D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

カバーストーリー

ダンスの世界で活躍するアーティスト達のフォト&インタビュー「Garden」をお届けします。

HOMEカバーストーリー > vol.22 森 嘉子

森 嘉子 Garden vol.22

森 嘉子 地面を感じなければアフロは踊れない。そして音楽を自分の血にすること、肉にすること

変わらないのは美しい身体のラインだけではない。
森嘉子氏は、静かに湧き上がる情熱で内から音楽を生みだして、今も私たちを魅了し続ける。

自分で決めた道は迷わず進むしかない

平成12年に芸術祭大賞を受賞した先生の作品「遠い道」は、見た人みんなが感動しました。
シリーズ化されている「マイロード」もあります。”道”は森さんの作品を語るうえでのキーワードですね。

自分で決めた道は絶対に迷わず進むしかないですものね。人からは古いっていわれるかもしれない。でも古さとか新しさっていうのは、踊る側の心にあると思うんですね。音楽にしても時代的には古い音楽でも私は古いと思わないんですよ。ジャズなんかでも。

だからスタンダードっていう言葉がある。永遠性がある。胸打つ音楽っていうのはいつになっても変わらない。

日本の童謡にしてもそうですよね。

森さんの舞台は踊りが進むにつれて、ぐいぐいと盛り上がっていって、見ているほうも引き込まれてこちらの気持ちも高まっていく。それは先生ご自身が振付の時点と舞台の上ではいわゆる精神というものが違っているということで。

そうですね、舞台では無になっているんでしょうね。
1時間前と今とではまた自分の精神が違う。だから照明の方が笑うんですけど、私は4回リハーサルをやらないと本番まで行けないの。ちゃんと通してやらせてください、ってどこも手抜きしないの。だからつきあう方は大変です。そのへんでいいんじゃないですか、いやそうはいかない、これができないなら私は踊りませんって(笑)。
舞台の袖から一歩出た時に、なんかこう目の周りに映るものが変わると、私ダメなんですよ。

つまり集中して目指しているもの、舞台を本番とするなら、そこに意識をもっていく時に、目指しているものと違うものが見えるというのは森さんにとっては。

いやなの(笑)。

 

いつもおきれいでお若くて。自分も含めてですが、年配で、森さんのようにボディタイツが着られるなんて考えられません。森さんは生まれつき筋肉の組成やコントロールする力が優れていらっしゃるんですね。

いやいやそんな、チビだし(笑)。

父の琵琶演奏は今でも踊りの助けに

どのようなお稽古をなさっているんですか?

水曜、土曜、日曜は生徒と一緒にバーレッスン全部やらないと、気がすまないんです。結局、踊ることが好きなんです。やはり母がいたから今の私があるんですね。私の父親は筑前琵琶をやっていたんですよ。女優の高峰美枝子さんのお父さんと同門で、馬込の高峰さんのところへよく連れていかれました。私、琵琶を聞くのが大好きで。雑賀淑子さんも琵琶をやるので、どこかに繋がりがあるのねといっているんです。

生まれた時から琵琶を聞いていらしたんですね。

ちょうど戦争の時にね、「壇ノ浦の戦い」を父が弾いているときに空襲になって。警戒警報が鳴っている真っ暗のなかで弾いていたんですが、結局その琵琶を持たないで防空壕の中に入った。そして焼けちゃったんですよ、家が。

森さんの音楽体験は本当に豊かで、もともとのベースは邦楽なんですね。

それが自分の今の踊りを助けてくれていると思います。彭城先生の影響で、私もお仕舞いをやったりいろいろ学んでリズムもも違うことを知りました。

 

西洋舞踊、特にバレエは上に上にと、いかに地上から離れていくかを目指しますが、森さんの踊りは下へ下へと。

下ですね、大地を踏みしめて。振り付ける時に音楽をみんなに聞かせて、これをどういうふうにあなたたちは考えているの、メロディじゃなくて、その底にあるものをまず受け取ってちょうだいというんです。地面を感じないとアフロは絶対踊れないから。そして音楽を自分の血にしなきゃいけない、肉にしなきゃいけない。
アフロをやって、最近はファドやカンツォーネをやっていますが、どれもブルース系で心の音楽なんですね。ファドも黒人がポルトガルに行って、時代を経てできあがった。アフリカからの音楽が根底にあるものはどこかで結ばれている、そのなかに自分は入り込むなって見えていましたから、ファドもカンツォーネも、今、私の道の途上にあるんです。

舞踊家であると同時に自分でつくらなければならないのが現代舞踊ですが、振付のインスピレーションはどこから得るのですか?

創ることが好きなの。踊りを見るのも好きだけど、絵を見ること、お芝居を観ることが好きで、よく俳優座はお客で行くんですよ。あとは展覧会。絵画の色使いとか、陰影がすごく勉強になるんですよね。
絵は誰のでも見ますが、特にモネの色彩が大好きななんです。自分でああいうふうな絵が描けたらいいなと思ったこともありましたね。

健康維持のためには、何かなさっていますか。

自分ではヨガをやっています。昔、カルメン・シターロメロにアフロを習った時、彼女から、ヨガをやるといいと勧められて始めました。ほんとうにおもしろくてずっと続けています。40年前、腎臓を悪くしてネフローゼになって漢方薬を飲んで回復したんですが、今も腸の働きがよくないので漢方を飲んでいます。塩分はひかえめにして、運動をしたあとにいきなり脂ものを食べないように。気をつけているのはそのぐらいで、あとは特別なことはしていません。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi  Photo : 長谷川香子 Kyoko Hasegawa