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カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

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TAKAHIRO Garden vol.17

TAKAHIRO 何を見て何を感じ、何を聞いて何を思ったか――そういう湖みたいなところからダンスは生まれる

シャープでキレよくスタイリッシュ、日本人ならではの繊細さと洗練で織り上げられたダンスで驚異の迫力を放つTAKAHIRO。
待望のニューヨーク・ダンス集団「THE MOVEMENT」とともに帰国したTAKAHIROが語ってくれた”ダンスの誕生”と”ダンスのこれから”はすべてのダンサー、ダンス・ファンへの贈り物だ。

魅力的なのは、思考の向こう側を求めて工夫するダンサー

あのスーパー・マリオの振付を入れたTAKAHIROさんのダンスを客席が喜んでいるのがテレビを通しても伝わってきました。ダンスはストイックじゃないと踊れない。ストイックだけど自由。
自由に踊って自分のスタイルをつくっていく。でも自分を厳しく律する精神がないとつくりあげられない。
TAKAHIROさんのダンスはそれを教えてくれます。

周りの皆さんからはそう見えるのかもしれないけれど、当の本人には普通のことで気にしてません。
たぶん欲しがりさんなんですね。ただ必要だからやる、と。
カレーを作るのにジャガイモを切ることが必要だから切る。美味しいカレーを作るのに12時間煮たほうがいいからコトコト煮るわけです。
すると、もっと自分がウキウキするものができる。自分が求めているものができるんだったら、それはなんでもない過程です。

今、ダンサーの一方で、振付家やプロデューサーの立場でつくっていらっしゃる。その時に、ダンサーに求めるものっていうのがおありですよね。

たとえば上手くても、リハーサルやりました、俺はもうできたぜって思考が止まる人がいる。
でも思考の向こう側を求めて、こうなのか?こうなのか?って工夫している人がいる。
やっぱり一週間ではわからないけど、1ヶ月後、1年後にすごく違いが出てくると思うんです。
そういう人はどんなダンサーであっても魅力的ですよね。

 

日本人の集団性や繊細さを守りながら、世界に向けて広げていくこと

今、日本の経済力が低迷しているせいか、若い人が内向きになっている。
海外に学びに行く人も減っている。日米を行き来して、感じることはありますか。

ダンスシーンは最近、子供たちが熱くなっているけれども、日本では大人、子供に限らず型っていうのを感じます。それぞれの持っている爆発力がありますが、そこが抑制された型の深みを感じる。
それは我々が日本人であることと関係していると思う。
日本人が食べてきた物とか、育ってきた文化がある、と。
たとえばバラバラでも1人1人がエネルジェティックだったらよしとされる個人主義のアメリカと、みんなで合わせるのが得意な日本と。日本というアイデンティティが強くあるのは誇りです。
これを失ったら世界に取り込まれてしまうだけですから。個人主義がいい、実力主義がいいといいますけど、日本人の本来もっている力は、集団性だったり繊細さであったりするわけです。

でも、時代は今、広がっています。日本が内向的になっているうちに世界はどんどんコネクトして、アメリカもヨーロッパもくっついていっている、そのなかで日本は島国していると取り残されてしまう、というか孤立してしまう可能性もあると思います。だから、自分たちのここだけは譲れないという部分を守りながら、世界に広げていく部分もあったらいいなと思います。特にアメリカに住んでいますと、向こうで見る日本人がやっぱり減りました。韓国の方とか中国の方が増えましたね。
でも、そんなに大変なことじゃないんですよ、ニューヨークでも何万円かあれば行けます。
今、日本の経済が低迷しているかもしれないけど、僕たちは選べますからね。

本当におっしゃるとおりですね。

選べる。選べない人たちは世界にたくさんいる。だからどれだけ恵まれているのかっていうことも逆に知って欲しいです。
持っているんだから。その持ち物が減っただけなんです。それでやればいいという話で、世界に行かれる。ダンスだってその持っているもので、新しいものをつくっていけるんです。

ダンスは練習さえしていれば最高のものがつくれるわけじゃない

TAKAHIROさんの通った暁星は厳しいカトリックの学校で有名ですが、グッチ裕三さんとかモト冬樹さんのような方も輩出しているおもしろい学校で。皆さんそれをバネにして出て行くって感じですか?

そうですね、抑圧もあり厳格だったけど、自分のアイデアはダンスを始める前の蓄積が具現化されているんです。ダンスって練習だけしていれば最高のものがつくれるわけじゃないと思う。
アイデアとか創造力はどこからくるかっていうと、ダンスとそれ以外の日常生活で、自分が何を見て何を感じて、何を聞いて何を思ったかという湖みたいなところからくるものです。
僕の場合ダンスに関わってこなかった17年、18年間が非常に重要で、肥料になっているわけです。

学校はお好きだった?

好きでした。っていうか学校しか知らなかったですね。
僕は東京の下町に育ちましたが、大学に入るまで自分で渋谷も新宿も原宿も行ったことはなかったし、テレビ番組も出てる人もよく知らなかったです。

どんな少年だったんですか?

今の僕から見ると、よくもまあ外界から守られて育ってきたなぁと。無菌君っていうんでしょうか(笑)。
だから成長は遅いです。小さい頃聴いていたお母さんと子供の歌とかカセットテープが5つしかない。
それしかエンターテイメントがないから、それをずっと大人になるまで聞き続ける。子供のポンキッキの歌とか、今でも音楽テープに入っていて聞いています。
新しいものをどんどん取り入れるタイプじゃなくて、それしかないものを何度も何度も聞いて、あとは想像の世界でウフフフって補って、毎回足していくタイプ。
テレビよりラジオを聴くタイプでした。

 
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi  Photo : 長谷川香子 Kyoko Hasegawa