(2012.9/24 update)
たぐいまれな表現力と並外れたダンステクニックで、ドラマから抽象作品までの世界を自在に行き来する酒井はな。
彼女の舞台には観客、演出家、振付家の誰もが引き込まれずにはいられない。今、最も輝いている酒井はなは現代の舞姫であり女優である。
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi
Photo : 川島 浩之 Hiroyuki Kawashima
初めて行ったバレエ教室でレオタードを借りて
去年、アーキタンツの10周年記念公演で、ウヴェ・ショルツ振付の「ラフマニノフ・ピアノ・コンチェルト第3番」が初演されました。この画期的な舞台でリード・ダンサーだったはなさんは表現もテクニックもひときわ輝いていて本当に素晴らしかった。それから出演していた大勢のダンサーたちがひとつになって、あの難しい作品を完成度の高いものにするんだという心意気が感じられて胸を打たれました。
メインのダンサー以外はオーディションで決めたそうですね。皆さん、本当に頑張ったんですね。
大変でしたけど、稽古すればするほどどんどん楽しくなっていってリズムも新しいし、あ、こうやって音をとるんだとか、踊っていくとたくさんの発見がありましたね。
ショルツは不思議な振付家ですね。音楽に合わせるというような感覚じゃなくて、もう踊りが音楽そのものでしょう。
そうなんです、だから自分も音楽そのものになれればいいいな、と。本当に不思議な作品で、身体の使い方はクラシックなのにそれとは違う、またコンテンポラリーとも違う。でも基本はすごいビシッとクラシックなんですね。稽古は約2か月ぐらい、ジョバンニ・デ・パルマさんという指導してくださる方がいらしてる時に合わせて。出演者の皆さんは自分自身のお稽古や舞台がある中でやるので、時には歯抜けになってしまったりと現実には大変だったけど、一人一人がいきいきして、おっしゃる通りみんながひとつになって踊れた。
すごい素敵な作品に出会えたねって、みんなで感謝しました。
はなさんの幅広い活躍は見ている側にとってうれしい限りです。そもそもバレエと出会うきっかけは、お母様だったとか。
5歳の頃、母がバレエが好きで近所の先生のところに連れていってくれました。初めてその教室に見学に行った時に、踊りたくて忘れ物のレオタードを借りて(笑)、ストレッチも一緒にやらせてもらって。すぐ好きになりました。
やめようと思ったことはありましたか?
小学校2年生ぐらいでしたか、一度だけ。トウシューズを履いた時、あまりに痛くて、血は出るし脂汗は出るし。だめかなと思ったんですけど、母がだまされたと思ってもう一度履いてごらん、それで痛かったらやめれば、と。おもしろいですね、履いてみると痛くなかった。もうそれからは踊りが楽しくて。そこにたまたま出稽古でいらしていた畑佐俊明先生にお会いしてすぐに先生に習うようになりました。畑佐先生は現役の時に牧阿佐美先生や森下洋子先生のパートナーを踊っていた方で、たくさんのアドバイスを頂き、そしてどんどん吸収していきました。先生は私の尊敬する永遠の師匠です。今でも畑佐先生のところで稽古を受けています。私がぶれないでいられるのは先生のおかげだと思います。特に私、いろんな作品を踊るから。
なかでもクラシックバレエは、はなさんにとっては、戻るっていう感じですか。
そうです、今の私にとってはすごく大事なパートで基本なんです。そこに戻る、ベースがあるっていう感じですね。
牧阿佐美バレエ団から新国立劇場へと活躍の場が移って、新国ではトップで主役を全部踊りましたね。
新国立劇場にはオープニングからずっといさせていただいて、古典だけでなくたくさんの作品を踊らせていただいて感謝しています。コンテンポラリーはナチョ・デュアトさんだったり金森穣さんだったり、新国でもけっこう踊る機会が多くなっていったんですね。そこで身体の動かし方なんかが勉強できて、だんだん好きになっていきまして、わりと筋肉の感じがコンテンポラリーに向いていたのかもしれないですね。
酒井はな Hana Sakaiアメリカ合衆国ワシントン州シアトル生まれ。日本に帰国後に鎌倉で育つ。
5歳からバレエを始め、畑佐俊明に師事。橘バレエ学校、牧阿佐美バレエ団出身。
14歳で牧阿佐美バレエ団公演でキューピット役に抜擢され一躍注目を浴びる。18歳で主役デビュー。以後主な主役を務める。新国立劇場バレエ団設立と同時に移籍。柿落としにより、主役を務める。クラシック・バレエを中心に活動しているがコンテンポラリー・ダンスやミュージカルにも積極的に挑戦、 新境地を拓く。進歩し続ける技術・表現力、品格ある舞台で観客を魅了する日本を代表するバレエダンサーの一人といわれている。
現在新国立劇場バレエ団名誉ダンサー、シニア・ソリスト。
村松賞新人賞、舞踊評論家協会新人賞、中川鋭之助賞、芸術選奨文部大臣賞新人賞、服部智恵子賞など受賞歴多数。
2007年舞踊評論家協会賞受賞。2008年芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、'80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。
ステージフォトグラファー 東京都出身。海外旅行会社勤務の後、舞台写真の道を志す。(株)ビデオ、(株)エー・アイを経て現在フリー。学生時代に出会ったフラメンコに魅了され現在も追い続けている。写真展「FLAMENCO曽根崎心中~聖地に捧げる」(アエラに特集記事)他。
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