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(2016.9.23 update)

冨田実里 Garden vol.27

早くから将来を嘱望されていた冨田実里。
昨年、英国イングリッシュ・ナショナル・バレエで「ロミオとジュリエット」「くるみ割り人形」を指揮して英国デビューを果たしたことは、私たちにとって大きな快挙となった。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

演奏で人を楽しませることを母が教えてくれた

バレエの指揮は、オーケストラ、舞台上にいる踊り手とのコミュニケーション、いわば三位一体を目指さなきゃいけない。小さい時からいろいろなことにふれていらした冨田さんにとって、なによりご家族との生活はコミュニケーション力を培った場なのではないかと思いますが。

私の母は早く結婚して、24歳で姉を生むまではエレクトーンの演奏活動をしていました。私を生んだあとは、母は自宅で音楽教室を開き、エレクトーンやピアノを教えて定期的に発表会をやっていました。
それがふつうの発表会と少し違って、ステージ上にピアノとエレクトーンの両方があって、同じくらいの年の子たちのアンサンブルの曲をやったり、小学生はなぜか将来の夢についてしゃべってからピアノを弾いたり(笑)、いろんなイベントとかテーマがありました。昔からそんなふうに音楽で楽しませるということをやっていた一番身近な存在が、母でした。
覚えているのは、「私の背中を見てほしい」と言うんです。そしてすごく楽しそうにエレクトーンを弾くんですね。
母を見て、人を楽しませるという演奏を私は最初に知ったのだと思います。

 

お姉さまもお仕事を?

テレビのディレクターをしています。小さい頃から喧嘩もほとんどしたことがないほど仲良しで、今ではよく仕事の相談もし合っています。

 

表現で人を楽しませるというお母様の意思を、お二人とも継いでいるなんてほんとに素敵ですね。その若さですでにご活躍ですが、これまで迷ったり壁にぶつかったりということはありましたか?

ENBに行く前がそうでしたね。このまま指揮を続けられるかなと思っていました。ちょうど30歳手前でしたのでいろいろ考えてしまって。(笑)

 

すべての仕事にいえるかもしれませんが、家族とか理解者が身近にいてくださるというのは大事ですよね。

ほんとにそうですね。イギリスには両親も姉も見に来てくれて。うれしかったですね。

舞台づくりに必要なのは妥協ではなく共存、いいものを目指したお互いの駆け引き

さて、指揮者はいったん指揮台に立ったら孤独なうえに、みんなを引っ張っていかなきゃならないのでたいへんと言われますが。

そうですね、指揮台に立つまでの間にそれだけ準備をしておかなきゃいけないということは常に思っています。
堤先生のところからバレエの現場をのぞかせていただけることになって、他の現場にも時々お手伝いに行っていたこともありました。そこである指揮者の先生がおっしゃったんです。純音楽をやる前に舞台音楽をやりなさい、自分がやっている後ろにどれだけの人々がいるか、キューを待っている照明の方やダンサーの方々がいることがわかるから、と。
私のなかでは、バレエの指揮をする時には、自分の指揮がどう見えるかということより、音楽そのものから作品の魅力を伝えるにはどうしたらよいか、ということを意識しています。

 

踊った経験がおありというのは大きいのでは。

そうですね、あとはバレエ音楽に携わる指揮者やピアニストの方々に出会って、踊りとのシンクロによってその音楽をよりイキイキ聴かせられると知ったことも大きいです。
例えば、踊っていて爪先を伸ばす時の音と、ジャンプで出す時の音の出し方は違います。踊りの内容に意識を向けると、そこにも良い音楽をつくるためのエッセンスがたくさん詰まっているんです。それをまとめる大変さはありますが、周りから一杯のエネルギーをもらっていますので、リハーサルまで不安ですけど、本番はいつもとても楽しいですね(笑)。

 

客席にいても、音楽と舞台の生み出す一体感を感じるとほんとにうれしいです。

こちらも呼吸が合っているのがわかる時は、とても嬉しくなります。
でもその裏では、現場にいるナマの人間たちが本気でぶつかり合っているんです。新国立をはじめ、様々な場所でアシスタントから仕事をしてきた経験を通して、指揮者だけではなく、衣装さん、音響さん、いろいろな方が集まってそれぞれがアイデアを打ち出していくことが、素敵な舞台を作り出すのに不可欠だと思うようになりました。
そこで必要なのは妥協ではなくて共存すること、駆け引きなんですね。いい舞台をつくりあげるために、そういう駆け引きももっとできるようになっていきたいです。指揮者は音楽をリスペクトし、その曲にどういう振付がされているかを理解し受け止めたうえでどれだけ素晴らしい音づくりができるか、それがこの仕事のおもしろいところじゃないかと思っています。

 

dream

Q. 子供の頃に思い描いていた『夢』は何でしたか?
「漫画家!」「パン屋さん!」「ケーキ屋さん!」と毎日日替わりで将来の夢が変わっていたのが、幼少の頃。
小学生の頃は、漠然と、音楽に携わる仕事につきたいな、と思っていました。
その後、ピアノの先生でもなく、学校の音楽の先生でもなく、その他の方法で「社会で役に立つ音楽の職業」にはどんなものがあるだろう、と中学生の頃から思うようになりました。
指揮者になりたい、と初めて思ったのは高校生の頃です。

Q. あなたのこれからの『夢』は何ですか?
バレエファンの方々に音楽の魅力をもっと知ってもらうようになること。
音楽ファンの方々にバレエの魅力をもっと知ってもらうようになること。
お互いの架け橋になれるような活動をしていきたいです。