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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.59

「最近の児童舞踊について考える

 
ー長い伝統、独特の形式を生かしてー」        
 
2002年7月24日
 

 わが国には、様々な分野、たとえば産業界などに数多くの業界団体があり、親睦と同時に研究、情報交換、会員の地位 向上、さらに関連する官庁との折衝などを行っています。
 舞踊界にも業界団体がたくさんあります。まず全国的なものとして、舞踊の種類別 に日本舞踊協会、日本バレエ協会、現代舞踊協会、そして全日本児童舞踊協会があり、それぞれが社団法人の認可を受けています。ジャンル別 にはこれ以外に日本フラメンコ協会、日本ジャズダンス芸術協会、日本民俗芸能協会がありますが、これらは現在のところ任意団体です。社団法人としてはもうひとつ神奈川県芸術舞踊協会があり、ユニークなものとしては、NPO(非営利特殊)法人であるJCDN(ジャパン・コンテンポラリー・ダンス・ネットワーク)があります。任意団体である4つのバレエ団による東京バレエ協議会も独自の存在ですが、地区や県、さらに市、区などの単位 での舞踊家の、あるいは舞踊団体による協会や連盟は、舞踊年鑑では50を少し欠けていますが、実際には、全国でその倍近い数になるのではないでしょうか。
 今回とりあげるのはこのなかの児童舞踊です。このページの読者の方は児童舞踊の会にいかれることは、特別 な関係の方は別にして、滅多に、というより全くないのではないでしょうか。児童舞踊についてこのページでは前に岐阜県中津川の平多宏之、陽子さん夫婦の、かやの木芸術舞踊学園についてとりあげたことはありますが、もう少し広い視点で児童舞踊のことを考えてみたいのです。
 幼い子どもたちが踊りをおどるということは、クラシックでもモダンの世界でもありますし、民族舞踊の世界にも少なくはありません。ただ、これは舞踊学校の生徒としてダンサーとしての通 過点であったり、大人も子どももみんなでというかたちのなかでのことです。音楽や演劇の分野には、海外にも伝統も人気もあるグループがいくつもありますが、日本のように「児童舞踊」というジャンルがあり、全国的な組織をもち、公演を行うというのは極めて珍しい現象といってよいでしょう。しかも児童舞踊団のなかには海外公演までするところもあるのです。
 ただし、児童舞踊には公式の定義はありません。コンクールなどでは、一応中学生まで(15歳未満)ということになっているようですが、作品によっては大人が出演することもあり、そう厳密ではないようです。
 児童舞踊は、いわゆる童謡に端を発し、それに踊りを振り付けたもので、それがおおやけに認められるようになったのは昭和に入ってからだといわれています。そしてそれが学校低学年の情操教育、そして体操教育の一つとしても取り上げられるようになりました。そして、社団法人になったのは昭和45(1970)年、これは現代舞踊協会よりも、日本バレエ協会よりも早いのです。会員は約450名、6ブロック(支部)とあまり多くありません。これは会員になれるのは指導者であって子どもたちは会員にはなれない仕組みになっているからで、舞踊を習っている子供はたくさんいます。
 ただ、ここであえて児童舞踊をとりあげたのは、率直にいっていろいろな問題をかかえていると思われるからです。
 7月14日、日比谷公会堂で、第50回の児童舞踊合同公演が開かれました。これは東京新聞の主催で、協会の公演ではありませんが、長い歴史をもつ、児童舞踊としては最大のイベントといっても過言ではありません。50回記念の今回は20団体、400名を超える参加、最後の合同作品にはさらに100に近い子どもたちが出演しました。
 この限りでは、盛況といえるのですが、その内容にはいろいろと考えさせるところがありました。
 なかにはアイディアあふれた楽しい作品、達者ながら子どもらしい出演者で大人が見ても面 白いものもいくつかありました。しかし、一方では子供たちが踊っている、の域にとどまっている作品も少なくありませんでした。たしかに幼い子ども、まだ経験の浅い子どもが一生懸命に頑張っているだけで私などは感動してしまいます。さらにダンスの教育や発表をとうして情操やしつけが身につけられれば、それだけでも意義はあるとも思います。
 たしかに、最後の合同作品「なつかしい童謡…そして今」は、子どもも大人も忘れてはならない、歌い続け、聞き続けなければならない、いろいろなスタイルの童謡を使っており、大変に興味はありました。
 しかし、児童舞踊というひとつの舞踊ジャンルがある以上、子どもの子どもによる子どものためのダンスにとどまっていたのではいけないとも思うのです。つまり、児童舞踊も舞踊のひとつで市民権をうるためには、そこにまず技術、そして個性と主張が必要なのです。もちろん、他のジャンルの舞踊にそれが必ずしも十分にあるとは思いませんが。
 そのあとで見た、上にもちょっと触れましたが平多宏之、陽子さんのところの公演(7月21日)では、ご子息の木原創、友里さんご夫婦の力も加わって、素晴らしい成果 を示しました。ここにはまず技術、これは単なる動きだけでなく作品を表現する技術もです。そして姿勢、すなわち作品のコンセプト、テーマ、そして教育の目的と方法がきわめて個性的なのです。したがって大人が見ても、かわいい子どもがじょうずに踊っている、をはるかに超える共感と感動をうることができるのです。
 これは現代舞踊の頭でっかちな多くの作者に爪のあかを煎じて飲ませたいくらいです。
 ほかの児童舞踊系の研究所、スタジオでもユニークで意義のある活動をしているところもたくさんあるとは思うのですが、残念ながらこのたびの合同公演ではそれが一部を除いてあまり見られませんでした。
 児童舞踊はわが国に長い歴史をもつ独特の舞踊ジャンルであり、さらに子どもの教育にとどまらずに、表現形態として優れたものをもっているのです。
  少子化もあり、舞踊のなかでも一番大変なところですが、ぜひ指導者のみなさんには自信をもって頑張ってもらいたいと思っています。
 8月1日の舞踊作家協会の公演で、一方の雄平多正於舞踊研究所の平多実千子さんが芸術監督をつとめて、「夏休みこども劇場」を上演しますし、末には協会のフェスティバルもあります。期待をもって見守りたいと思っています。




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