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カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

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中村恩恵 Garden vol.14

中村恩恵 どんなに曇って雨が降っていても、雲の上には太陽が輝いている

長年活躍したネザーランド・ダンス・シアターから活動拠点を日本に移して3年、中村恩恵の舞台は、さらに多くの人を惹きつけている。
凛として、たおやか。そのたたずまいから静かだが強い熱情が放たれる舞台。
彼女の話はそんな舞台と同じように、誰をも魅了する力に満ちている。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi  Photo : 川島 浩之 Hiroyuki Kawashima
撮影協力 : BankART Studio NYK

師との出会いは大きなギフト

お聞きしていると中村さんは、師との出会いに恵まれていらっしゃいますね。

自分にとって先生からいろいろ習うというのは、今やりたいというものに出会って心打たれ、意識して自分をかきたてて行動するわけでなく、自分のなかの思いがそうさせて、いつのまにか場が与えられているっていうんでしょうか。
それは大きなギフトだと思います。


NDT2でキリアンのステンピング・グラウンドを踊る。21歳のとき。
@LAURIE LEWIS

NDTでの経験を含めて中村さんのなかに強く残っていることは何ですか。

NDTはもともとお金のないところで、ダンサーが10人で自分たちの踊りたい演目のあるカンパニーを自分たちで作ろうとできたカンパニーでした。
キリアンさんがやり始めた時もとにかくポンとすぐに踊れるもの、バックセットも何もいらないもの、飛行機で着いて、衣裳に着替えたらすぐに公演が出来る様な作品が求められていました。
大事につくった一つの作品で再演を重ねて、次の創作活動の為の資金を作り出して行こうと必死でした。
私が渡欧したころはまだ,ヨーロッパが東と西に分裂している時代でした。キリアンさんもそうですが、東側の芸術家が表現の自由を求めて西側で活動をするためには、家族や祖国を捨てることになってしまう時代でした。私の同僚の中にも東側からツアー中に亡命して、そこで職を得て自分らしい踊りを追い求めてきたダンサー達もいました。頼る祖国も家族もない中で自分の芸でどうにか身を立てて生き抜いていこうというのが切実にあったと思う。
そういうところから作品をつくっていくのだということ、それがやっぱり私が海外で学んできたことといえるかもしれません。

 

相手を受け入れ、相手を尊重する

キリアン作品は今、世界中のカンパニーがレパートリーに欲しがっているほどスタンダードになっている。中村さんはその作品の踊り手で指導者であり、ご自身が振付者でもありますが、今、ダンサーに望むことがあるとしたら何でしょうか。

体重が動いたらどうやって着くかを自分のなかでコントロールしたり、はずしたいと思ったらどういうふうにはずすか、自分の身体を知っていることは基礎ですが、特にパートナリングをする時に自分がどうやって立っているかをきちんと認識できない人は他者ともうまく対峙しあうことができないでしょう。
自分の踊りはこういう踊りでこういう美意識と価値観があってこういう立ち方です、と個人のなかで完結していても、そこに留まらずにそのことをきちんと相手とシェアしたり融通をきかせたり、寛容というのかな、相手を受け入れ相手を尊重する態度が必要だと思います。
でも、寛容なだけで自分の軸がない人とか、軸はしっかりあるんだけどガジガジで狭い人っていうのは、仕事がしにくくて限定したものしか与えられなくなってしまうので、それもすごく大事なことですね。

中村さんの踊りを見た方が、宇宙のなかの無重力を感じて、どうしたらそんなふうに踊れるのか、と。

引力のある地球に生きている私たちは、重力に縛られていますし、また同時に関節の可動域などの制約もあります。
その限定された条件のなかでも力学的なルールを上手に利用する事で自由に踊る事が出来るようになります。
また、想像力を使うことが大切です。例えば自分が上昇気流によって動かされていると思いながら動くのと、そう思わずに動いているのとは、異なる質の動き方をしている事に気がつくでしょう。異なる質の動き一つ一つをアナライズして、身体の細部にわたるまで意識に入れて日々のトレーニングを積み上げて行きます。

制約がある中での作品づくりと、すべてが自由の作品づくり

ヨーロッパと日本での舞踊の在り方の違いについてはどう思いますか。

日本に帰って来て3年ぐらいしかたっていないのであまり明確にはいえませんが、ヨーロッパの職業ダンサーは、カンパニーに属するか、小さな振り付け家主宰のグループに属するか、もしくはフリーランスとして活動をしていますが、、たとえばオランダでは、政府が決めた方向で助成金を出して、文化政策に反するとなかなか活動の場がないのが現状です。
だから自分たちがアートをやっていることが政府の方針に荷担しているみたいな、うまくいえないけど、社会の中でアーティストがこういう立場にあっていいんだろうかという立場におさまらないと次の作品発表ができない。たまたま自分の方針と政府の方針が合っていればいいけれども。
日本に帰ってみると、自腹を切ってスタジオを借りてやれば誰にも何も言われることなくやりたい作品が出せて、逆にアーティストにとって素晴らしい環境だと思うところもありますね。チケット収入を求めても、ヨーロッパはチケットが安いから死ぬほど踊らないとお金にならないし。日本だったらチケットもそれなりにお客さんが買ってみてくれて…。
一長一短ですが、必ずしも日本のほうが海外より恵まれないかっていうと、そうともいえない気がするんです。