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(2016.9.23 update)

冨田実里 Garden vol.30

早くから将来を嘱望されていた冨田実里。
昨年、英国イングリッシュ・ナショナル・バレエで「ロミオとジュリエット」「くるみ割り人形」を指揮して英国デビューを果たしたことは、私たちにとって大きな快挙となった。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(以下ENB)での初仕事はいかがでしたか?

すごくいい経験でした。海外のバレエ団の例にもれずENBも公演数が沢山あって一人の指揮者ではやりきれないからと、ゲストで呼んでいただきました。
バレエ団とオーケストラの間ではもちろんリハーサルもゲネプロもありますが、私を呼んでくださった音楽監督のギャビン・サザーランド氏がずっと振っていらして、はい、じゃ今日はトミッツィ(冨田さんの愛称)の番、と。つまり、自分がオーケストラと初めてコンタクトをとった時は本番だったんです。ああ、外国ではこんなふうに放り込まれてやるんだな、と思いました。(笑)


 

ENBに誘われた時、まず何を思われましたか?

ほんとに夢のようでした。新国立劇場の副指揮者をやっていた時に、イーグリング版「眠れる森の美女」の指揮で来日していたギャビンさんが、私に通し稽古を振るチャンスを与えてくださいました。それが終わると、うちに来ないかと言ってくださった。こうしたらみんながハッピーになるかもしれない、と模索しながらやってきた自分のやり方を認めてもらえたのがうれしかったですね。
ENBは日本人に親しみをもっていて、日本のダンサーも活躍しています。私が行った時はジュリエットは高橋絵里菜さん、マキューシオは猿橋賢さんが踊っていました。 あちらはオーケストラのプレーヤー、ダンサーの方々もタフで、ENBの場合は「くるみ割り人形」を1か月で35回、昼夜と続けて上演するほどでした。ともかく沢山の場数があってそこで振れるということは、私にはすごくいいことでした。逆にこちらに帰ってきて、日本はそもそも本番の回数が少ないですが、緻密に積み上げていって舞台をつくるという日本のやり方も嫌いじゃないんだと改めて思いましたね。

 

指揮のスタートは吹奏楽部

冨田さんはバレエも習っていたそうですね。

もともと姉が地元のバレエ教室でやっていたのでついて行って、やりたくなったんだと思います。

ピアノを習うより先に?

音楽は母のおなかの中にいる時から聞いていたような感じで。最初は母にピアノを習うところから始めて、4、5歳ごろからほかの先生にピアノもバレエも習い始めました。
身体は堅かったんですけど、やってみてよかったと思います。音楽と一緒に体を動かしているというのがたぶん好きだったんでしょうね。

 

音大ではピアノ科だったそうですが、バレエ指揮を選んだのは?

劇音楽や舞台音楽つまり総合芸術には物語があります。その物語を音楽で表現することに、元々興味があったんです。小さい時から、お話を考えながらピアノを弾いたりもしていました。
指揮自体は、中学・高校の吹奏楽部からスタートしました。指揮は一人ではあるけれど、みんなでひとつの音楽をつくっていくことが単純に楽しくて仕方がありませんでした。みんなで一緒に演奏していると、一人で演奏しているだけでは気づくことのできない「何か」に気づける、その「何か」を探すのが好きだったんでしょうね。
あと、指揮をしていればおもしろい人に出会えそうだというのが自分を鼓舞するきっかけになりました。高校の部活を引退した後、指揮をきちんと習いたいと、大勢の指揮者を生んでいる桐朋学園の指揮教室に飛び込んでいって堤俊作先生と出会ったんですね。あんな怖い先生だということを全く知らずに(笑)。先生がバレエをやっていらしたので、その現場によく行くようになりました。

堤先生が怖いことは有名でしたね(笑)。冨田さんを指導なさって先生も満足なさっていらっしゃることでしょう。

たぶん私は最後の弟子なんです。

 
富田美里

冨田 実里(とみた みさと)


国立音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業。桐朋学園大学音楽学部指揮教室にて指揮の研鑽を積む。
2007~2008、2010~2013年度ロームミュージックファンデーション音楽セミナー指揮者クラスに参加。

2011年8月、ハンガリーの指揮マスターコースにてドナウ交響楽団を指揮して、オーケストラより特別賞を贈られる。
2012年シエナウィンドオーケストラアンサンブル<シエナ・スピリッツ>を指揮。

2013年1月、日本バレエ協会関東支部神奈川ブロックの公演にて「ドン・キホーテ」全幕を指揮してバレエ指揮者としてのデビューを飾る。同年、日本バレエ協会関東支部より発売された「バレエコンクールIN横浜 課題曲集」CD録音の指揮を全曲担当。また新国立劇場バレエ団において数々の公演の副指揮者を務め、2015年秋には英国のイングリッシュ・ナショナル・バレエより客演指揮者として招聘された。今後の活躍が注目される新進気鋭の指揮者の一人である。

指揮者の活動以外にもバレエのリハーサルピアニストを務める等、ピアニストとしてオペラ・室内楽・現代音楽等様々な分野で活動の場を広げている。

第9回日本クラシック音楽コンクールピアノ部門全国大会審査員特別賞受賞。サントリーホール20周年記念公演デビューコンサート<レインボウ21>、国立音楽大学卒業演奏会、第77回読売新聞社主催新人演奏会等に出演。

これまでに指揮を堤俊作、湯浅勇治、松沼俊彦、ピアノを木下まさみ、草野明子、ソルフェージュを三ッ石潤司の各氏に師事。