長年活躍したネザーランド・ダンス・シアターから活動拠点を日本に移して3年、中村恩恵の舞台は、さらに多くの人を惹きつけている。
凛として、たおやか。そのたたずまいから静かだが強い熱情が放たれる舞台。
彼女の話はそんな舞台と同じように、誰をも魅了する力に満ちている。
撮影協力 : BankART Studio NYK
中村さんが落ち込んだことがおありかどうかわからないけど、怪我なさったりした時にはどうやって乗り越えたか、最後にお話いただけますか。
よくキリアンさんが言っていたのは、どんなに曇って雨が降っていても雲の上には太陽が出ているって(笑)。今大変でも、もうちょっと遠いところから見たり、もうちょっと遠いところを見れば、太陽はちゃんと輝いていてただ何かがさえぎっているだけ。
もしかして自分が怪我で踊れなくなってすごく悲しんだとしても、自分の人生全体でみれば、そのことがすごいプラスになっているかもしれない。だから与えられている状況が悪い状況っていうことはなくて、常にそこから何を学んでいくかで自分にとってプラスになるんじゃないか、と。
怪我ひとつとっても、それでもっと身体の使い方が工夫できたり、違う踊りの質みたいなものが見つかったり。私は腰が悪くてヘルニアみたいな感じなんですけど、オハッド・ナハリンも同じような病気をもっていて、彼からいろんな動きを教えてもらいました。
そういう病気がなかったら深く教えてもらえなかったかもしれないし、そうやって踊ることでいろいろ感知したり経験したり感動したことを含めて、自分の身体と向き合って何が無理で何が大丈夫なのか、必要かを沢山学べるし。
ぜひ怪我もひとつのギフトだと思ってきちんと向き合って、あきらめることはあきらめてやっていくのがいいと私は思うんです。
何かを一生懸命つかんでいると、次のものがつかめないでしょう?
必死でつかんでいるものを放したら、その手には次に何か違うものをつかむチャンスがあると思うんです。
絵描きの祖父がつくった木版
これまでこまごまと集めていたものが、ほとんどしまいこまれていてどこにあるかわからない。それでも自分が目につくものっていうのは、やっぱり見たいものなんだと思います。
私の父方の祖父が絵描きでエッチングをする人でした。この木版は、たぶんエッチングにする前のアイデアを描いたもので手に乗るほど小さいんです。
もう1つは、詩人のウィリアム・ブレイクの本で、私がオランダに行っていた頃、好きでブレイクの本を沢山集めていたら、それを知った私の父が、祖父が持っていた昔々のブレイクの本をくれました。これはヨブ記について描かれたものですが、イギリスの本なんて手に入りにくかった戦前、祖父はそういうものに影響されて創作をしたのではないかと思います。
私が生まれた時には祖父はもう亡くなっていて、祖父がブレイクの絵や詩が好きだったということを私は知りませんでした。でもどこか同じようなものに興味を持っていたことをあとで知って、伝達っていうのか、祖父の精神みたいなものが自分の血のなかに続いているんだな、と感じるんです。
戦争に行かないのなら戦争を推奨する絵を描かなければならなかった当時にあって、祖父は一切の絵をやめてしまいました。それで幼稚園をやって、そこの椅子などを沢山つくっていました。もしかしたら、祖父のような”絵は描かない絵描き”のことを聞いているから、自分のなかでも、踊るからダンサーっていうことがそんなに簡単ではあり得ないと思ってるふしがあるのかもしれません。
Q. 子供の頃に思い描いていた『夢』は何でしたか?
特に、何になりたいという具体的な思いはなかったように思います。私は、豊かな自然環境の中で育ちました。子供のころは、木々の新芽の優しい色や触感、野草の花々の可憐な姿や香り、夕立の稲妻にきらりと光る遠い山々の峰の広がり、そうしたものに心を奪われていたように思います。見ているものや触れているものに心が吸い込まれていくような時には、一瞬一瞬が完結していて時間が止まっている様な感じを覚えます。
未来には未知な領域が広がって行って、そこで出会うであろう物事がどのように自分に働きかけるかは全く予測できないように感じていたと思います。
Q. あなたのこれからの『夢』は何ですか?
スーフィーの詩人であるRumiの詩です。こんな舞に、人生の中で出会うことが出来たらと思います。
Dance, when you're broken open.
Dance, if you've torn the bandage off.
Dance in the middle of the fighting.
Dance in your blood.
Dance, when you're perfectly free.
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