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カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

HOMEカバーストーリー > 横井茂 × 金田和洋 02

 自分のやりたいものを作るということ
横井先生は、なぜ踊りをおやめになって舞踊作家の道へ進まれたのですか?
横井 「昔、僕はスキニーボーイと呼ばれていたほど細くて、自分でもダンサーとしての力を買っていなかった。それでテレビの仕事を始めましたが当時、歌い手さんのバックで踊ることはバレエダンサーにとっては軽蔑されることで、みんな親にそれを言われたりしていた。じゃあ自分たちで舞台をやろうということになったものの、みんな貧乏で。それでドイツから来日していたサーカスに入って踊ったんです。そしてお金を集めて『オルフェ1960』を、「春の祭典」を鹿の天下取りの話にした『砦』を作りました。男性舞踊手が出演できないので僕が出ようとしたら、ダンサーたちから「先生の作品に、先生が出なければよかったのに、と言われたらどうするんですか」って言われた。世の中そういうこと山ほどありますね、あの人が踊らずに、もっといい踊り手使えばもっといい作品になったのにという…。それでも何年かは、踊りたくてうずうずしていましたが(笑)。私の場合は小牧バレエ団や他のところで勉強させていただきまして、どこにも所属せずに自分の手で自分のやりたいものだけを作る。赤字を出して、それを次の年に返して、また赤字を出してという人生ですが…。」
 
金田 「自分の作りたいものを作る時には、へんなしがらみがないほうがいいですよね。コンテンポラリー・ダンスをうちの娘がやっているんですけど、やはり自分でお金を貯めて苦心してやっています。それを見ていると、横井先生がおっしゃるとおり、そのエネルギーというか、向き合い方が違いますね。」
横井 「そういう点では、つらかったけどよかっただろうと思いますね。」

 
 どこから作品は生まれるか
作品のテーマやアイデアはどこからどのようにして生まれてくるのでしょうか?
横井 「僕の場合は社会のニュースで気になるものが頭の中にいくつか残っていて、来年はこれをやろうと突然ひらめくんです。この前の『トロイの木馬』も、2年ほど前にライブドア事件でいろいろ問題が出てきて、内部告発や社会の崩壊も今後当たり前のように起きるだろう、と。そうして、ふさわしい題材は?と考えていると、あ、トロイがそうだ、とそれを煮詰め始めていきます。その『トロイの木馬』で新国立劇場を使ったのは、舞台の奥が深いのを生かして僕は僕なりの考えでやってみたかった。劇場によって作品は違ってきますから。それを教えてくれたのは美術の藤本久徳さんで彼とは40年以上、照明の沢田祐二さんは30年一緒にやっています。スタッフに恵まれたことは大きいですね。企画を話して、一週間たって互いにアイデアを出しますが、藤本さんは僕のアイデアのほうがいいって言うんですよ(笑)。」
金田 「一緒にアイデアを出し合って舞台をつくっていくというのは理想的ですね。」

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トロイの木馬」でバイクが出てきたのは驚きました。劇場を最大限に使っていて。
横井 「トロイ軍とギリシャ軍に分かれて男が刀で闘っても『バフチサライの泉』の1幕と同じだから、そんなことしたくない。ギリシャ軍は馬で来た。それで、音楽のきっかけがわかる5人のバレエダンサーのバイク好きを集めた。あこがれのハーレーに乗って20メートルしか走らないけど、少しはギャラをもらえて好きなバイクに乗れて美味しい仕事だった、とダンサーたちからあとで聞きました(笑)。」
金田先生は最近には「ロミオとジュリエット」を上演なさってますが?
金田 「プロコフィエフの音で小品は作っていたのですが、初めて全幕の『ロミオとジュリエット』を'06年に作りました。'09年に完全オリジナル版での再演を考えています。今踊りつがれているバレエ作品を新しい視点で見直し、作品の中に内包されている違う面に光を当ててオリジナルな別の面白さを引き出せたらと思っています。まったく新しいものを作るときは、まず音楽が先にいつもあります。この曲で何か作りたいなというのがあって、そこからイメージされてくるものを膨らませながら、音を再編し、台本・演出を作り上げていきます。」
 
 
横井 「おっしゃるように音楽から発想して、踊りに作りたいという場合もありますが、僕はわりとドラマティックなものが多いですね。この前の『トロイ』ではベルリオーズのCDだけを18枚聞いて選出しました。もちろんベルリオーズのオペラ『トロイアン』の中からが一番多かったと思いますけど、もうひとつは、役が決まっているその人の顔と音楽が合ってこないとだめですね。」
金田 「曲探しってすごく重要ですが、たいへんですよね。 」
横井「そうですね。50枚買って1枚使えればいいというようなことはありますね。」

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金田和洋
Kazuhiro Kaneta
(社)日本バレエ協会理事
昭和音楽大学講師
元(財)松山バレエ団員
都立大学法学部卒。
舞台芸術学院ミュージカル科卒業後、小川亜矢子に師事。
1984年松山バレエ団に入団。古典作品のみならず、創作作品においても役に対する解釈と創造は、稀有な存在感を出し、2000年に橘秋子賞助演優秀賞を受賞。
同時に自ら主宰する「金田・こうのバレエアカデミー」を率いて指導力も発揮し、国内外のバレエコンクールにおいての上位入賞者を多数育て上げている。
また、振付けにも力を注ぎ、モスクワやサンクトペテルブルグにおいての公演も好評を得ている。
2004年同バレエ団を退団。
現在、日本バレエ協会理事、昭和音楽大学講師、東京新聞主催全国舞踊コンクール審査員。