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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.52

最近忙しいなかで思うこと  

 
舞踊界発展のために、あるジャーナリストのこと」
 
2002年4月17日
 

 前回のこのページで藤井修治さんが私のことを大変もちあげてくれており、恐縮しておりますが、決してそんなえらいことではないのです。私がたくさん見るのは、実は能力がないものですからそうしないと批評家としての仕事ができないからなのです。というわけで、これからもしばらくは劇場に通 い続けたいと思っています。
 この2週間にもいろいろなことがありました。そのなかからいくつかを取り上げて、私の基本姿勢との関係でちょっぴり感想を述べることにします。
 1. ジュニアバレエグループ・エスポアール第2回公演(4月7日)
  ご本人たちには申し訳けありませんが、私はこのようなグループがあることをこれまで知りませんでした。ではなぜ見にいったのかというと、大畠律子さんが森田健太郎君を相手に『ジゼル』を演じるということ、そして(この主催者である)山内貴雄さんと小紫葉朕さんのところに素晴らしい男の子のダンサーがいることをコンクールで知っていたからです。場所は龍ヶ崎市文化会館、失礼ですが皆さんはどこにあるかご存じですか。私も茨城県の取手の先というていどの知識しかありませんでした。
 行ってみて驚いたのは、会館が駅から遠く田んぼと林の境目にあることではありません。去年の埼玉 、そしてつい先週の東京新聞のコンクール児童の部門で1位の浅田良和君はじめ踊れる男性ジュニアが数人おり、彼等を中心にした『ボレロ』もなかなかの作品だったことでした。山内さんは現在も牧阿佐美バレエ団の貴重なキャラクターですが、奥さんの小柴さんとともに大変な失礼を承知の上ででいえば、決して超ー流でも有名でもありませんし、龍ヶ崎という土地もごく普通 の地方都市です。しかし、そこでこのように、女性もなかなかのものですが、とくに男性をしっかりと育てている。公演のチケット売りや、お客さんのための送迎バスの準備など苦労も大変なようですが、これが国をあげてエリートを育成している中国や韓国に対抗するわが国の力だと思いました。
 大畠律子さんは、もう10年以上牧阿佐美バレエ団だけではなくわが国バレエ界のトップバレリーナとして活躍していますが、彼女だけでなくこの年代のダンサーが率直にいって若手のダンサーに席を譲りがちです。どうもわが国では舞踊界だけでなく芸能、スポーツ、さらに政治・経済の世界でも若さだけが重視されがちです。もちろん長老支配も行き過ぎてはいけません。しかし、若さの活力だけではなく、森下洋子さんをもちだすまでもなく、人生経験の深み、積み重ねも重要です。バレエの分野でもとくに古典作品では役の解釈や表現など、ある程度の経験がないとうまくいきません。
 この『ジゼル』の大畠さんもまさにそう、安定した深みのある、そして周囲とのアンサンブルにも気を配った舞台を見せてくれました。古典の主役の彼女をもっとあちこちで見たいものです。
 2. 劇団四季『コンタクト』(9日)、舘形比呂ー・佐々木大 デュオプレイ(11日)
 『コンタクト』はダンス主体のミュージカルで、バレエ出身(ローザンヌコンクールでエスポアール賞など)の高久舞さんが主役に抜擢されたということで話題になっている舞台です。ここで述べたいのは舞台の出来でなく、営業面 のことです。大変なパプリシティでした。四季劇場ではもうひとつ『ライオンキング』も長期公演中ですが、この『コンタクト』も3月末から10月末までの公演がすでに決定して前売りに入っているのです。客席は千から千五百の間ですが、これでS席1万円。約200日、ー日1千万円として20億円。実際にはその7掛けとしても14億円。出演者は20人足らず、超ー流のタレントがいるわけでもなく、装置も簡素、劇場も自前ですから、償却や金利を考えても儲かるはずだと思いました。
 それに対して上田遥さん振付の舘形・佐々木さんのデュオ作品『オルフェウスの告白』は、間違っているかも知れませんが、コンボイの舘形のファンを対象にした企画で広報もあまりせず、パンフレットも質素なものです。それでも東京芸術劇場の中ホールでの5回(S席7千円)をはじめ全国で10回の公演を行うのです。佐々木大ファン、上田遥ファンも当てにはしているのでしょうが、初日の舞台は率直なところ舘形ファンクラブの趣もありました。しかし、佐々木大さんのジャンプや回転に驚きの声が聞こえましたから、これがバレエへの関心につながるといいと思います。
 ここで感じたのは劇団四季や舘形比呂ーにできて、なぜ舞踊界でできないのかということです。もちろん熊川哲也さんのKバレエがありますが、もっともっとお客を呼べる素質のあるダンサーや振付者がいると思います。重要なのは、こういうのは芸術じゃないなどと負け惜しみをいわずに大勢のお客さんに楽しんでもらうという意識をもつこと、そのために何をすべきかということです。そのひとつがお客を呼べるタレントを作り出すことでしょう。あえて「育てる」でなく「作り出す」という言葉を使いました。
 3. 伊藤百合子さんのこと
 4月6日に舞踊ジャーナリスト、音楽新聞記者、伊藤百合子さんが急逝されました。愛知県出身、大阪芸大卒、桜井勤さんの紹介で音楽新聞社に入社したと聞いています。メディアが違っていたので直接仕事の上のお付き合いはあまりありませんでしたが、定期的に寄稿されていた「アエラ」のためのインタビューを受けたことがあり、その言葉を引用されたとき年齢が記入され、どこで調べたのかと驚いた記憶があります。ロシアバレエを主体に非常に積極的でしたが、人懐っこいところもあり、だれからも好かれていました。
 まだ30代、以前から具合が悪いということもなかったので、亡くなったと聞いたとき、本当に病気?といってしまいました。白状しますと事故か自殺と一瞬思ったのです。大変な失礼を心からお詫びするとともに、舞踊ジャーナリズム界が有能な人材を失ったことを惜しみ、ご冥福を衷心より祈ります。




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