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カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

HOMEカバーストーリー > 横井 茂 × 金田和洋 03

 客席で見る楽しみ
客席で幸せな時間を過ごさせていただいて、いつも思うことがあります。表現芸術のなかで踊りは最も原初的な生命力の輝きであるということ。悲劇や暗いテーマでも踊っていること自体が生きている証で、だから客席は元気をもらえる。ダンサーや振付家の方々は踊りへの献身に生きて、踊りの世界ほど子弟の関係が密で、技術はもちろん心が直接的に伝えられる芸術はありません。
横井 「僕が舞台を降りちゃったのは、自分の作品を客席でお客様と一緒に見たかったというのがあります。それで見ていて難しい動きのところへ来ると、やめときゃよかった、もうすこしやさしくしときゃよかったと思ったり(笑)。学生たちに教えている時によく言いました。お客様は胸に鏡をもっていると思えよ、と。君が舞台から作品という明かりを出したら、君の心をわかってくれる人なら鏡が光ってくれる。逆に言えば観客の鏡をこちらに向けることをやらなきゃだめ。でもそれはポピュラー化することじゃなくて、作品の質を高めていくことだよ、と。」
 
発信する側が公演前に凍りつく時間を味わうのはたいへんかもしれませんが、一度経験したらやみつきになるんじゃないかとも思います。(笑)、いかがでしょうか。
金田 「僕は自分の所の子供たちが若いので見てるほうが緊張します。もともと教えることが好きで子供たちの踊る場を作るために振付を始めたものですから、僕も客席で見たいので極力舞台に出ないようにしているんですが、自分が舞台に出ているほうがよかったと思ったり(笑)。」
制作面から振付指導まで、すべて見なければならないのはたいへんなことですね。
横井 「僕はダンサーは絶対ほめない。公演が終わってから良かったよと言ってあげるのはいいんですが、ダンサーって生き物だから、そこがよかったよというと、踊っててそこの部分に行くと必ず意識するんですよね。」
金田 「すごくよくわかります、横井先生のおっしゃること。踊っていると、へんに意識して先生に言われたことが出てくる。流れで自然にうまくいっていたのに、意識するとそれがとぎれちゃうので、その振付の部分に行く前にそこのことを考えたり、とか(笑)。」
横井 「だから僕は言いたくても我慢している。すごくいやな先生です(笑)。」
 コラボレーション ~さらなる可能性~
今、舞踊は他ジャンルとの交流が盛んですが、横井先生は早くからコラボレーションをなさっていらっしゃいますね。
横井 「半分はクラシックダンサーで半分はモダンダンサーのグループカンパニーをやっていましたから。バレエ組もいて、僕の作品はトウシューズだけには固執していなくて必要なら履くし、必要じゃないなら履かないという…。ですから、もともとジャンルの違う人間の重なりはありましたね。『トロイ』でもコンピュータグラフィックで馬が出てくる。あれを作ったのは大阪芸大の舞踊コース出身の、コンピュータグラフィックのドクターコースの生徒なんです。うちの大学は16学科ありますから、専門だけでやるんじゃなくて当然コラボレーションがあってほしいですよね。」
 
金田 「実は僕も去年、それっぽい作品を作らせていただきました。浜松のアクトシティで初演した『龍神』ですが、マリンバをメインにオーケストラや合唱、太鼓、映像とシンセサイザー、それにバレエを組み合わせた。そういう舞台はこれから増えていくだろうと思います。バレエダンサーの場合、トウシューズでうまく踊っても、そのテクニックだけをトウシューズでやろうとしていて何を表現したいのか見えないことがある。他の踊りは比較的安定感があるからいい動きに見えるのに。ではバレエが他のジャンルとコラボやった時に、何を武器にやっていけばいいんだろうと思いもします。考えていることがいくつかありますが、ひとつの作品のなかに、花の色の違いといいますか、それぞれがきれいに、そのよさが見える見えるという構成で作品をつくってみたいというのはありますね。」


インタビュー、文
林 愛子
Aiko Hayashi
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、'80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。
フォトグラファー:川島 浩之 Hiroyuki Kawashima
ステージフォトグラファー 東京都出身。海外旅行会社勤務の後、舞台写真の道を志す。(株)ビデオ、(株)エー・アイを経て現在フリー。学生時代に出会ったフラメンコに魅了され現在も追い続けている。写真展「FLAMENCO曽根崎心中~聖地に捧げる」(アエラに特集記事)他。