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(2019.5.7 update)

伊藤範子 Garden vol.34

音楽と溶け合った振付は、ドラマティックで骨太で説得力があり観客を惹きつける。
今、最も注目される伊藤範子作品の数々。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

まず、文化庁芸術祭優秀賞のご受章おめでとうございます。

ありがとうございます。

舞台は「道化師~パリアッチ~」と「HOKUSAI」という見どころがいっぱいの重厚な作品の二本立てで。「パリアッチ」にしても「HOKUSAI」にしても、演出、振付はもちろん音楽、美術、衣裳、照明とすべてに関わるわけですから、たいへんな作業ですね。

たいへんですが、いろいろな方にお力頂けるのでありがたいです。たとえば有名な「パリアッチ」の音楽の場合は、知人の指揮者の方と相談してリッカルド・シャイーのCDを選んで、踊りのテンポに変えると音楽が生きないのでそのまま使いました。オペラでは最後に主人公カニオが人気女優になったネッダを刺して終わるんですが、バレエではそこからのエピローグを加えてオリジナルをつくりたかった。カニオがどんな思いでいたのかを描いて成立させたいと思いました。


 

作品づくりのインスピレーションはどこから得るんですか?

「パリアッチ」は谷桃子バレエ団の元芸術監督でいろいろ作品を創っていらした望月則彦先生から、つくってみないかと言われたのがきっかけです。「HOKUSAI」は、もともと北斎は知ってはいたんですが、ヨーロッパでは日本よりさらに興味をもたれていて詳しい展覧会をやっていました。イタリアは私にとって葛飾北斎を再発見した場所でもあります。そこで、外国から見た北斎というイメージでつくりたいと思ったんです。

エキゾティック・ジャポニスムですね。

そうです。たとえば日本舞踊をとりいれてすごく日本的なつくりにするのではなく、海外の人が日本文化を感じたらこうなるのではないか、と。

北斎は長生きしているし、エピソードに事欠かない人だから、どこをクローズアップするか悩まれたのでは?

調べれば調べるほどいろんなエピソードが出てきて(笑)。お饅頭大好きで煙草も酒もやらなかったとか、ちょこちょこ今回の作品に取り入れているんですけど、一日にご飯が一杯あれば大丈夫で、それ以外の時間はすべて描いていた、とか。恋愛もするけれどもあまり引きずらなかったんじゃないか、と学芸員の方からもお聞きした。熱しやすく冷めやすい人だったようで、だから花魁(おいらん)とかに恋しても、やっぱり描くほうにまい進したんじゃないか。

 

よく知られている娘おえいの存在にスポットを当てることはしなかったんですね。

視覚的にバレエのシーンをつくるにあたって、花魁のシーンはエンターテイメントとしても入れたいというのがありました。葛飾北斎の名を名乗るのは三十代の最後でそれまでいろいろ屋号を変えていった。それであまり知られていない彼の青年期をクローズアップできたらいいな、その頃ならまだまだ花魁とか女性に恋したんじゃないだろうかと考えました。

 

photo location

芸術祭優秀賞(関東参加公演の部)
一般社団法人 谷桃子バレエ団
「創作バレエ・15」の成果


生え抜きの振付家、伊藤範子による創作2本。葛飾北斎の若き日を描く「HOKUSAI」は、絵師の世界観を反映した衣裳・美術と躍動感あふれる振付が優れた効果を生み、有名オペラを巧みに舞踊化した「道化師~パリアッチ~」では、出演者の熱演が生き生きした人間ドラマを現出させる。いずれもバレエ団が総力を挙げて見応えある舞台に仕上げた点が高く評価された。

思い出の品

 
 
伊藤範子

伊藤 範子(NORIKO ITOU)


6歳より谷桃子バレエ団研究所でクラシックバレエを習い始め、18歳で英国Ballet Rambert Schoolへ留学。その間サドラーズウエルズシアターにてBallet Rambert 60周年記念公演にAntony Tudor振付「Soiree Musicale」のタランテラ役で出演。
スクールパフォーマンスにて「眠れる森の美女」オーロラ姫のパ・ド・ドゥを踊り卒業。
帰国後、谷桃子バレエ団に入団。
1992年に「白鳥の湖」全幕の主役デビュー。以後「白鳥の湖」「ジゼル」「シンデレラ」「ドン・キホーテ」「リゼット」「くるみ割り人形」「ロミオ&ジュリエット」「令嬢ジュリー」等の全幕の主役をレパートリーとし、多数のバレエフェスティバルに出演、バレエ団内外でプリンシパルとして活躍する。
東京新聞主催全国舞踊コンクールジュニアの部第3位、シニアの部第2位。
1995年「村松賞」受賞。
2002年よりオペラ作品の振付を手掛け、振付した作品は「カルメン」「椿姫」「仮面舞踏会」「アイーダ」「セルセ」など他多数。(新国立劇場/二期会/藤原歌劇団/日生劇場 他)
近年ではオリジナル創作作品「道化師~パリアッチ~」(谷桃子バレエ団)、「ホフマンの恋」(世田谷クラシックバレエ連盟・日本バレエ協会)、チャコット主催公演「バレエ・プリンセス」の演出・振付を行なう。「道化師~パリアッチ」は2013年のオンステージ新聞『年間ステージベスト5』に、「ホフマンの恋」は2014年と2016年『年間ステージベスト5』、2014年ダンスマガジン『年間最も印象に残ったコレオグラファー』に舞踊評論家より選出される。
2014年第46回「舞踊批評家協会・新人賞」受賞。(受賞理由:オペラの世界を舞踊とし再構築の可能性と丁寧でレベルの高い表現に対して)
2016年11月より文化庁の海外特別研修員としてミラノ・スカラ座バレエ団とバレエアカデミーに振付・演出・教授法を研修し、2017年2月に帰国。
2017年チャコット主催公演「バレエ・ローズ・イン・バレエ・ストーリー」演出・振付。
2018年谷桃子バレエ団創作公演15「HOKUSAI」「道化師~パリアッチ」演出・振付。文化庁芸術祭優秀賞受賞。『年間ステージベスト5』、ダンスマガジン『年間最も印象に残ったコレオグラファー』に舞踊評論家より選出される。
2019年1月日本バレエ協会神奈川ブロック「ドン・キホーテ」演出・振付。