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(2016.10.14 update)

中村祥子 Garden vol.32

さわやかでオープンな性格、前向きな思考で世界的プリマの道を歩んできた中村祥子。
彼女の話は華やかな舞台と同じように私たちを惹きつける。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

今、一番コンディションのいい時に日本の舞台で ――2013年、NHKバレエの饗宴で「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を踊られたのを拝見しました。パートナーはご主人のヴィスラフ・デュデックさん。お二人の共演はなかなか見られないので観客の皆さんも喜んでいました。活動の拠点を日本に移されたのですね

1年になります。日本に帰る前にはハンガリーで多くの作品を踊らせていただきました。次の年を迎える時に、やっぱり今一番コンディションのいい時に日本に戻って、自分の舞台をお客様に見ていただきたいという思いがあったので。
子供のことも考えて、主人にも相談して決断しました。

ご主人はすぐに賛成なさったのですか?

その時はもう彼もダンサー生活にピリオドを打ったというか、もう自分は十分踊ったから祥子が一番踊りたいところに一緒にいくのは問題ないと言ってくれました。


 
 

これからダンサーとして一番脂ののった祥子さんの舞台が見られるのはほんとにうれしいことです。独特のスケールの大きさと繊細さの両方をお持ちで、その繊細さはやはり日本という土壌で培われたのではないでしょうか。

私自身、そのことに気づいたのは海外にいたからだと思います。アームス、首、目線、角度。ちょうどウィーン国立歌劇場バレエで「白鳥の湖」を踊る時でした。
まだプリンシパルでもないし、主役自体、踊るのも初めてで大きな壁にぶつかって。まわりがみんな海外の方というなかでの主役だったので、なんとか乗り越えたあとにいただいたのが皆さんからの言葉でした。「あんな繊細な白鳥を初めて見た」と。その時に、そうだ、日本人らしい繊細さを自分の踊りとして表現していくことができるんだと思いました。
芸術監督のレナート・ツァネラにチャンスをいただかなければ、そこにたどりつくことはできませんでした。今回、日本に帰ってきたことも今までいろんな出会いに恵まれてきたおかげです。

 

新たなものをつくり続けていきたい

やはり“白鳥”には特別の思いがありますか?

そうですね、自分の人生の積み重ねが生きてくる感じがしますね。初めて踊ったときは恋愛もしてないし、子供も生まれていないし、私は黒鳥のような経験をしたこともありませんでしたけど(笑)、人生での出来事や感じたことが重なり、これまでの経験がプラスになって表現に結びついたということはいえます。こういう自分もいるんだという新しい発見もあって、踊るたびにおもしろくなってきています。
バレエには終わりがないとよくいわれますが、常に満足することなく新たなものをつくり続けていって、それをお客様にも楽しんでいただければうれしいです。

財政的な問題もあって、ドイツなどでは全幕物の上演が減っていますね。

そうなんです。クラシックはなくなって欲しくないですね。クラシックを踊るとネオ・クラシックやモダンがわかる。また逆にモダンを踊ることによって、クラシックの理解が深まるということもできるし、ダンサーにとってはそういうクラシックとモダンの行き来をすることは必要だと思います。
私は小さい頃からずっとクラシックを踊ってきて、ネオ・クラシックやモダン作品との出会いがありませんでした。あとで出会って知ったことが沢山あります。クラシックに比べあまり決まりがないモダンでは自分から身体を動かし、自分で表現していかなければなりません。日本のダンサーもそういう機会が与えられることでもっと自分が踊れるということに気づいてもらえるんじゃないかと思います。
クラシックは決まりごとが多いので、日本人はどうしても教本のように踊るから、型にはまってしまっていて、もったいないなと感じることもあります。もちろんコール・ド・バレエはきちんとそろえて踊らなければいけないけれど、ダンサーには、もっと自由な世界もあるんだということに気づいてもらいたいなと思うことはありますね。

 
中村祥子

中村 祥子(SHOKO NAKAMURA)


佐賀県生まれ。6歳よりバレエを始める。1996年、ローザンヌ国際バレエ・コンクールでスカラーシップ賞/テレビ視聴者賞を受賞。同年より98年までシュツットガルト・ジョン・クランコ・バレエスクールに留学し、98年、シュツットガルト・バレエ団に入団。2000年、ウィーン国立歌劇場バレエ団に入団。同年、ルクセンブルク国際バレエ・コンクールで第1位を受賞。
2001年に準ソリスト、2002年ソリストに昇格。2003年、ヌレエフ版『白鳥の湖』で主役デビュー。2006年にはライト版『眠れる森の美女』でオーロラ姫を踊っている。2006年8月、ベルリン国立バレエ団に移籍。2007年、プリンシパルに昇格。2013年11月、ハンガリー国立バレエ団にプリンシパルとして移籍。2015年秋より日本に拠点を移して活動を開始。Kバレエ カンパニー ゲスト・プリンシパル。

主なレパートリーはマラーホフ振付『眠れる森の美女』のオーロラ姫、『シンデレラ』のタイトルロール、『バヤデール』のニキヤ/ガムザッティー、バランシン振付『テーマとヴァリエーション』『セレナーデ』『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』『アポロ』『バレエ・インペリアル』『コンチェルト・バロッコ』『アレグロ・ブリランテ』、アシュトン振付『シルヴィア』、シャウフス振付『シルフィード』、ロビンス振付『牧神の午後』、ベジャール振付『これが死か』、フォーサイス振付『精密の不安定なスリル』『スリンガーランド・パ・ド・ドゥ』『ヘルマン・シュメルマン』、キリアン振付『Petit Mort』、プレルジョカージュ振付『白雪姫』、デュアト振付『ARCANGELO』、ツァネラ振付『Alles Walzer』『Beethoven OP.73』、『スパルタクス』、『ジゼル』のミルタ、『レ・シルフィード』、クランコ振付『オネーギン』のタチヤーナ、マクミラン振付『マノン』など。

Kバレエ カンパニーではこれまでに、熊川版『カルメン』のタイトルロール、『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『白鳥の湖』のオデット/オディール、『海賊』のメドーラ/グルナーラ、『ドン・キホーテ』のキトリ/メルセデス、『くるみ割り人形』のマリー姫、バランシン振付『放蕩息子』のサイレーン、『シンフォニー・イン・C』第1楽章主演、プティ振付『若者と死』の運命の女、『カルメン』のタイトルロール、服部有吉振付『戦慄』を踊っている。
Kバレエ公式ホームページ:http://www.k-ballet.co.jp/company