ・アン・トールナンの後、王子が16回のピルエット・ア・ラ・スゴンドで続くからより盛り上がるのです。これをしない振付ではむしろ盛り下がってしまいます。
 もう一つは最後の幕の群舞に黒鳥が混じっていることです。黒鳥オディールは悪の化身ロットバルトの娘で、王子をたぶらかすのです。ここの場の8羽の黒鳥たちは何でしょうか。ロットバルトの手下?オディールの姉妹?舞台を見る限り、そのようには見えないのです。王子が黒鳥たちを見ても驚く様子がないのはなぜでしょうか(黒鳥オディールに酷い目にあったのに)。ワシリーエフの解釈(プログラムのあらすじ)では、白鳥たちがもと人間だったのかどうかはっきりしないのですが、オデットは人間でないと話は成立しません。他の白鳥たちも人間だったのだとすると、黒鳥はどうだったのでしょうか。
 これはへ理屈ではありません。最初の場は白鳥だけなのに、最後の場には黒鳥も混ざっているので、なぜなのかを考えるのは当然のことでしょう。
 しかし、私がここでいいたいのは、個々の振付の良し悪しではありません。もし、新国立サイドで、これに限らず、日本人の感性に合わせて振付を変えようと思ってもできないということです。それはこの振付を買っているからです。完全に買っているなら別 ですが、上演権ですから勝手な改変はできません。これは他の作品も同じです。(ただ、最後の場の王子の出方は初日と楽日では違っていましたが…私は初日が好きです)。
 私が望みたいのは、将来的にはセルゲーエフの『白鳥~』、マクミランの『ロミオ~』、アシュトンの『シンデレラ』でなく、新国立の『**』が欲しいということです。つまり、だれか、できれば日本人を起用して新国立劇場自前の古典、創作を作ってもらいたい、そうすればいろいろと手直しをして私たちのバレエが完成すると思うのです。
 ぜひ将来のビジョンにこれを入れてもらいたいと思います。
 研修所の発表会、伊藤キムの舞台に触れるスペースがなくなりました。これにもいろいろと感想があり、将来的な課題もあるのですが、何回もいっているとおり、舞踊学校が絶対に欲しいということだけを強調して、後は次の機会に譲ることにします。



掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。
お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。
また、このページに関する意見等もお待ちしております。
 
株式会社ビデオ
〒142-0054東京都品川区西中延1-7-19
Fax 03-5788-2311