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カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

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首藤康之 Garden vol.20

首藤康之 年齢によって踊りを変えていく。その時に自分自身の人生を差し出せるような作品を踊りたい

神秘的パワーあふれる舞台に思わず吸い込まれ、劇場をあとにする時には心が爽やかさと幸福感に満ちている――首藤康之は私たちにそんな時間をもたらしてくれる数少ないダンサーだ。
鋭い感性と深い視座のもとに、彼が発する豊かな言葉。それはすべての若いダンサーへの贈り物である。

もっと自由に、シンプルに、正直に。自分といい関係を築いていくために。

首藤さんにとって、ダンサーであること、それを継続することの条件はどんなことだと思いますか。

20代の頃は、なんで40歳になって踊っているんだろうって不思議に思ってました。
実際に自分がその歳になると、同い年のバリ島の先生もおっしゃっていましたが、肉体的な衰えっていうのは実はあまり感じてないんです。舞踊に対する考え方が深くなればなるほど、表現することもすごく楽しくなった。でもやっぱり演じたり表現したりすることはとても勇気がいることなんですね。理解が深まれば深まるほど怖くもなるし、勇気ももっと必要になるんですけど、でも表現することによってもっと自由になる。それにはシンプルに、正直になるってことでしょうね。

正直ってむずかしいことですね。

とてもむずかしいですね、シンプルで正直であることっていうのは。1人だけならいいのでしょうけれども、いろんな人と共存していて、いろんな社会、文化や宗教もあるところで生きていますから。情報も過多で人間関係も複雑になって、シンプルではいられない正直ではいられないという瞬間も出てくるわけですね。だから勇気も必要なんです。
昔はよく、体型のキープとか肉体的衰えとかを考えて、年を重ねるのはとても怖かった。以前より跳べなくなってはいるんでしょうけど、感覚としてはそれほど感じていなくて、常に肉体的にも精神的にも進化しているような気がするんです。ちゃんと稽古していればキープするのはそれほど難しいことではないです。それ以上に進化させるというのはとても努力が必要だと思う。でも僕はそれも今は楽しんでやっていますけど。

今、世の中にはネガティブな空気があふれています。
首藤さんのなかに、もしネガティブな感情が生まれた時、首藤さんはそれをどういうふうに取り払いますか?

もちろん人間ですからネガティブな感情をもつことはありますが、そんな時には、どうして自分がここに立っているのか、ほんとうに何をやりたいのかを考えますね。
昔から何かにぶつかった時は、稽古をもっともっとしています。基本レッスンをすごくする。
ネガティブになるっていうのは何か自分自身の軸からはずれた時とか、自分自身を見失った時ですよね、だからほんとに自分が何をやりたいのかってことをちゃんと思い出して、ふつうに基本練習をすることでだんだん本来の自分に戻っていかれるっていうことはあると思います。

 

最後に、最近、踊り以外のことで感動したことはありますか?

毎日感動してます(笑)。美味しいもの食べれば感動するし、舞台も毎日発見の連続で。
たとえば今日レッスンしていても新しい身体の使い方とか感じ方を知って、40年も生きてきてどうして気づかなかったんだろうとか。
だから僕は自分の身体と今も会話中ですね、うまくいく時もあればいかない時もあって、とにかく話して話して話し続けなきゃいけないな、と。僕自身の身体と僕とは別物なんです。
そこでうまい関係を築くために、いろんなものを見たり感じたりしているということですね。

favorite

思い出の品

このニジンスキーのブロンズは、僕が東京バレエ団を2004年4月1日、退団する時にバレエ団の団長、佐々木忠治さんからいただきました。もともとは佐々木さんがベジャールさんから贈られたもので、「あなたが持っていたほうがいいんじゃない」と僕にくださった。
バレエ・リュスの時代のブロンズで、ニジンスキーが踊ってセンセーションを巻き起こした「バラの精」で、すごい貴重なものだと思います。もちろんニジンスキーという人には会ったこともないのですが、あの有名な写真を見るだけで、自分だけの頭の中の劇場で彼が踊り出すような感じがします。僕達ダンサーだけじゃなくて、街を歩いている若い人でも、ニジンスキーの名前だけは知っていたりする。これはすごいことですね。
バレエ団を退団する時に、佐々木さんから「いろいろ教えてね」と言っていただきました。僕自身もやめる時に、踊ってきたレパートリーや振付家から直接教わったことを伝えていきたいという思いがありました。今はベジャールさんに会ったことのない団員が3分の2ぐらいになりましたし。
今度は、キリアン さん の作品で指導に行きますが、伝えることを大事にしていきたいと思います。

 

dream

Q. 子供の頃に思い描いていた『夢』は何でしたか?
劇場に住むこと。

Q. あなたのこれからの『夢』は何ですか?
一つ一つ丁寧に、責任を持ちながらダンスの創作活動に関わり続けていき、それを通して社会とつながりを持っていきたい。

中村恩恵×首藤康之
『Shakespeare THE SONNETS』

中村恩恵と首藤康之がシェイクスピアの『ソネット』を現代の視点で読みなおしたデュオ作品を新制作します。
豊かな芸術性を持つ二人のアーティストが作り出す豊かな空間は、幅広いお客様にダンスをお楽しみいただける機会となるでしょう。

日程:2011年9月30日(金)19:00 / 10月1日(土)18:00
会場:新国立劇場 中劇場
構成・演出:中村恩恵 / 首藤康之
振付:中村恩恵
出演:中村恩恵 / 首藤康之
衣裳協力:ヨウジヤマモト

全国公演について
兵庫県立芸術文化センター 2011年10月15日(土) 14:00開演
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス
TEL:0798-68-0255 http://gcenter-hyogo.jp/

 
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi  Photo : 川島 浩之 Hiroyuki Kawashima