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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.68

「年末、年初はフラメンコシーズン?

 
多士済々のわが国フラメンコ界」
 
2002年12月10日
 

 いよいよ年の暮れ、あちこちから「第九」が聞こえてきます。このベートーヴェンの第九交響曲(合唱付き)は、わが国では年末の風物詩になっています。ただこれはわが国だけの状況で、諸外国ではこのような慣習はなく、年末によく演奏されるのは、ウィーン系のオペレッタやワルツのようです。それに対してもう一つの風物詩「くるみ割り人形」は世界的な傾向です。これは「くるみ~」では舞台がクリスマスのパーティーであり、ファミリー向きの内容であることからも当然ともいえるでしょう。いずれにしても、今年も多くの「くるみ割り人形」が全国各地で上演されています。「くるみ~」ほどではありませんが、「シンデレラ」もなんとなく年末によく取り上げられています。新国立劇場では1年置きに「くるみ」と交互に上演するようですし、今年もほかに幾つかの上演が行われています。これも、家族向きの内容だからでしょうか。
 もう一つ、わが国の舞踊の世界で年末によくみられる傾向があるのです。それはフラメンコの公演です。もちろん、「第九」や「くるみ~」は作品であり、フラメンコは舞踊のカテゴリーですから、同一には論じられないのですが、このところ年の瀬に向かってフラメンコの公演が目に付くようになっているのは事実です。
 今年も11月の末に小島章司さん、12月に入って佐藤桂子・山崎泰さんの舞踊団、長嶺ヤス子さん、そして下旬、クリスマスの時期に岡田昌巳さん、岩崎恭子さんも中旬にタブラオ公演を行います。少しさかのぼると、11月中旬には高野美智子さん、そして下旬にはフラメンコ・コンクールファイナリストたちによるビエンナーレフラメンコ・フェスティバルが開かれています。また新年1月にも碇山奈奈さんのスタジオ・エラン・ヴィタールの公演も予定されています。実は今年の1月にも小松原庸子さんの舞踊団の公演がありました。このようにわが国を代表するフラメンコの舞踊団の多くというよりほとんどが年末から年初に集中して公演を行っているのです。
 なぜこのような現象が生じているのか、そのわけは分かりません。申し合わせて冬期をフラメンコシーズンにしようとしているのではないでしょうから、偶然なのでしょうが、これは今年だけの現象ではないので、なにか合理的な理由があるのかもしれません。
 フラメンコはもともとジプシーの歌であり踊りであって、その本場はいうまでもなくスペインです。でも、世界で2番目にフラメンコが盛んなのは日本だといわれています。フラメンコ舞踊は基本的には民族舞踊のジャンルに入るのですが、今や劇場芸術の一つであり、芸術的表現の手段として技術が確立されています。そのもっとも特徴的なのは踊りながら身体を使って音を発することで、サパティアード(靴で床を踏みならす)をはじめ、ピト(指をならす)、パルマ(手拍子)などといわれるものです。さらに、体を叩いたり、杖で床をならす、カスタネットをならすなど、ダンサーの発する音はさまざまです。動きにもいろいろなものがありますが、クラシック(バレエ)やモダン、コンテンポラリーダンスほどの多彩 さや大きな動きはなく、むしろシンプルです。それだけに内面的な深い表現が特徴となり、そこからドゥエンデといわれるような激しく秘められた情熱の魅力が生まれます。それが日本人にアピールするのかも知れません。
 もともとはカンテフラメンコ(歌曲)に基づくプーロ(純粋)といわれる踊りが主体ですが、とくにわが国では、フラメンコの技法を利用して物語性のある作品を創作するケースが多く、音楽もフラメンコだけでなく、クラシックや、場合によってはポップス系の音楽が使われることもあります。もちろん、スペインにもあり、スペイン国立舞踊団の「メディア」はレパートリーとしてよく上演されています。
 今年の傾向でいうと、これまでストーリー性のある作品、具体的なコンセプトを表現する作品を追求してきた小島章司さんが「クワドロ・フラメンコ」として、フラメンコの原点への回帰をとうして将来の方向を目指していることが特筆されます。この傾向は高野美智子さんにもいえます。一時、日本的なもの、アメリカ的なものを志向していた長嶺さんも最近ではフラメンコ、ジプシーの世界に戻っています。一方、山本リンダさんや島倉千代子さんの歌など、奔放な作品作りを続けてきた佐藤・山崎さんが、少し象徴的な性格を強めたこと、さらに大ベテラン岡田昌巳さんが壮絶な人生を送ったメキシコの異色画家、フリーダ・カーロに挑戦、衰えぬ エネルギーを示しているのも注目です。碇山さんは日本的な題材、好評だった「忠臣蔵」の再演。フラメンコで日本的な題材はよく取り上げられ、岡田さんも昨年は能の「黒塚」、10月に行った鍵田真由美・佐藤浩希さんの舞踊団でも「曽根崎心中」をとりあげ、それぞれ成果 をあげています。今年の河上鈴子賞を受けた蘭このみさんの受賞作品も新内の「明鳥」。さらに、今年の舞踊批評家協会賞を受けた小島章司さんも、フラメンコに深い日本的精神性を与えたというのが受賞理由でした。
 断片的なことをいろいろと書いて来ましたが、わが国のフラメンコ舞踊界は多士済々、とくに日本的なものとの融合という点で世界的にみてもユニーク、かつレベルの高いものといえるのではないでしょうか。もっぱら外国に頼っていた男性ダンサーにも若手の実力者がじょじょに増えてきたのも嬉しいことです。
 クリスマスにフラメンコも楽しいかもしれませんね。




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