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カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

HOMEカバーストーリー > 麿赤兒 02
     
早くから俳優として映画もテレビもいろいろな役で出演なさっていらっしゃいます。父性の不在が言われ、自殺者が3万人を超えている現代、一番、精力的で若い人をひっぱっていく大人の男性が自信をなくしているともいえます。そういうときに、父親の役でなくてもそこに父を感じさせる麿赤兒という存在に、演出家も映画監督はもちろん若い人も実際の父親世代も、父親のイメージを重ねているんじゃないでしょうか。
一番いやなんですけどね、父性っていわれるのが。俺はおまえの父親じゃねえって(笑)。ま、それは年のせいでしょうね(笑)。
     
厳父とか慈父という言葉がありますが、若い人たちは実際に父親がいても叱られた経験も少ないようで、だから叱られたい甘えたいという願望があると思うんです。
厳父とか慈父とか、イメージや形がよくわからないんですね。動物でいうとだからゴリラみたいなもんですよ(笑)、それならわかる。
   
ご自身は、映画やテレビの役を楽しんでいらっしゃるんですか。
年寄りの振りしたり、だんだん自然にそうなりますね。年寄りいじめんなよとか、馬鹿にすんなよとか、まだ負けないぞ、とか。馬鹿じゃないのか、俺って(笑)。ふつうのこともしゃべっていますね。それを全部信じているってわけではなくて、遊んでいるかな。どこか冗談みたいな、嘘っぽいっていうのは自分で感じますよ。ほんとの父ってどういうのって。どうあるべきか、って考えたこともないですし。
     
映画やテレビのお仕事なさって、戻るところ、ベースはやはり舞踏ですか?
そりゃ長年やってて、中毒みたいなもんだから(笑)。止められねえ、抜けられねえ、みたいな。中毒の苦しさでもあるし、中毒の恍惚でもありますからね。あとはもうどういうふうに踊りを自分に近づけるのか、踊りというものに自分が近づくのかわからないものがありましてね。踊りってどこかにあるのか、ってね、自問自答はしてますけれど。そこが土方のを踏襲している、と。存在自体が舞踏だ、とかね。そういうむちゃくちゃな論理というのはフィクションといえばフィクションで、絵描きは絵描かなきゃ絵描きじゃねえけど踊り手は立っていること自体、呼吸していること自体が踊り手だというふうな、かなりぶっきらぼうな発想がどこかから出てきちゃったんですね。
   
       
もう長い間、若い人にワークショップで教えてらっしゃいますが、麿先生は「この世に生まれ入ったこと自体が才能である」とおっしゃっています。これは一番、自己肯定につながりますよね。
そうですね、ずいぶん投げやりですけどね、あとは自分を救うためでもありましてね。ま、とにかく誰でも、何かいいところがあるだろう、と(笑)。
     
言い換えれば、誰でもダンサーになれる、ということで。
そうそう、すそ野が広すぎてね。広き門から入れ、あとはその枷(かせ)にね、どんどんはまっていくんですけど。広ければ広いほど踊りとはなんぞやと狭くなっていく。その枷はある種の刑罰みたいなもので、刑罰をどう自分で解放していくか。誰でも表現者であるという見方で表現ということを意識すれば、全部表現になる。ふつうの人でも道を歩いていてくしゃみでもすればおもしろかったり、ちょっと石につまづいている人を、それも表現しているというふうに見える。そういうところに踊りが転がっているというふうに見えれば、踊りは身近なものでもあるということは、いえますな。
身近なところから踊りを発見するということは、逆にいうと大変なことですよね。
そうですね、その「身近」があったからどうするか。何がどう転んでどういくかということがまずわからないわけですよ。なにかの拍子にちょっとした偶然と、自分が思っていることがすごくおもしろい方向に行ったりするとか、常にそういう岐路、分かれ道でウロウロしている。僕はそれが楽しいんですね。
撮影協力:葡萄屋
http://www.budo-ya.jp/
   
インタビュー、文
林 愛子
Aiko Hayashi
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、'80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。
フォトグラファー
川島 浩之
Hiroyuki Kawashima
ステージフォトグラファー 東京都出身。海外旅行会社勤務の後、舞台写真の道を志す。(株)ビデオ、(株)エー・アイを経て現在フリー。学生時代に出会ったフラメンコに魅了され現在も追い続けている。写真展「FLAMENCO曽根崎心中~聖地に捧げる」(アエラに特集記事)他。現在フリーで活躍中。