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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.50

「再び障害者と舞踊について

     ー3つの公演について考えたことー」
 
2002年3月19日
 
 1月から2月にかけて、ちょっと変わった舞踊の会に接する機会がありました。
 まず1月20日、よこすか芸術劇場での伊与田あさ子バレエスタジオの「楽しいバレエのお話と「白鳥の湖」より第3幕」、2月16日、武蔵野市民文化会館での岡本るみ子バレエスタジオの「アンリミテッド チャリティー・コンサート」、そして2月23日、神戸市の兵庫県民小劇場で行われた藤田佳代舞踊研究所モダンダンス公演「創作実験劇場」の3つです。この3つ、場所は横須賀、武蔵野、神戸、バレエとモダンダンス、主催者の出身もまちまちですが、1つ共通 する特徴があるのです。
 それは、障害者、とくに知的障害をもっている人たちを参加させ、支援する活動の一環として行われたものであるということです。
 障害者と舞踊については、このページでも時々とりあげてきましたが、障害者と触れ合い、それを語ることはなかなか微妙で、プライバシーや差別 の問題には十分に配慮しなければなりません。また一方で過剰の扱いはかえって差別 だという考え方もあり、私もどう向き合い、どこまで表現すればよいか、まだ迷っている部分があります。ただ、現実には障害をもった人たちが自由に生活し、活動できる状況、いわゆるバリアフリーの体制は、制度面 でも意識面でもまだまだ不十分であり、もっと社会全体として強い関心を持つことが必要なことは明らかです。
 伊与田さんのところではバリアフリー・エンゼルクラスを開いて、バレエの指導をおこなっており、お嬢さんの未亜さんはコンクールのバリアフリー部門で連続して最優秀、準優秀賞を受けるなど他の人たちを含めて素晴らしい成果 を上げ続けています。今回の会でも未亜さんはじめクラスのメンバーを主体とした3つの作品が発表され、私が解説というかたちで舞踊におけるバリアフリー、エイジフリーなどの活動を紹介しました。
 岡本さんは自分でスタジオを主宰する一方で「アンリミテッド(知的障害者支援の会)」を組織し、とくに障害者のための施設、瑞(みずき)学園、その母体である社会福祉法人コロロ学舎の支援に力を入れています。このチャリティー・コンサートもこれを目的とし、この法人の関連の障害児と健常児がともに活動する「ころろ子ども探検隊」と障害児による「杉並幼児探検隊」のメンバーが障害児のために創作されたオペレッタに出演しました。
 神戸の藤田さんはユニークな発想の作風をもち、ご自分の会だけでなくお弟子さんにも作品発表の機会を与えるなど活発な創作活動を行っています。知的障害者へのダンス指導は、20年以上前にサリドマイド問題を知り強い衝撃を受けて障害をもった子どもたちとかかわりたいと始めたものだそうで、現在は8名の生徒が学んでいます。そのなかの1人安田蓮実さんは昨年の北九州のコンクールでチャレンジャー賞(最優秀)を受けていますが、このたびの会でも受賞作品など3作品をソロで踊りました。その他の人たちも発表会では健常者と一緒に舞台に上がっているとのことです。
 それぞれの会の障害者たちの演技も感動的でしたが、客席でも多くの障害をもつ人たちが舞台を楽しんでいました。また伊与田さんの会では私のバレエの魅力、楽しみ方そして作品やマイムの解説などを手話ですべて通 訳してもらいましたし、岡本さんの会でも手話でいろいろな情報を伝えていました。
 あまりプライバシーに深入りすべきではありませんが、伊与田さん、岡本さんのところではご家族に障害をおもちの人がおられるだけに、このような問題と正面 から取り組みたいという気持ちも当然でありよく理解できます。ただ、これらを両立させるのは大変なことだと頭が下がります。藤田さんはそうでなく、まったく社会奉仕への意識から始めたもので、あまりこれを表面 に強く出したくないという気持もよく分かります。でもじょじょに認められてきたようですが。
 障害者と舞踊の関係については、他にも車椅子ダンス、セラピー、リハビリなどさまざまなかたちがあります。またバリアフリーに留意した劇場が増えたり、障害者を招待する公演も多くなりました。これらをテーマとする研究者、活動者も現れています。
 さらに障害者に対してだけでなく、孤児や遺児、高齢者などに対する支援や奉仕、さらに地球環境や非行・犯罪などの問題に対しても何がどのようにできるのか、もちろんこれは舞踊だけでなく舞台芸術全体に共通 のものでしょうが、これらも重要なテーマです。
 これらはまず文化庁をはじめ社団、財団などの公益法人などで考えるべきだと思いますが、それとは別 に舞踊関係者、愛好者それぞれが社会意識をもち、福祉や環境などの問題にボランタリリー(自発的)にかかわっていくことが必要ではないでしょうか。
 私も大学のゼミなどでボランティア活動をやってきていますが、伊与田さん、岡本さん、そして藤田さんなどの活動に触れることによって、わずかながらこの問題にさらに具体的にかかわることができ、お役に立つことができるようになって、とても嬉しいことだと思っています。



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